入選作品選考評
手塚 由比(建築家、株式会社手塚建築研究所代表取締役)
原田 真宏(建築家、芝浦工業大学建築学部建築学科教授、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO主宰)
赤松 佳珠子(建築家、株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ代表取締役・パートナー、法政大学デザイン工学部建築学科教授)
篠﨑 淳(建築家、株式会社日本設計代表取締役社長)
石井 秀樹(建築家、石井秀樹建築設計事務所株式会社代表取締役)
奥野 親正(構造家、株式会社久米設計環境技術本部構造設計室室長)
北 典夫(建築家、鹿島建設株式会社専務執行役員 建築設計本部長)
宮原 浩輔(一般社団法人東京都建築士事務所協会相談役、株式会社山田守建築事務所代表取締役社長)
伊香賀 俊治(慶應義塾大学名誉教授、一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター理事長)
●東京都建築士事務所協会会長賞
3rd MINAMI AOYAMA

設計|三菱地所設計

 テナントオフィスビルという通常であれば、効率のみを優先することに陥りがちなビルディングタイプにおいて、アウターテラスやポケットパークなどの新しい価値を挿入させた点を高く評価した。まず1階にふたつの大通りを繋ぐ貫通通路を整備しているのが素晴らしい。貫通通路に緑豊かなポケットパークを設けることで、オフィスを使わない人にも街を回遊する楽しさを提供している。オフィスエントランスを前面道路ではなく、貫通通路の途中に設けているのは、路面の店舗にとってもプラスであるし、オフィスで働く人びとにとってもプラスになっているのが感じられる。ポケットパークに隣接したレストランも路面店のような趣を備え、貫通通路をより豊かなものとしている。そして何よりもこのビルを特徴づけているのは、オフィス階に2層吹き抜けのアウターテラスを設けていることである。アウターテラスは、高層階で働く人にとって憩いの場となるだけでなく、街の風景を豊かなものにしている。オフィスへの熱負荷を軽減するのにも役立っている。アウターテラスに隣接するインナーテラスの窓が開閉可能で、自然通風が可能となっているのも良い。今後のテナントビルのプロトタイプにもなり得るプロジェクトである。(手塚 由比

●東京都知事賞
MUFG PARK / LIBRARY

設計|三菱地所設計

 大手銀行が長年所有してきた緑豊かな広大な土地が市民に無償開放されることになった。それに伴って、植栽や歩道の再整備などを含んだ敷地全体のランドスケープデザインと、これも誰もが使うことのできる図書館の建築デザインが設計者へと委託された。多種多様な樹木や園路、広場からなる適切なランドスケープデザインと共に、それと一体的に考えられた図書館建築の巧みな配置計画がこの作品の肝である。
 南側にひろがる芝生広場と北側の球技場の間に図書館は配され、それぞれの落ち着き/活動の空間性の違いを程よく区分しながら、園路に沿って三日月状にカーブしたボリュームがエッジとなることで、芝生広場をまとまりのある都市空間として成立させている。
 また、この三日月形状は端部をテーパー処理された軽やかな片流れ屋根であり、その勾配によって豊かな樹々の緑と芝生の空間をパノラミックに望みつつ、内部空間に懐のように落ち着いた一体感のある空間性を生み出し、同時に深い軒は芝生広場に直接面した、なんとなく皆が居付きたくなる縁側のようなテラス空間も生み出している。
 そのモデストな佇まいは、市民にもたらされた得難い都市空間こそがこのプロジェクトの果実であることを静かに主張しているようでもある。そんな公共性への深い洞察をもつ作品として高く評価した。(原田 真宏

●リノベーション賞・一般部門一類 最優秀賞
花重リノベーション

設計|MARU。architecture

 審査はまず設計者の事務所から始まった。事務所は、上野にある通りに面した古家。道に面したシャッターを全開し、そのまま事務所として使っている。クライアントは事務所の前を通りかかりこの仕事を依頼して来たという。プロジェクトは事務所から歩いて僅か数分のところ、この距離感がこのプロジェクトを成功させた大きな要因のひとつであろう。このプロジェクトは登録有形文化財に指定された花重を保存しながら、地域の人が立ち寄れるカフェとして再生したもの。敷地の奥半分の建屋を壊し、庭として再生しつつスチールのフレームを増築している。フレームは、将来的に変化し続けるものとして存在するために、無垢のスチールを精緻な継ぎ手によってボルトで接合してできている。果たしてそこまでお金をかける必要があったのだろうかと思ってしまうほど、精密機械の精度で出来上がっている。恐らくその緊張感が、古家の持つ歴史に共鳴し、このプロジェクトの魅力を高めている。フレームにはテラスが設えられ、外部でお茶を楽しむのに適した影を提供している。歴史を刻んだ古家と精緻なフレームと緑が相まってこのプロジェクトの価値を高めている。古家は、ジャッキアップして基礎から丁寧に再生され、未来へと繋がるものになっている。実はこのプロジェクトでより手間暇がかかっているのは、増築部より古家の方であろう。そこにかけられた時間がこの建築の価値として積み上げられ魅力となっているのを感じた。(手塚 由比

●リノベーション賞・一般部門一類 優秀賞
ナミトツキ 大洗の民泊ダイニング

設計|G ARCHITECTS STUDIO、Japan. asset management

 大洗の海は、夏には多くの人で賑わう観光地である。しかし、オフシーズンということもあるのか、海岸線から少し入った商店街は閑散としていた。その商店街にある「ナミトツキ」は、木造2階建の元酒屋を飲食店+民泊(店舗併用住宅)に再生させたプロジェクトである。
 元の建物は1980年代の木造ポストモダン建築で、それらのほとんどが保存の価値なしとして取り壊されつつある中、ローコストで断熱や防水性能をアップさせながら、慎重に周囲の建物を参照し、DIY的試行錯誤を繰り返しながらトタンに「もらい錆」を敢えて発生させた外壁仕上げにするなど、周りに溶け込み、目立ちすぎない佇まいとしている。1階はオープンキッチンのカフェと、裏側には民泊の入口と小上がりのスペースがあり、民泊利用者の有無によってカフェ空間が拡張できる工夫を、そして2階は良質な和室であった設えをそのまま生かした、シンプルで居心地の良い民泊となっている。
 限られたコストの中での取捨選択や、この場所での建築としての佇まい、そして社会的な意義など多様な課題に対する設計者のストラグルが、この建築に収斂し、名もなき建築を居心地の良い街の拠点として見事に再生させた。優秀賞・リノベーション賞にふさわしい作品である。(赤松 佳珠子

●新人賞
残像の家

設計|ウルトラスタジオ

 この住宅の本質は地域との関係性などという他律的な要因よりも、南小路側で外部と接しつつも、むしろ独自の論理体系に従って全体が構築されているその自律性にあると言っていいだろう。
 空間中心には螺旋階段を内包した黒く太いシリンダーが据えられ、室内のどこにいても直接視線の通ることのない「あちら/こちら」が生み出されている。その同時に見ることのできないあちらとこちらの(主に)壁面には「対」となるような関係性を有した形状や造形が配されている。シリンダーを中心に移動する中で、同時には見ることのなかったそれらの要素が、「残像」のようにイメージの連関を次々と示し、実空間に重なるように知覚上の空間次元が生み出されるという論理だろう。
 一見して、誰もがポストモダン期のデザインを思い出すだろうが、この若い作家たちは、通常ネガティブに捉えられがちであったポモ作品の良き面を引き継ぐことを積極的に意識している。それは色彩や記号であり、そして一般には理解し難いかもしれない自律的論理への傾倒でもある。自身がクリエイターでもある施主は、「分からないから」この建築家たちに依頼したと述べていたことが印象に残る。
 「説明可能であること」を、どこか絶対条件のように捉える建築デザインの現状を相対化するような、ある種爽やかな開き直りの姿勢と、そこに確かに内在するデザインの本質に、新人賞に相応しい新しい可能性を感じ評価した。(原田 真宏

●住宅部門 最優秀賞
段庭の家

設計|ニジアーキテクツ

 東京都内の住宅地、袋小路最奥部に位置する住宅建築のプロジェクトである。敷地購入時には、どん詰まりの敷地目一杯に建てられた旧家屋が存在し、隣家との離隔の少なさから、薄暗く空気の通りもすくない状況にあったという。これに対して設計者は、雛壇状に北側上空へ向かうにつれてオフセットしていくボリュームとして住宅を設定することで、南側に立体的な環境的ボイドを生み出し、これによって豊かな自然光と風の抜けを確保し、それらを住空間へと取り込むことが可能な計画としている。
 雛壇状のテラスをハイキングするように登り、2段目のテラスから室内空間へと直接アプローチをするが、通常のように隔離された玄関空間を持たない形式は、古い民家の縁側アクセスのようで、GLからの高さによって調整されつつも地域社会との距離の近い関係性を生み出している。
 さらに、内部空間の床よりも外部テラスの床が高く設定されることで、外部からの程よい奥性を生み出している点や、下層にいくほど外部環境の支配率が低く、逆に上層に向かうほどに外部の支配率が高まるグラデーショナルな空間性の変化が複数の環境選択性を住人に与えている点など、確かな暮らしの豊かさを生み出してもいた。空間量的にも予算的にも限定された中で、以上のように非常にエフェクティブな空間形式を生み出しており、高く評価した。(原田 真宏

●住宅部門 優秀賞
Concrete Log House

設計|IKAWAYA建築設計

 本作品の最大の特徴は、周辺の庭と連なる中庭を核とする空間体験にある。比較的交通量の多い道路の角地に、建物は道路境界に寄せてL型に配置されている。道路側の開口は絞られ、丸太型枠による打ち放しコンクリートの力強さと、ツタの絡まるアイアンメッシュの柔らかさが、存在感を保ちつつ、住宅街に穏やかな印象を与えている。
 中庭の眺望は、敷地境界を越えて周辺の家々の庭へと連続し、豊かな広がりと奥行きを感じさせる。建屋建設前に慎重に調整しながら植えられたシマトネリコや、凝った作りのツリーハウス、外部階段といった要素が、この緑の深さを強調し、樹冠を歩くような体験を可能にしている。床が700mm下げられたリビングからの地面に近い視点からは、より親密で没入感のある緑の眺望が得られる。丸太型枠の一部は再利用され、庭の塀やスタジオの壁面に転用されており、素材への高い意識もうかがえる。庭を内部に取り込む工夫や、エントランスからリビング、テラスから中庭へと展開する一連の流れなど、この深い緑を軸に、日常の中に豊かな体験を織り込んだ空間構成が高く評価される。(篠﨑 淳

●住宅部門 優秀賞
sunny bitters 葉山の住宅

設計|プラスマイズミアーキテクト

 コージーで大らか、葉山の緑豊かな丘陵の裾野にある70㎡の小さな住宅だ。
 敷地はT字路の突き当りで、道が旗竿敷地のアプローチへ繋がり、背後の丘陵へと連続する。その線上に片持ち梁で持ち出したガラス張りのリビングが浮いている。スラブ下が抜け、旗竿敷地特有の行き止まり感はない。過剰な地業を避けて、基礎を後退し、隣地との段差を安息角でかわしたことによる。
 180°ガラス張りのリビングは、敷地段差もあり周囲の視線は気にならない。小さな空間を開放し過ぎると落ち着かないことがあるが、ここにはコージーな居心地の良さが同居する。立体的に円環する一繋がりの内部空間は、各部が家具的に積み重ねられる。ガラス箱の片持ち梁はキャビネットへ吸収されスキップフロアの段差のきっかけとなる。開口部の軸力を担う柱は60mm角で既成アルミサッシ枠を隠す方立となり、露出する構造柱には棚板が取りついて棚と同化する。素材選定も多様で、印字された野地板のベニヤがそのまま軒天として露出する。
 統一したルールは見当たらない。各部が無理なく身体に纏わりつく寸法と脱力感で積み重ねられている。それがこのコージーな心地よさと大らかさの共存を生んでいるのだろう。実際に体感しないと感じえない不思議な魅力のある作品であった。(石井 秀樹

●住宅部門 優秀賞
関口の家

設計|川口琢磨建築設計事務所

 この建築は、都心の一角、神田川から坂道を上った高台の縁に立ち、小さな特性を丹念にすくい上げ、空間構成へ拡張して、この地に住まうということを享受した住宅である。
 地形の特性である緩やかな高低差を内部の小さな床段差として生かし、関口の由来となる「堰」と解釈している。堰は流れを分岐し領域を繋げる役割に着目し、内外空間を各場が床段差や地形によって分けられながらも緩やかに一体的に繋げている。
 露地から始まる空間は、小さな段差を上がり下がりする玄関と中庭、食堂と中庭、ピアノ室と坪庭へと内外に連続して視線を分岐し、落ち着きをもたらしている。視線は内部だけでなく露地や中庭、坪庭、そして隣家の庭、高窓からの借景、隣棟間の余白へ、街へと広がりを見せている。
 小さな堰が紡ぐ繋がりのなかで、構造素材を上に向かって場ごとにコンクリートから木へと緩やかに折り重ねて変容させ、見事に空間のリズムをつくりあげている。材料手配の都合により利用した小径の木架構は架構に軽快さを与えている。
 この関口という土地の小さな変化を生かし、さまざまな工夫を積み上げ、空間、視線を変化させてリズミカルに豊かな空間を生み出した建築作品を高く評価したい。(奥野 親正

●住宅部門 奨励賞
鵠沼の家

設計|矢野建築設計事務所

 高低差のある敷地にふたつのボリュームがハの字に配置され、適度に街へと開いた構えの30代と70代の二世帯住宅だ。多世代の住まい方の変化、コロナ禍での先行き不確定さ、子世帯夫婦の将来の働き方の多様さなど、その時々に応じて編集し続けられる柔軟性を追求した住宅だ。地域のコモンズへの可変も想定されている。
 敷地に建てられた9本の壁柱は、梁・柱・壁の配筋要領として臥梁のない自立壁とし、水平剛性を負担するRCスラブも最小限に抑え、壁柱に木材や鉄骨を掛け渡した改変が容易な構造としている。RC壁が棚柱となり床高さを調整でき、地形の起伏に対しても柔軟に対応できる自由度が高い構成だ。
 木梁はRC壁にアンカーボルトで接続し、サッシ納まりは躯体に絡めず外断熱の厚みの中で納めるなど、構造から仕上げに至る部材同士の関係をパラレルに捉え改変の柔軟性を担保する。複数のアクセスと回遊性のある空間構成はさまざまな用途へ対応できるよう考えられたものだ。
 建物配置、構造、空間構成、部材選定からディテールに至るまで一貫して将来の柔軟性、さらには地域のコモンズへの可能性を追求し、多くのスタディが繰り返されたことが容易にうかがえる。設計者の誠実な姿勢がとても清々しく、奨励賞に相応しい作品だと思う。(石井 秀樹

●住宅部門 奨励賞
代々木参宮橋テラス

設計|竹中工務店

 都心の閑静な住宅街に挿入された4階建ての賃貸集合住宅。86戸を一旦4棟に分節した上で、敷地形状に馴染み、視線や風が内外を流れるよう外部廊下で緩やかに繋いでいる。,br>  本計画の最大の特徴は「フライングコリドー」と呼ばれるこの立体緑道にある。ロ字配置により生まれた中庭の2–4階レベルに、有機的に揺らいだ線形を持つ東西縦貫路と、そこから住戸入口に向けて腕を伸ばす南北のアクセス路が浮遊している。気泡のように空いたボイドの底やコリドー上のそこかしこに配置された緑が、移動に伴う景観の変化を生むと共に住戸のプライバシーを高めており、単なる移動空間を超え、コミュニティ醸成にも資する快適な立体中間領域となっている。廊下とバルコニーを滑らかに繋ぎ一体感を生むスラブラインや、北側住戸の採光・通風に配慮してやや南に寄せた縦貫路等、全体に施された、さりげなくもきめ細かな配慮に設計者の力量を感じる。,br>  また深い軒、高い断熱性を持つ外皮設計、自然換気ガラリや高効率な各種設備システム・太陽光発電の採用等により、居住者のQOLを高めると同時に脱炭素を促進。計画者が目指した「次世代型健康住宅」が高い次元で実現できている。(北 典夫

●一般部門一類 奨励賞
URまちとくらしのミュージアム ミュージアム棟

設計|設計組織ADH

 ⽇本の集合住宅の歴史において重要な役割を果たした「団地」を展⽰するのための施設である。敷地は「URまちとくらしのミュージアム」として、国の登録有形⽂化財である旧⾚⽻団地のスター棟と板状住棟がミュージアム街区を形成しており、その核となるミュージアム棟が今回の審査対象建物である。「空間標本箱」と称しているように、同潤会代官⼭アパートや晴海⾼層アパートなど団地黎明期のさまざまな住⼾が復元展⽰され、ミュージアム街区に向かって開かれた⼤きな窓によって外部からも住⼾内を眺められるようになっている。
 来館者は展⽰物である住⼾の中に⽴ち⼊って空間そのものを体験できるという⼤変ユニークな建築博物館で、単に展⽰物やモニターに映し出される動画などを眺めるだけでは分からない、当時の⽣活感までもが蘇るような貴重な建築体験が得られ、審査員の⽴場を忘れてつい⾒⼊ってしまう現地審査であった。建築が決して出しゃばらず、標本箱として機能しているという点で優れた作品といえよう。
 延べ床1,700㎡余りのささやかな規模のミュージアムだが、階⾼や単位住⼾⾯積、間取りもそれぞれさまざまな団地の住⼾がひとつの建築空間・エレベーションに違和感なくまとめられていることも評価したい。(宮原 浩輔

●一般部門一類 奨励賞
「丸太」と「高床」

設計|若松均建築設計事務所

 この建築は自然あふれる高度1,200m、敷地面積約5haの山中にある。既存小学校の林間学校施設内に建ち、豊かな環境と一体的に結び付けた宿泊棟である。
 周囲の木立のように林立する「丸太」の柱を立て、前面の広場から裏の森へ繋がる広い「高床」を浮かし、深い軒を載せただけのプリミティブでシンプルな構成は、木造特有の建築スケール、重厚な存在感、透明さを備えている。丸太、木材という自然素材のもつ肌触りや香りは、都心から訪れる生徒たちに温もりと懐かしさというより新鮮さを抱かせ、森の木々の生命力、その息吹を感じさせる。丸太に抱きつき、相撲の鉄砲のように突き押し、木のいい香りのする高床を駆けめぐる。覆いかぶさる深い軒のもと、霧のなかで車座になって集う。日常から離れた原始的な風景で過ごす山と直に触れ合った空間体験は、生徒たちを成長させ、記憶に強く残っていく。
 自立させた丸太架構は目通し390mm丸太をそのまま使用して必要な加工のみ施し、金物を一切現わさず、単純な納まりとすることで、針葉樹本来の肌感や匂い、力強さを残している。
 この原始的な自然と建築を一体化させ、生徒たちの活動を伸びやかに促し、成長させる空間を生み出した建築作品を評価したい。(奥野 親正

●一般部門一類 奨励賞
REDO JIMBOCHO/神田神保町武田ビル再生

設計|渡邉明弘建築設計事務所

 神田神保町にある築49年の5階建て小規模雑居ビルを耐震化し、インキュベーション型レストラン、コワーキングスペース、シェアハウスとして再生した複合施設である。
 敷地は、耐力不足と老朽化が進み、修繕で延命している古い中小規模ビル群と、それらを一掃して再開発した高層ビルが対峙する都心の一角にある。機能的・経済的に再生が難しい旧耐震基準の小規模雑居ビルの躯体形式を残し、柱の増し打ちと減築による軽量化によって耐震補強し、外壁は「剥がし放し」仕上げによって味わいのある外観となっている。
 耐震補強専門の建設会社が立ち上げた建物再生事業のモデルケースとして、従来型の設計監理の枠を超え、事業主・不動産コンサルと建築・事業計画の2軸で、企画から竣工まで協業し、単なる利回り確保に止まらず、街を巻き込みながらの事業となっている。シェア的なプログラムと設計手法によって、街の記憶、質・スケールを引き継ぎつつ、修繕と再開発の二項対立を象徴する敷地と建物における再生のモデルケースとなっている。(伊香賀 俊治

●一般部門二類 最優秀賞
城西大学坂戸キャンパス23号館(JOSAI HUB)

設計|日建設計

 広大な郊外型キャンパスにおける複合機能棟による再整備計画である。分節されたRC造7階建て講義・研究・実験機能の足元2層をキャンパスコモン「JOSAI HUB」に充てている。
 かつて正門からの人流のクッションであったゲートパビリオンを撤去し、新設した開放的なガーデンの先で、鉄骨造の伸びやかな庇、ガーデンに呼応する明るい中庭や貫通通路が、学生たちを自然とコモンに招き入れている。
 2層分の大らかなコモンスペースは、全周をフルハイトのガラスで囲った上に内外のレベル差をなくすことで周辺環境と視覚的に一体化。学習エリア、カフェ、ラウンジ、学生支援等の機能を仕切りなく配置することで多様な居場所がつくり出された。さらに外周壁からコア、柱型、家具に至るまで、空間全体が柔らかと滑らかさに満ちている。この流動性はスキップボイドにより高層部まで引き上げられており、施設全体を豊かな交流と創発の場にするデザイン手腕は見事である。
 今後、隣接して設ける広場およびそれを囲う開放廊下「JOSAI RING」と連結されれば、キャンパス全体の格子状配置が同心円的連環構造に転換され、計画者の意図通りにここがキャンパスの交差点HUBとなり、キャンパス全体の更なる活力向上が期待される。(北 典夫

●一般部門二類 優秀賞
三菱ケミカルScience & Innovation Center本棟

設計|竹中工務店

 里山のふもとに広がる広大なキャンパスに点在する研究機能を集約し、研究・厚生施設を再構築する総合化学メーカーの研究拠点である。
キャンパスの軸線となる樹齢50年のケヤキ並木を挟んで、新築の研究棟と既存施設をリノベーションした厚生棟の間にガラス屋根を架けることで、自然とつながる新たな地域の結束点が創出されている。
 新築の研究棟では、ケヤキ並木の生育に配慮し、樹冠に沿わせた外壁形状と、ガラス屋根のルーバーによって内部に木漏れ日を落としながらの緩やかな日射制御が行なわれ、ブラインドの使用頻度が抑えられ、視覚的にもケヤキ並木と一体となった自然を内包するワークプレイスが実現できている。
 厚生棟にリノベーションされた既存施設と新築の研究棟の間には、ケヤキ並木の間を縫うようにガラス屋根で覆われたプラザが配置され、外部でありながら内部のように研究者が往来、滞留・休患しながら自然を享受できる場が創出され、研究者を自然の中に引き込み、リフレッシュしながら新たな発想を生み続けることができるまさに「持続可能なひらめきの森」になっている。
 以上のようなさまざまな取り組みによって、CASBEEでは最高位Sランク、ZEB Oriented、WELL Goldの認証も取得している。(伊香賀 俊治

●一般部門二類 優秀賞
戸田建設株式会社 成田工場

設計|戸田建設

 戸田建設のPCa製造工場と、そこで生産されるPCa部材ユニットで構成された事務棟。人手不足対策や労働環境改善など、建設業界が直面する問題への解決策のひとつとして、躯体工事のPCa化の需要増大を予測。それに向けて生産能力の向上と建物・生産設備の高度化を目指したスマートファクトリーである。
 完成したPCaが整然と並ぶ外部ヤードでは橋形クレーンが走行し、屋根下では天井クレーンとコンクリート搬送トロリーが行き来する。その内外が交わるクロスオーバーゾーンでの必要最大高さを確保した端部から、なだらかな弧を描いたシンプルな大屋根が印象的な姿を見せる。
 事務棟は、工場全体の中枢機能を担うと同時にPCaのショールームとしての機能を持つ。PCaの躯体に対し、内装はモジュール化を図った同一スパンの木質系仕上げとし、その壁・床・天井の二重の間を空調で活用した合理的な「Box in Box」の構成としている。
 日本の建設業界が抱える構造的問題は多くの要因が絡み合い、簡単には解決し得ない閉塞感を生み出している。そんな中、この先の未来を見据えながら、確かな技術を基にし、新たなチャレンジを行う姿勢や総合的な質の高さが審査員から評価された。(赤松 佳珠子

●一般部門二類 奨励賞
春日部市新本庁舎

設計|久米設計

 老朽化・分散化していた市役所機能の統合と旧病院跡地を利活用した新庁舎である。まちづくりの一環として歩道拡幅整備が進むメインストリートに面した広場を囲うように、市民利用の機能を新たに加えた2階建の独立棟を配置することによって、まちとの連続性を感じさせつつ「市民の居場所が庁舎の顔」となっている。
 その背後に配置された庁舎は水害対策と施設アクセシビリティの両立を図るため、1階を駐車場とし2階以上に市役所機能を持ち上げた計画となっている。この庁舎と高さを抑えたアプローチテラスと大階段を緩やかに結ぶことによって、広場と庁舎との立体的な繋がりを生んでいる。
 月1回のひろばイベント時には、市役所へのアプローチテラスは、恰好の観覧席になり、庁舎の前に構える市民の居場所、平面・断面的に生み出された適度な場の距離感、内外共に回遊しやすい動線計画によって、心地よく集い親しみの湧く新しい庁舎像が実現できている。
 さらに、BELS最高位ランク5つ星(ZEB Ready相当)を取得すると共に、屋上にはPPA事業による129kWの太陽光発電設備を装備するなど、SDGs未来都市・ゼロカーボンシティ春日部のシンボルにもなっている。(伊香賀 俊治

●一般部門二類 奨励賞
ジンズホールディングス東京本社

設計|髙濱史子小松智彦建築設計

 この建築は、使う人が工夫しながら働きたくなる能動的な環境を目指し、働き方を実験できる新社屋として地上9階建てのビルを一棟借りしてフルリノベーションしたオフィスである。
 会議室の床を抜き、仕上げを剥がして生まれた余白を、美術に触れて使う人の発想と創造を刺激させる3階の美術館×オフィス。上部の中央既存スラブを剥ぎ取って設けた「Open ART Tube」と呼ぶ吹き抜けとダイナミックな内階段などによるクリエイティビティを高める仕掛けちりばめた5〜8階のワークエリア。外部の空気に触れながら文字通り地に足をつけ、外部の方も利用可能なカフェを併設してまちと繋げた1階エントランス。「種ベンチ」という折り畳み式ベンチを使って、原っぱのように1人でも大人数でも使う人の発想で自ら自由な使い方ができる多様な働く場のランドスケープと呼ぶ2階。そして、ウェルビーイングとコミュニケーションを促進し、そこ生まれるアイデアの共有・発展を図ったオフィスには珍しいフィンランド式サウナを設けた9階。
 これらの仕掛けを将来解体予定のビルに対して極力既成の仕上げや躯体を解体するだけで成立させてクリエイティビティを高め、ベンチャー魂を取り戻そうと試みたリノベーション建築を評価したい。(奥野 親正

●一般部門二類 奨励賞
ジューテック本社ビル

設計|鹿島建設

 ジューテック本社ビルは、関東大震災後に復興資材の販売から出発し、現在では建築資材の全国的な供給を担う企業が、創業100周年を機に起業の地・新橋に建てた記念的な本社建築である。煉瓦、コンクリートと時代ごとに素材の魅力を引き出してきた旧本社の記憶を継承しつつ、「人と自然が共栄する時代の生き方をつくる」という企業理念の表出を、現代的な建築素材としての木造に託している。
 建物は新橋赤レンガ通りに面し、都市に穏やかな表情をもたらす木架構の佇まいが印象的である。構造的には木造と鉄骨造を明快に分節したハイブリッド構成とし、水平力を鉄骨造に集約することで、木造部は長期荷重のみに対応。これにより、ピン接合によるシンプルなディテールと高い施工性が実現され、凛とした空間が創出された。また空調や照明も、この木架構を引き立てるよう丁寧に設計されている。
 構造分節は明快で汎用性の高い手法であるが、それだけでなく、鉄と木の構成比、排煙・避難計画との整合も含め、小規模都市型オフィスとしてのバランス感覚の巧みさが際立つ。本計画は、木造多層建築の都市への展開事例として、今後の設計に多くの示唆を与えるものである。(篠﨑 淳

手塚 由比(てづか・ゆい)
建築家、株式会社手塚建築研究所代表取締役
1969年 神奈川県出身/1992年 武蔵工業大学卒業/1992-1993年 ロンドン大学バートレット校(ロン・ヘロンに師事)/1994年 手塚建築企画を手塚貴晴と共同設立(手塚建築研究所に改称,1997年)/1999年– 東洋大学非常勤講師/2001年– 東海大学非常勤講師/2006年 カリフォルニア大学バークレー校客員教授/2023年–東京大学非常勤講師
原田 真宏(はらだ・まさひろ)
建築家、芝浦工業大学建築学部建築学科教授、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO主宰
1973年 静岡県生まれ/1997年 芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了/1997〜2000年 隈研吾建築都市設計事務所/2001〜02年 文化庁芸術家海外派遣研修員制度を受け、ホセ・アントニオ&エリアス・トレースアーキテクツ( バルセロナに所属)/2003年 磯崎新アトリエ/2004年 原田麻魚と共に MOUNT FUJ I ARCHITECTS STUDIO 設立/2008年 芝浦工業大学准教授/2016年 芝浦工業大学 教授
赤松 佳珠子(あかまつ・かずこ)
建築家建築家、株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ代表取締役・パートナー、法政大学デザイン工学部建築学科教授
1968年 東京都出身/1990年 日本女子大学家政学部住居学科卒業/1990年 シーラカンス(のちC+A, CAt)に加わる/2002年 CAtパートナー/2016年 法政大学デザイン工学部建築学科教授/現在、CAtパートナー、法政大学教授、国土交通省社会資本整備審議会委員
篠﨑 淳(しのざき・じゅん)
建築家、株式会社日本設計代表取締役社長
1963年 東京都生まれ/1986年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1988年 同大学理工学研究科修士課程修了後、日本設計入社/2003年 チーフアーキテクト、2015年 執行役員フェロー、2019年 取締役常務執行役員を経て、2020年現職
石井 秀樹(いしい・ひでき)
建築家、石井秀樹建築設計事務所株式会社代表取締役
1971年 千葉県生まれ/1995年 東京理科大学理工学部建築学科 卒業/1997年 東京理科大学大学院理工学研究科建築学科修了/1997年 architect team archum 設立/2001年 石井秀樹建築設計事務所へ改組/2012年~一般社団法人 建築家住宅の会 理事
奥野 親正(おくの・ちかまさ)
構造家、株式会社久米設計環境技術本部構造設計室室長
1968年 三重県生まれ/1991年 明治大学工学建築学科卒業/1993年 明治大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了/1993年 久米設計
北 典夫(きた・のりお)
建築家、鹿島建設株式会社専務執行役員 建築設計本部長
1958年横浜市生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、鹿島建設株式会社
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
一般社団法人東京都建築士事務所協会相談役、株式会社山田守建築事務所代表取締役社長
1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社
伊香賀 俊治(いかが・としはる)
慶應義塾大学名誉教授、一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター理事長
1959年生まれ/早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了/(株)日建設計 環境計画室長、東京大学助教授、慶應義塾大学教授を経て、2024年より現職/専門分野は建築・都市環境工学/博士(工学)/日本学術会議連携会員、日本建築学会副会長(2020〜21年)
カテゴリー:東京建築賞