段庭の家
設計|ニジアーキテクツ
第51回東京建築賞|住宅部門 最優秀賞
南側外観。
  • 南側外観。
  • GL+3,140の家事室より南方向を見る。
  • ダイニングキッチン。東方向を見る。左上部は浴室。
  • 周辺図
  • 断面図
  • 配置・1階平面図
  • 構造図
建築主:
非公開
表彰建築士
事務所:
ニジアーキテクツ一級建築士事務所
施工:
株式會社山菱工務店
所在地:
東京都
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
W造(在来)
階数:
地上2階
敷地面積:
93.30㎡
建築面積:
43.75㎡
延床面積:
73.07㎡
竣工:
2022年8月
撮影:
新建築社写真部
設計趣旨:
 いつでも敷地全体で陽の光を目一杯浴びることができる家をつくりたいと考えた。
 敷地は都心からアクセスの良い住宅密集地にある。土地は小割りになっており、敷地は接道わずか2mの旗竿地で、面積も小さく、建蔽率・容積率も厳しい。周囲は家が立て込んでいるため、斜線最大ボリュームで建物をつくっても、採光や通風は期待できず、残った庭も狭く暗くなりかねない。
 そこで、陽の光を全身で受けられるよう、床面積は最大限確保しつつ北側に向かって徐々にセットバックしていく階段状のボリュームとし、そのすべてが庭となるような計画とした。敷地に入るとウッドデッキの庭は、段々の丘のようにレベルを変えながら最上段の屋上まで連なっている。
 内部は、外部の段のリズムに呼応するようなスキップフロアとなっており、内外のそれぞれの段が近づき合って存在している。家全体で受けた陽の光は、内部のスキップフロアの隙間から下階まで降り注ぐ。アプローチから連なるすべてのウッドデッキはそれぞれ室内の延長として過ごすための場所となり、床面積を超えて無限の広がりを感じる。
 ウッドデッキと屋内の床は等価に存在し合い、敷地全体に存在する段が庭となり家となる。(原田 将史、谷口 真依子)
原田 将史(はらだ・まさふみ)
ニジアーキテクツ
1977年 東京都生まれ/2002年 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒/2002年~2012年 手塚建築研究所勤務/2012年 Niji Architects 設立/2014年 ニジアーキテクツ一級建築士事務所設立・共同代表/2014年~日本工業大学非常勤講師/2015年~2016年武蔵野美術大学非常勤講師/2016年~ 都立新宿高等学校キャリアガイダンス講師/2025年~工学院大学非常勤講師
谷口 真依子(たにぐち・まいこ)
ニジアーキテクツ
1978年 兵庫県生まれ/2001年 武庫川女子大学文学部英米文学科卒/2001年 積和建設神戸(現積水ハウス建設)勤務/2007年 菅匡史建築研究所勤務/2009年 アトリエ・天工人勤務/2010年 椎名英三建築設計事務所勤務/2014年 ニジアーキテクツ一級建築士事務所設立・共同代表/2015年~株式会社家根源・取締役/2025年~ 大阪電気通信大学非常勤講師
選考評:
 東京都内の住宅地、袋小路最奥部に位置する住宅建築のプロジェクトである。敷地購入時には、どん詰まりの敷地目一杯に建てられた旧家屋が存在し、隣家との離隔の少なさから、薄暗く空気の通りもすくない状況にあったという。これに対して設計者は、雛壇状に北側上空へ向かうにつれてオフセットしていくボリュームとして住宅を設定することで、南側に立体的な環境的ボイドを生み出し、これによって豊かな自然光と風の抜けを確保し、それらを住空間へと取り込むことが可能な計画としている。
 雛壇状のテラスをハイキングするように登り、2段目のテラスから室内空間へと直接アプローチをするが、通常のように隔離された玄関空間を持たない形式は、古い民家の縁側アクセスのようで、GLからの高さによって調整されつつも地域社会との距離の近い関係性を生み出している。
 さらに、内部空間の床よりも外部テラスの床が高く設定されることで、外部からの程よい奥性を生み出している点や、下層にいくほど外部環境の支配率が低く、逆に上層に向かうほどに外部の支配率が高まるグラデーショナルな空間性の変化が複数の環境選択性を住人に与えている点など、確かな暮らしの豊かさを生み出してもいた。空間量的にも予算的にも限定された中で、以上のように非常にエフェクティブな空間形式を生み出しており、高く評価した。(原田 真宏)
原田 真宏(はらだ・まさひろ)
建築家、芝浦工業大学建築学部建築学科教授、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO主宰
1973年 静岡県生まれ/1997年 芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了/1997〜2000年 隈研吾建築都市設計事務所/2001〜02年 文化庁芸術家海外派遣研修員制度を受け、ホセ・アントニオ&エリアス・トレースアーキテクツ( バルセロナに所属)/2003年 磯崎新アトリエ/2004年 原田麻魚と共に MOUNT FUJ I ARCHITECTS STUDIO 設立/2008年 芝浦工業大学准教授/2016年 芝浦工業大学 教授