都市・街・建築──まちづくりと建築社会制度 第7回
建築密度の規制(その1)
河村 茂(都市建築研究会代表幹事、博士(工学))
建築密度の規制とは何か
【密度規制の意義・役割】
 各種の都市機能が多数立地し、地区によっては複合的に集積する大都市中心部などにおいて、都市機能を十全に発揮させることで円滑な都市活動を維持しながら、都市生活の面においても安全で快適な都市環境を実現しようとすると、建築物を主体とした土地利用の状況と都市施設サービスとの調和が課題となる。すなわち、市街における密度規制の果たす意義・役割のひとつとして、民間を中心に展開される建築活動と、公共による都市施設整備との間に整合性を確保するとともに、都市構造の面においても、地域的な均衡が図れるようにする必要がある。
 これらの調和、整合と均衡を図るには、大きくふたつの視点に留意する必要がある。
 ひとつは、円滑な都市活動の展開に向け、都市機能の維持・増進を図ることである。とりわけ商業・業務地等においては、建築ストックの質・量(用途、延べ面積)と道路など公共施設の整備状況との均衡が求められる。たとえば、集積する建築ストックの量に比し、道路の整備が十分でないと道路混雑を招くし、道路を介して供給処理される水道・下水道や電気・ガス等の都市施設の整備が十分でないと、都市活動の低下を引き起こしてしまう。また、住宅地においては、建築密度を適切に設定することで、都市における通勤通学などの鉄道輸送力等との調和が求められる。アクティビティの高い近代都市においては、都市構造を規定する土地利用と交通が、都市づくりの両輪となっており、相互の整合性を確保することがとりわけ重要となる。
 もうひとつは、地域状況に応じ適切に密度配分を図ることで、都市環境を土地柄に相応しく維持・向上させていくことである。地域における建築敷地内のオープンスペースと、道路や公園・緑地また自然地の分布状況との、均衡の取れた配置構成が求められる。また、土地の高度利用が求められる中心市街においては、道路や公園緑地等のオープンスペースが、市街地環境形成に果たす役割は大きいが、建築物の規模・形態が市街地空間の開放性に影響を与えていることにも留意する必要がある。
 建築敷地内の空地は、①ゆとり感を醸す(開放)スペースとして存在するだけでなく、②日照や採光・通風を確保するための環境衛生スペース、③騒音や振動また悪臭やプライバシー侵害など、生活公害を抑制するための緩衝スペース、また、④火災による延焼拡大を防止するための防災スペース、⑤洗濯場や物干し場、駐車や荷捌きなど、各種生活活動のために必要となる生活利便スペース、そして⑥植栽のための緑地スペースであったりするなど、建築敷地内の空地は実に多様な機能を有している。
 また、生活実感としても、緑やオープンスペースの少ない街は潤いに欠けるし、ヒートアイランドなど地球環境温暖化現象の影響も強く感じられ暮らしにくい。このように市街地環境の水準を決める大きな要素として、建築敷地内における空地の確保がある。また、建築物の規模・形態は、市街地空間の開放度を規定することになるので、地域に応じ建築物の密度をコントロールすることの意義は、市街地とりわけ中心市街地において大きい。
 以上述べてきたように、市街地の密度規制には、大きくふたつの側面があることに留意する必要がある。まとめてみると、ひとつは都市活動の円滑化に向け、都市構造との見合いで都市施設整備との関係を、また市街地空間構成の観点からは土地高度利用との関係を、それぞれコントロールする側面であり、もうひとつは安全で健康で快適な都市生活に向け、地域特性をふまえ、公的オープンスペースの整備状況などとの絡みで、建築敷地内の空地をコントロールする側面である。
図❶ 建蔽率規制のイメージ
出典:国土交通省HP「建築基準法(集団規定)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907399.pdf
図❷ 壁面線の指定イメージ(隣地境界線沿い(左)と前面道路沿い(右))
出典:国土交通省HP「建築基準法(集団規定)」(前出)
図❸ 容積率規制のイメージ
出典:国土交通省HP「建築基準法(集団規定)」(前出)
密度規制の目的・方法──建蔽率、壁面線、容積率
 次に、市街地の密度規制の方法であるが、その手法は目的に応じ大きくふたつに分類される。
 ひとつは、市街地において都市環境を保持していくため、建築敷地内に空地を確保するべく、建蔽率を規制(図❶)する方法がある。これはいわば平面的な密度規制である。なお、空地確保のための手法としては、「建蔽率」を規制する方式のほかに、敷地境界から建築物の外壁までの間に、一定幅の空地を確保するため、「壁面線」などを指定(図❷)して規制する方式もある。
 建蔽率方式は、建築物の設計自由度は高くなるが、敷地内における空地の位置が特定できず、素人目には規制を守っているのかどうか判然とせず、違反の是正もしにくい。また、敷地規模が小さくなると、規制基準を満たす空地はとれていても実態上は死地と化し、規制目的の実現という観点からすると有効な規制となりにくい。
 一方、壁面線などで外壁の後退距離を規定する方式は、一種の庭確保の制限とみることもでき、地域住民の所得水準などに関係し、敷地の規模や形状等にばらつきが少なく、しかも地価水準も安定している場合、たいへんわかりやすい規制で、空地確保の面からも有効な方法であるが、地区内の敷地の規模・形状等にばらつきがある場合(わが国の大都市はこうした状況にあるものが多い)は、設計の自由度を縛ったり、規制が公平でなくなるなど、大変窮屈な規制となり、違反建築が続出する恐れがある。
 もうひとつは、円滑な都市活動を確保するとともに、あわせて市街地の環境を維持していくため、建築物の容量つまり「容積率」を規制する方法である(現実には、容積を正確に算出することは繁雑となるため、容積のかわりに延べ面積を指標にとっている)。この目的に沿った密度規制の手法としては、「容積率(延べ面積)規制(図❸)」のほかに、欧米のように居室数とか利用人数を直接規制する「利用密度規制」という手法もある。
 容積率規制は、住宅対策や労働者対策(ひとり当たり住宅床面積とか、ひとり当たり事務所床面積など、経済力を反映した形で生活水準などとして規定される)などが十分でないと、結果、室内の人口密度が高まり、不健全な室内環境の形成につながる危険性をはらんでいる。また、工場・倉庫やアトリウムのように、階高の高い建築物またその部分は、外部空間の内部化にもつながり、良好な市街地環境の形成という観点からは問題が生じる場合もでてくる。このような弱点を抱える容積率規制であるが、運用が簡便なところから、わが国では、この容積率規制(正確には、延べ面積規制)という手法を採用している。容積率制は、その特性として建築物の計画設計の自由度を確保しつつ、土地利用(建築物等の集積)と都市施設整備(都市サービス)との調和を図る点にある。
建蔽率規制
【目的】
 市街地環境の水準を決めるひとつの大きな要素として、オープンスペースの確保があげられる。市街地におけるオープンスペースの整備において、公園や道路等の公共空地の果たす役割は大きいが、身近な地域においては建築敷地内の空地の果たす役割も、これまた大きい。地価が高く財政にゆとりのない自治体においては、建築敷地内にいかに空地を確保し、これをいかに市街地環境の向上へとつなげていくことができるか、ということが大きな課題となる。
 建築敷地内の空地は、単なるスペースとして存在するほか、日照や採光・通風を確保し、騒音、悪臭またプライバシー侵害など、生活公害の防止や、火災による延焼の防止に寄与するだけでなく、洗濯場や物干し場などの生活活動や植栽のスペースであったり、さらには駐車・駐輪や荷捌きのためのスペースであったりと、多種多様な役割、機能をもっている。
 しかし、わが国においては、これらの空地に対し機能別に基準を設け、それぞれに確保することはしておらず、整備される空地の形態は設計の自由度の範疇にとどめ、一般的にはこれらを一括し、単に地上空地を確保するにとどめている。近年、こうして確保される空地の一定割合を、公開したり緑化するよう指導する自治体が増えてきている。
【空地確保の方法】
 空地確保の方法としては敷地面積に対する建築面積の割合を一定範囲内に抑える建蔽率規制の方式と、敷地境界から建築物の外壁までの距離を、一定以上確保するため壁面線等を指定する方式のふたつがある。
 わが国の場合、特に、大都市においては計画開発された住宅地を除くと、土地保有の状況また所得水準の面において地域内には、さまざまな階層の人びとが混在して住んでいるのが実態で、敷地規模・形状等は不揃いであることが多く、壁面線等による規制方式は、敷地の規模別に規制内容を変えるならともかく、一律に同じ内容の規制を及ぼすことは困難である。そこでわが国の空地規制は、一般的には建蔽率方式をとっており、壁面線等の指定方式のひとつである外壁後退距離による制限は、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域または田園住居地域内の一部の地区において、条件が整った場合について、建蔽率制限に加えて採用することができる仕組みとなっている。
 このほか街区内の建築物の位置を整え、その環境の向上を図るため必要がある場合、特定行政庁が壁面線を指定することもできる。また特定防災街区整備地区と防災街区整備地区計画等において、防災機能の確保等を図るため、壁面の位置の制限が定められる場合もある。
表① 用途地域等の指定建蔽率
出典:国土交通省HP「建築基準法(集団規定)」(前出)
表② 指定建蔽率の緩和
出典:国土交通省HP「建築基準法(集団規定)」(前出)
【建蔽率の規制内容】
 規制の内容であるが、比較的地価水準が低く、良好な居住環境を有する住居専用型の用途地域と田園住居地域、また屋外での作業・資材の集積等のスペースを必要とする工業専用地域については、建蔽率は30~60%まで10%刻みに4種類のメニューが用意され、都市計画でこれらの中から選択し指定する仕組みになっている(表①)。
 逆に、地価が高く土地高度利用が求められる商業地域や住居地域など用途混在型の用途地域においては、50%~80%の比較的緩い制限がかけられる。なお、防火地域等の指定と絡め、耐火建築物など一定の延焼防止性能を有する建築物などには緩和規定がある。このほか壁面線等の指定がある場合などで、特定行政庁が安全上・防火上・衛生上支障がない、と認め許可したものは建蔽率制限の限度を超えることができる(表②)。
【建蔽率の規制の緩和】
・建築物が街区の角にある場合、または防火地域内などにある耐火建築物等の場合
具体には、建蔽率制限の適用において、防火地域(法53条第1項第2号から第4号までの規定により、建蔽率の限度が8/10とされている地域を除く)内にある、以下に掲げる①に該当する耐火建築物、これと同等以上の延焼防止性能を有する建築物、または準防火地域内にある①若しくは②に該当する耐火建築物または準耐火建築物、これと同等以上の延焼防止性能を有する建築物、このほか街区の角にある敷地またはこれに準ずる敷地で特定行政庁が指定するものの内にある建築物については、通常の建蔽率に1/10を加えた数値を規制値とする。これに加え、この耐火建築物等の要件と街区の角等にある敷地というふたつの要件を、それぞれ満たす建築物については、通常の建蔽率に2/10を加えた数値を規制値とする。

①耐火建築物またはこれと同等以上の延焼防止性能(通常の火災による周囲への延焼を防止するために壁、柱、床その他の建築物の部分および防火戸その他の政令で定める防火設備に必要とされる性能をいう。②において同じ)を有するものとして政令(135条の20)で定める建築物。
②準耐火建築物またはこれと同等以上の延焼防止性能を有するものとして政令(135条の20)で定める建築物。

・隣地境界線に関係し壁面線等の指定がある場合
隣地境界線から後退して壁面線の指定がある場合、または法第68条の2第1項の規定に基づく条例(地区整備計画条例)で定める壁面の位置の制限(隣地境界線に面する建築物の壁またはこれに代わる柱の位置および隣地境界線に面する高さ2mを超える門または塀の位置を制限するものに限る)がある場合において、当該壁面線または壁面の位置の制限として定められた限度の線を越えない建築物(ひさしその他の建築物の部分で政令(135条の21)で定めるものを除く)で、特定行政庁が安全上、防火上および衛生上支障がないと認めて許可した建築物は、その許可の範囲内において、建蔽率制限による限度を超えることができる。

・前面道路等に関係し壁面線等の指定がある場合
次の①②③のいずれかに該当する建築物で、特定行政庁が安全上、防火上および衛生上支障がないと認めて許可した建築物は、その許可の範囲内において、建蔽率制限による限度を超えることができる。

①特定行政庁が街区における避難上および消火上必要な機能の確保を図るため必要と認めて前面道路の境界線から後退して壁面線を指定した場合における、当該壁面線を越えない建築物。
②特定防災街区整備地区に関する都市計画において特定防災機能(密集市街地整備法第2条第3号に規定する特定防災機能をいう)の確保を図るため必要な壁面の位置の制限(道路に面する建築物の壁またはこれに代わる柱の位置および道路に面する高さ2mを超える門または塀の位置を制限するものに限る)が定められた場合における、当該壁面の位置の制限として定められた限度の線を越えない建築物。
③法第68条の2第1項の規定に基づく条例において防災街区整備地区計画の区域(特定建築物地区整備計画または防災街区整備地区整備計画が定められている区域に限る)における特定防災機能の確保を図るため必要な壁面の位置の制限が定められた場合における、当該壁面の位置の制限として定められた限度の線を越えない建築物。

なお、次のいずれかに該当する建築物については、建蔽率制限は適用しない。
①防火地域(法第53条第1項第2号から第4号までの規定により建蔽率の限度が8/10とされている地域に限る)内にある耐火建築物等。
②巡査派出所、公衆便所、公共用歩廊その他これらに類するもの。
③公園、広場、道路、川その他これらに類するものの内にある建築物で特定行政庁が安全上、防火上および衛生上支障がないと認めて許可したもの。
市街における公開空地の確保
 市街における新たな空地の確保策であるが、近年、大都市の既成市街地は地価が高いため、公園整備や道路の拡幅がなかなか進まない状況にある。そこで都市再生特別地区、高度利用地区、特定街区、総合設計、地区計画(再開発等促進区)などの都市開発諸制度を活用する一定規模以上の建築計画については、建築敷地内に公園や広場等の機能また道路の歩道機能を果たす、新たなオープンスペースとして公開空地の創出を誘導する動きが広がっている。これは新しい都市空地のあり方を示すものとして高く評価されており、特に土地の有効高度利用が求められる商業・業務地においては、とりわけ有効な方法と考えられる。また、昨今、一部自治体においては条例や要綱に基づく行政指導として、公開空地の確保とその一部緑化を求めるケースが増えてきている。これは空地の量だけでなく、その質にまでふみこみ、市街地環境の向上に向け建築活動をきめ細かく誘導していこうとする動きである。世田谷区などでは都市計画で緑化地域を指定し、敷地規模に応じ一定の緑化率の確保を義務付けている。
■事例紹介1
良好な戸建住宅地における地区環境の保全整備
地区計画等で外壁の位置を制限──大田区田園調布地区地区計画(2005.12.2)、建築条例制定(2006.3.20)
写真❶ 良好な住宅地が広がる田園調布市街
出典:BOWCS「TND PROJECT」挿入写真
https://www.tnd-project.com/3c
写真❷ 田園調布の緑豊かなまちなみ。
写真❸ 緑の中、壁面後退した邸宅。
写真❹ 街のシンボル「田園調布駅」。
写真❺ 銀杏並木。(❷〜❺筆者撮影)
 本地区は、東急東横線・目蒲線の田園調布駅西側に広がる住宅地で、関東大震災前の1918(大正7)年、現在の東急の始祖にあたる田園都市(株)によって、理想的な住宅地の開発をめざし整備された。
 市街は駅前からエトワール式に道路(放射状道路に同心円状の道路を組み合わせ幾何学的に設計した道路網)を構成、道路には街路樹を植え広場・公園を配置、また緑地を生み出すべく建築敷地内に庭を広く取って、街全体が庭園のように整備されている(写真❶–❺)。
 開発当時は住民として中堅クラスの勤め人を想定し、宅地が供給された。しかし、現在では良好な住環境が評価され、地価も高く区画も比較的広いことから、資産家が住むようになっている。この地は大部分が第一種低層住居専用地域(ほとんどが容積率80%、建蔽率40%)、準防火地域、第二種風致地区(建蔽率40%、外壁後退距離が道路に面し2m、その他の部分は1.5m、高さの限度15mのほか、色彩の変更や開発行為、木竹の伐採などを制限)が指定されている。
 地区整備計画(条例で建築制限を規定)の区域には準防火地域が指定されており、耐火建築物または準耐火建築物等が建築される場合は建蔽率が緩和されたり、また当該地区整備計画区域のうち住宅地区については、隣地境界線に面し壁面の位置の制限があるので、安全上、防火上および衛生上支障がないと認められる建築物については、建蔽率の限度を超えられる可能性がでてくるが、本地区にはあわせて風致地区が指定されていることから、風致上の判断もあわせて求められる(風致地区条例)。
【地区計画の内容】
区域面積:47.2ha
目標:
田園調布駅西側で、大正期より「住宅と庭園の街づくり」を理念に、低層戸建て住宅を中心として、緑と太陽、平和と安らぎ、文化の香り漂う、良好な住環境を形成してきている。そこで環境緑地の設置と緑化推進、建築物等の制限により、良好な環境の維持・保全を図る。
【地区整備計画】
地区施設:
道路、公園の維持・保全、環境緑地の配置(幅1m延長19,300m)。
建築物の整備:住宅地区と駅前地区とに分け整備する。
住宅地区(45.2ha)
・用途制限として、長屋又は共同住宅は住戸数4を超えないこと、住戸の床面積37㎡未満のもの含まないこと、その他、公衆浴場、老人ホーム等を制限。
・敷地面積として、165㎡を最低限度とする。
・壁面の位置の制限として、接道部は2m、その他は1.5m以上。
・壁面の後退部分に工作物を設置しない。
・高さは9m以下、意匠(色)は環境に調和した落ち着いたものとする。
・垣、柵の構造は生垣等とする。
駅前地区(2.0ha)
37㎡未満の住戸を含む長屋又は共同住宅、ホテル等を制限
意匠(色)は環境に調和した落ち着いたものとする
その他:接道部の緑化
■事例紹介2
木造住宅密集地における再開発
特定防災街区整備地区を活用し壁面の位置を制限──京島三丁目地区防災街区整備事業(2020.6.29)
写真❻ 従前の木造密集住宅地区。
出典:一般財団法人墨田まちづくり公社「京島周辺地区>京島周辺地区のまちづくり」挿入写真
https://www.sumida-machi.or.jp/machidukuri/kyojima_2.html
写真❼ 従後の整備されたマンション。
写真❽ 壁面後退し緑化整備。
(❼、❽筆者撮影)
図❹ 権利変換の概念図
出典:UR都市機構「京島三丁目地区防災街区整備事業」挿入図
https://www.ur-net.go.jp/produce/case/case026.html
 本地区は、墨田区のほぼ中央にあり、京成押上線京成曳舟駅から東南へ約300mの所に位置する。この地は、関東大震災(1923年)や東京大空襲(1945年)の時も壊滅的な被害を免れたため、都市基盤が未整備なまま市街化が進行、密集市街地を形成することになった(写真❻)。
 近年、本地区近傍では幹線道路整備の進捗に伴い、その沿道では建築物の建替え更新が進むが、本地区内は老朽木造の戸建住宅や長屋が密集し、狭隘な道路も多く、防災性能の向上と住環境の整備が課題となり、東京都の防災都市づくり推進計画においても、重点整備地域に位置付けられた。
そこでUR都市機構は、地元墨田区が展開する住宅市街地総合整備事業(予算措置による地区基盤施設等の整備)と連携し、防災街区整備事業を施行、老朽化した木造建物の耐震・不燃化と、道路整備を図ることになった。
 具体には、区域約0.2haの内に道路を除き、宅地について共同利用区を約1,400㎡、個別利用区(借地権者の戸建住宅への移転要望に対応)を約130㎡設定、共同利用区には5階建ての共同住宅(36住戸、うち一般分譲29戸)を建築(写真❼、❽)、道路は21号線(幅員4m→6m)と区画道路1号(幅員2.5m→4m)を拡幅整備した。
 地区内の権利者は、個人のほか墨田区も含め17名(土地所有権6名、借地権7名、借家権4名)いたが、事業施行に伴う転出者は9名で、内6名は墨田区のコミュニティ住宅に移転、一方、地区内には8名がとどまり、共同利用区にて権利者5名が権利変換、個別利用区には借地権者2名が移った、残る1名は墨田区である(図❹)。
 この共同利用区内の共同住宅建設にあたっては特定事業参加者制度を活用、保留床を民間事業者(東日本住宅(株))が取得した。なお、個別利用区には敷地利用権として定期借地権(60年間)を設定、あわせて不燃化助成等を行うことで、権利者の住宅取得負担の軽減が図られた。事業は平成25(2013)年12月に完了している。
 墨田区内では新防火地域(東京都建築安全条例第7条の3に基づく。防火地域と準防火地域の中間的位置づけが与えられている)の指定により、準防火地域内では原則、すべての建築物は準耐火建築物以上ということになった。また、大規模(延べ面積500㎡超、地階を除く階数4以上)な建築物は、耐火建築物としなくてはならない。これに関連し同区域内では、建蔽率が60%から80%に緩和されている(2003.11.6)。
【都市計画】
事業名 京島三丁目地区防災街区整備事業
施行者 都市再生機構
施行区域 約0.2ha
所在地 東京都墨田区京島三丁目8番
事業費 約15億円
事業期間 平成22~25年度
(参考)
準工業地域(容積率200%、建ぺい率80%)、17m第三種高度地区、準防火(新防火)地域、防災再開発促進地区、特定防災街区整備地区(敷地面積の最低限度100㎡、壁面の位置の制限50cm)
【建築概要】
敷地面積 約1,380㎡
主要用途 共同住宅
延べ面積 約3,080㎡
階数 5階
高さ 約16m
■Column
都市開発諸制度と緑
写真❾ 都市林に囲まれた「NEC本社ビル」。
出典:日建設計HP
https://www.nikken.jp/ja/insights/corporate_history/07_03.html
写真❿ 市谷の杜「DNP本社ビル」。
出典:大日本印刷ニュース「環境省認定の自然共生サイトに選定」
https://www.dnp.co.jp/news/detail/20169882_1587.html
写真⓫ 京橋の花と緑の丘「スクエアガーデン」。
写真⓬ マンション敷地接道部の緑化。(⓫、⓬筆者撮影)
 都市開発諸制度のひとつである「再開発等促進区を定める地区計画」は、地区内だけでなく地区外の利便の向上等にも寄与する公共施設(二号施設と呼ばれる)を整備することで、「用途地域変更」+「特定街区」の機能を発揮するよう仕組まれている。
 用途地域の変更は用途地域の指定基準に従い、都市構造上の位置づけや都市基盤整備の状況などを勘案して行われる。また、特定街区は、街区レベルの大規模なまとまった敷地において、市街地の整備改善に有効な空地を確保する建築計画に対し、建築基準法上の形態規制をリセットし、容積率を割増すなどして街区単位に新たな計画規制を設定するものである。
 類似の制度としての「都市再生特別地区」も運用面からみると、容積率の割増対象のメニューが多様であったりするなど違いはあるが、再開発等促進区を定める地区計画と同様に、特定街区の計画規制の考え方をベースとしており、街区レベル以上の建築計画は、特定街区の計画基準が基本となっている。
【特定街区の計画基準】
 さて、都市開発諸制度の原点ともいえる特定街区の計画基準であるが、基本的には市街地整備に有効な空地の量に対応し容積率の割増が決まる仕組みとなっており、東京都の場合、この空地の評価にあたっては地表面を基本に、このレベルより高く(または低く)位置したり、またピロティやアトリウムなど空間の開放状況に応じ、空地の有効度が低減される仕組みとなっている。この他、特例として、空地の一部を緑化した場合は、この部分の有効性を2割増する措置が講じられている。
【都心部の緑の確保に向けて】
 東京都では1970年代前半、公害行政から脱し、自然保護行政を展開して10年ほどの時が経った頃、自然のシンボルとして緑の保護と回復をめざし、「自然の保護と回復に関する条例」を制定、開発の種類、規模また地域などに応じ、一定の緑地の確保を目標に掲げる。
 これは日本の原風景が緑に覆われた国土で、通常であれば山岳部などを除き地表は緑で覆われる。しかし、近代化以降、都市はコンクリートジャングルと化し緑が後退、ヒートアイランド現象などが発生したり、鳥類の飛来や虫類の生息も減少するなどして、都市の人工環境化が進んだ。このままではいけないと考え、東京都では中心市街にも緑を復活させることになった。都市において緑を確保する必要性が高いのは、郊外部よりむしろ都心部である。
【空地の緑化特例】
 ちょうどそのころ、1980年前後から都市東京が震災・戦災を挟み経済の隆盛・成長期を越え、近代産業社会が成熟のステージへと歩みを進めたのをうけ、近世農業社会下の都市江戸が成熟期、庭園都市を形成していた(慶長・寛永の都市創成期のあと、明暦の大火をふまえ空地をたっぷりとり大江戸化を図るが、元禄の経済成長期を経て文化文政の成熟期に至ると、人びとは市街(大名屋敷、寺社、河岸、路地など)の空地の緑化・花卉栽培化に勤しむようになった) ことをふまえ、これからは都市開発においても市街地(特に都心部)に緑を確保することが重要と考え、都市開発諸制度の運用において取られた措置が「空地の緑化特例」である。要はボーナス容積率を付与することで、有効空地の一部を緑化してもらおうとの施策である。これは都市政策の方向転換を示すアドバルーンであった。
 この緑化の特例措置の適用第1号は、敷地の一部に武蔵野の雑木林の景観を再生した、新宿の「京王プラザホテル」の変更計画で1978年のことであった。京王プラザホテルは当初計画が1969年で高度成長真っ只中、当時、モータリゼーションが急激に進展していた。そこでこの時代は有効空地の概念に車寄せなど自動車関係のアプローチ路も入っていた。しかし、自動車公害問題の深刻化に伴い制度運用として、これらの空地は有効空地として評価しないことになったため、ホテル南館を計画するとき空地が不足する事態となった。そこで世の中のニーズを捉え措置されたのが緑化の特例である。
【大規模緑化の事例】
 その後、この特例措置を活用し地域ニーズに応え大規模な緑化を実施した事例としては、1985年に都市計画された港区芝の「NEC本社ビル」がある。これは街区面積2.1haに林を整備し、その中心にスペースシャトルのような形態のビルを建設したものである。緑化の狙いは、超高層ビルなので当時、社会問題化していたビル風害対策としても取り組まれた(写真❾)。
 これに続いて再開発等促進区を定める地区計画を活用した大規模緑化としては、新宿区の「DNP本社ビル」(地区面積7.2ha)の「市谷の杜2万㎡」(写真❿)、「スカイフォレスト」(地区面積4.9ha)の「戸山の森」、「コモレ四谷」(地区面積4.3ha)の「四谷の森」などがある。
 都市再生特別地区を活用したものとしては京橋の「スクエアガーデン」などにみられるように(写真⓫)、屋上緑化・壁面緑化なども含めさまざまな形で都市緑化が進展していく。また、昨今は行政指導によって、マンション敷地などでも緑化が進んできている(写真⓬)。
[参考文献]
建築技術者試験研究会『新しい建築法規の手引き』井上書院、2023年
(一社)東京建築士会『2025年版建築基準法規集』新日本法規出版、2024年
国土交通省ホームページ「建築基準法(集団規定)の概要」
大田区ホームページ「田園調布地区地区計画」
墨田区ホームページ「特定防災街区整備地区」
東京都ホームページ「防災街区整備事業」
UR都市機構ホームページ「京島三丁目地区防災街区整備事業」
(一財)墨田まちづくり公社ホームページ「京島周辺地区>京島周辺地区のまちづくり」
河村 茂(かわむら・しげる)
都市建築研究会代表幹事、博士(工学)
1949年東京都生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業/都・区・都市公団(土地利用、再開発、開発企画、建築指導など)、東京芸術大学非常勤講師(建築社会制度)、(一財)日本建築設備・昇降機センター常務理事など/単著『日本の首都江戸・東京 都市づくり物語』、『建築からのまちづくり』、共著『日本近代建築法制の100年』など/国土交通大臣表彰など