都市・街・建築──まちづくりと建築社会制度 第❹回
建築と道路(その2)
河村 茂(都市建築研究会代表幹事、博士(工学))
写真❶ 都心、商業業務地。
筆者撮影
写真❷ 市街、中高層住宅地。
筆者撮影
写真❸ 郊外、低層戸建住宅地。
出典:ギャラリー|新築分譲マンション・戸建てなら小田急不動産の「リーフィア」
https://www.odakyu-leafia.jp/gallery/
建築物と道路との関係
 都市整備において道路が果たす役割の重要性に鑑み、建築基準法では道路と建築物の関係について規定を設けている。
 ひとつは「接道規定」で、建築物の敷地は避難または通行の安全を確保するため、一定の幅員を有する道路に、一定の長さ以上接しなければならないとしている。また、大規模なもの、特殊な用途のもの、多くの人が利用するもの、そして敷地形状が悪いものについては、その目的を達成するため、条例で制限を付加することができることになっている。このため建築物の敷地は、建築物の用途・規模などに応じ、一定の幅員を有する道路に接しなければならない。この道路への接道長さは通常2mであるが、特殊建築物、無窓建築物、延べ面積1,000㎡を超える大規模建築物など、2mの接道では規定の目的(避難又通行の安全)を達しがたいものについては、地方の実情に応じ、条例で制限を付加できる仕組みとなっている。
 ふたつに「市街の開放性に関する規定」で、道路を挟んで向かい合う建築物相互に対し、道路斜線制限等を設け採光・通風等を得るため、一定の開放空間を確保することとしている。また、狭い道路沿いに大規模な建築物が立ち上がらないよう、幅員12m未満の道路沿いは、道路の幅員に応じ容積率を制限している。このように沿道の建築物は、道路の幅員に応じその形態や密度がコントロールされている。
 3つに「道路内建築制限」である。道路が担う諸機能の保持に向け、道路内および道路上空を開放空間として確保するべく、道路内に建築物を建築することを制限している(市街地の特性に対応した建築物と道路の状況。写真❶~❸参照)。
図① 法43条2項(適用除外規定)のイメージ
出典:国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001717396.pdf
【接道義務と制限の緩和】
 建築物の敷地は、原則として4m以上の幅員の「道路」に、2m以上接していなければならない。ただし、例外として建築物の敷地の周辺状況を考慮し、特定行政庁が支障ないと認める場合は、認定(特定の基準・条件を満たしていることを公に認める)または許可(禁止されている行為を特定の場合、解除して適法に行えるようにする)により、接道義務の規定を適用除外することができる。
 特定行政庁による認定は、①農道など公共用で幅員4m以上の道、ないし②令144条の4一項各号に規定する「道の構造基準(本連載第3回参照)」に適合する道に、2m以上接する建築物のうち、延べ面積200㎡以下の一戸建ての住宅を対象とし、交通・安全・防火・衛生上支障のないものについてなされる(法43.2.1)。また、特定行政庁の許可は、①敷地の周囲に公園・緑地・広場等の広い空地を有するもの、②農道など公共用の幅員4m以上の道に2m以上接するもの、③建築物の用途・規模・位置・構造に応じ、道路に通じる避難・通行上等安全な十分な幅員を有する通路に接しているものについてなされる(法43.2.2)。この場合、建築審査会の同意が必要となる。認定・許可の対象となる建築物のイメージは、図①を参照。
 接道規定は、通常時の通行の安全確保(交通混雑・交通事故などの回避、円滑な交通の確保)、非常時の避難の確保、消防(消火、救助)など、主として建築物の利用者の安全の確保を目的としている。ここで「有効に接する」とは、実態的に法規定の目的を達成しうるような状態をいうことから、次のようなものは、有効に接するとはいえない。①傾斜地など土地の地形状況や、敷地に接し土手・堤防があるなど、敷地と道路との間に高低差などがあり、円滑に道路を利用することができないもの。②自動車専用道路など通常、歩行者が利用する道路とはいえないもの。③道路にとぎれとぎれに接していて、連続して2m接していないもの。④道路との間が10cmほど額縁的に分筆されていて、隣地扱いとなっているもの(これは道路を築造した者が道路に隣接する者の同意を取れなかった場合などに生じる)。
 なお、人が跨げるような狭い幅の水路で、敷地と道路とが分断されている場合、特定行政庁の判断で接しているとみなすこともある。また、既存で小規模な集合住宅、たとえば戸数5以下のテラスハウス(長屋)などを現状規模で建て替える場合などは、現に交通・安全・防火・衛生面で問題を起こしていなければ、支障なしとして許可することもある。
 接道規定の原則に適合しない敷地については、例外処理の規定がある。建築基準法に基づく事務は地方の自治事務に位置付けられている関係で、当該規定の運用は、省令基準(考え方)をふまえ地方の実情に留意し、特定行政庁ごとにその運用基準が定められる。ここでは東京都の例を紹介する。なお、都内23区および近郊11市は、それぞれ特定行政庁として、独自の基準を定め適用している。
Column 1
図② 通路協定型での道路への接道
出典:東建「土地活用」
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kenchiku/kijun/kijyun1.htm
図③ 旗竿敷地型(中央の緑の敷地)の事例
出典:国土交通省HP
https://www.token.co.jp/estate/column/estate-library/25/
無接道敷地
 無接道の敷地とは、建築基準法43条に規定される、「接道義務」の条件を満たしていない建築敷地をいう。この規定の目的は、非常時に避難や救助、消火活動などが円滑に行なえるようにし、住民等の安全を確保することにある。従って、敷地が無接道な状態にある場合、そのままでは建て替え等をすることはできない。
 しかし、市街には、建築基準法(昭和25/1950年)、都市計画法(昭和43/1968年)の制定以前に建てられた建築物も残っており、接道義務を満たしていないものも少なからず存在する。そのような物件を救済するため、建築基準法「43条但し書き(現在、43条2項2号)」が用意されている。
 この規定に基づく認定・許可は現在、自治事務として特定行政庁が担っており、その対応の仕方は地域の実情をふまえ、細部が行政庁毎に異なっているが、概略道路への接続方法としては、関係者で協定を結ぶ「通路協定型(図②)」と、敷地延長の形態をとる「旗竿敷地型(図③)」がある。無接道等の状態にある敷地に建築物を建築するには、法規定の目的(通行、避難、延焼防止、消防(消火、救助)、採光・通風等の確保など)に照らし、これに準じた状態を確保する必要がある。
通路協定型
 通路協定型は、無接道の敷地から道路まで「通路」を設け対応するもので、通路の拡幅やその維持管理(通行の権利を含む)などについて、関係する土地の所有者、借地権者が全員で合意し協定書を作成するなどして対応する方式。この場合、一般的には大規模な共同住宅や集客力ある商業施設等の用途は抑制される。また、通路部分は敷地面積に参入されなかったり、通路を道路とみなして道路斜線制限や前面道路幅員による容積率制限を運用する場合がある。一方、角地については建蔽率制限を緩和する場合もある。
旗竿敷地型
 旗竿敷地型は、2m以上の幅を持つ敷地の「路地状部分」により接道規定を満たすもので、敷地は非常時の避難(建築物の耐火・準耐火構造化で避難時間を確保、隣地への2方向避難の確保など)や、隣地からの建築物への延焼(外壁後退、外壁構造など)に留意する必要がある。
 無接道敷地は再建築が難しく、適法に建て替えたり増改築することが困難で、再活用が難しい面がある。しかし、こうしたものでも例外措置として、特定行政庁の認定・許可が得られれば、適法に再建築することが可能となる。
 すなわち、平成30(2018)年、建築基準法が改正され、「43条但し書き」は「43条2項2号」に代わり、加えて「43条2項1号」が新設された。これまで43条但し書きでは、例外措置は一律、建築審査会の同意を受けたうえで許可となっていたが、法改正後は、43条2項1号に該当する物件(小規模な一戸建て住宅)については、建築審査会の同意は必要なくなり、特定行政庁の「認定」のみで足りることになった。
図④ 条例による制限の付加
出典:国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001717396.pdf
【制限の付加】
 道路への接道については、建築物の特殊性に応じ安全面から制限を付加する場合がある。すなわち、建築物の用途、規模、位置の特殊性に応じ、図④に示すように地方公共団体は条例で、その敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さ、その他敷地または建築物と道路の関係に関し、必要な制限を付加することができる。「接する長さ」については、用途が特殊なもの(不特定多数のものが利用する建築物など)、階数が多く床面積が広いなど比較的規模の大きな建築物、火災時の避難・救助が難しい無窓居室を有する建築物、2方向での避難が不可能な袋地状の道路のみに接する建築物については、避難・通行の安全確保の観点から条例で制限が付加される場合があるので、注意する必要がある。
 東京都では、これを受け建築安全条例の中に、①路地状敷地について、建物の構造・規模また階数を絡め、路地状部分の幅員をその長さに応じ規定(3条、3条の2)、②延べ面積に応じた道路への接道長さ、そして規模(延べ面積、高さ)により、接する道路の幅員を規定(4条)、③特殊建築物の敷地について、接する道路の幅員(10条の2)と接道長さ(10条の3)を、用途と規模(当該用途に供する部分の床面積)の別に規定しており、かつ、当該道路に面し自動車の出入り口を設けること(10条の2)、としている。
図⑤ 3項道路への制限付加のイメージ
出典:国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001717396.pdf
【3項道路への制限の付加(法43条の2)】
 3項道路(法42条3項に基づき水平距離を指定された道路)については、交通上、安全上、防火上または衛生上の観点から必要がある場合、3項道路にのみに接する建築物について、特定行政庁の条例でその敷地、構造、建築設備または用途に関し必要な制限を付加(図⑤)することができる(事例紹介「独特の界隈性を継承する京都祇園のまちづくり」3項道路指定と階数・内装制限参照)。
図⑥ 道路内建築制限の例
出典:国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001717396.pdf
【道路内建築制限(法44条)】
 道路は建築基準法上、原則、建築物の敷地とはなりえない。しかし、例外的に道路の地下や上空等に部分的に建築物を設置することはあるが、通常は道路として位置づけられると、その部分は建築敷地から除外され、そこは日常的な通行と非常時の避難・救助のため、交通を妨げるようなものは建築できなくなる(図⑥)。
 したがって、建築物また敷地を造成するための擁壁は、道路内または道路に突き出して建築したり築造したりすることはできないが、通行上支障なく防災上も問題がないような道路の地下や上空への設置は、一定の場合認められることがある。例外的に道路内に建築できる可能性のあるものを掲げると、次の通りである。
 ①地盤面下に設ける建築物、②公衆便所、巡査派出所その他これらに類する公益上必要な建築物で、特定行政庁が通行上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したもの、③地区計画の区域内で、地区整備計画に重複利用区域が定められ、この内容に適合し、かつ政令で定める基準に適合するもので特定行政庁が安全上、防火上および衛生上支障がないと認めるもの、④公共用歩廊その他政令(令145条2項)で定める建築物(学校、病院、老人ホーム等で施設利用者の通行の危険を防止するためのもので必要なもの、避難施設として5階以上に設けられるもので必要なもの、多数人の通行・他利用の物品の運搬のためのもので交通緩和に寄与するもの)で、特定行政庁が安全上、防火上および衛生上他の建築物の利便を妨げ、その他周囲の環境を害する恐れがないと認めて許可したものなど。
写真❹ 商店街のアーケード。
出典:いたばしTIMES挿入写真
https://itabashi-times.blog.jp/archives/245347.html
写真❺ 学校の渡り廊下。
筆者撮影
写真❻ 病院の渡り廊下。
出典:ShimZ「順天堂大学医学部病院」
https://www.shimz-global.com//cn/cn/services/FutureHospital/Hospital6/
写真❼ 駅前広場内のバス停留所上屋。
出典:荒川区のはなし挿入写真
https://arakawa-story.com/?p=8695
【道路上空利用の事例】
 道路内建築制限の例外許可は、商店街のアーケードの設置(写真❹)や、市街地再開発事業の施行等に伴い駅と再開発ビルとを「ペデストリアン・デッキ」で結ぶ場合、都心部など交通が輻輳する場所で、道路を挟んで向かい合う建築物相互(学校、病院、百貨店など)を渡り廊下(写真❺、❻)で結ぶ場合、また駅前広場や広幅員の道路にバス停留場の上屋(写真❼)等を設置する場合などに活用される。
図⑦ 私道の廃止と敷地の統合
筆者作成
【私道の変更と廃止】
 建築敷地を統合し敷地規模を拡大して、土地の有効・高度利用を図る場合がある。この時、たまたま統合される敷地の間に私道が存在し、土地の合理的利用を妨げている場合、この私道を廃止したり付け替えたりすることがある(図⑦)。私道の変更または廃止は原則として自由に行えるが(開発絡みとみなされると、規模により開発許可が必要となる)、この私道の廃止などに絡み第三者の建築物の敷地がある場合、変更または廃止されると法43条1項(接道規定)3項(条例による用途・規模などによる、接道規定などの制限の付加)に不適合となり、違反となるケースが発生することもある。そうした場合、特定行政庁は法9条に基づく違反是正命令に準じた手続きで、私道の変更または廃止を禁止したり、制限することができる(法45)。なお、工作物の私道への設置に伴い、接道義務違反となる建築物を生じる場合も、この私道の変更または廃止にあたるので注意が必要である。私道の変更・廃止は、通常、条例に基づく届出により処理される。
参考 1
東京都「建築基準法第 43 条第2項第1号の規定に基づく認定基準」(抄)
第1 運用方針
 建築基準法(昭和25年法律第201号)第43条第2項第1号の規定に関し、次の基準の一に該当するものは、交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないものとして認定審査を行うものとする。 なお、「道」とは、一般の通行の用に供されている道路状空地のことをいう。
第2 基準
基準ⅰ 建築基準法施行規則(昭和25年建設省令第40号。以下「規則」という)第 10 条の3第1項第1号に該当し、かつ、敷地と道路との間に次の各号のいずれかに該当するものが存在する場合で、避難及び通行上支障がない道路に、有効に接続する幅員4m以上の通路が確保されている敷地
 一 管理者の占用許可、承諾又は同意が得られた水路
 二 地方公共団体が管理する認定外道路等
 三 都市計画事業等により、道路に供するため事業者が取得した土地

基準ⅱ 規則第10条の3第1項第1号に該当し、次の各号のいずれかに該当する幅員4m以上の公有地等に2m以上接する敷地
 一 地方公共団体から管理証明が得られた道
 二 土地改良法第2条第2項第1号に規定する農業用道路

基準ⅲ 規則第10条の3第1項第2号に該当するもので、次の各号に該当する幅員4m以上の道に2m以上接する敷地
 一 東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号)第82条に適合するもの
 二 指定道路取扱基準(平成23年8月23日付23都市建企第484号)第3章第1に適合するもの
第3 その他 本認定基準に定めるもののほか、必要な事項は別に定める。
 申請者における敷地に関する権利の規定、敷地を分割の場合の規定を別に定めている。
参考 2
東京都建築安全条例「敷地と道路の関係など」(概要)
【路地状敷地の形態など】
 路地状敷地(路地状部分のみで道路に接する敷地)は、建物構造(耐火、準耐火か否か)・規模(延べ面積)に対応し、路地状部分の長さに応じ一定の幅員を有すること。ただし、建築物の配置・用途・構造、周囲の空地の状況などにより通行・避難また防火などの面から安全上支障がない場合は、この限りでない(3条)。この場合、路地状部分の幅員が4m未満である場合、建物構造に応じ階数が制限される(3条の2)。

【大規模な建築物の敷地と道路との関係】
 大規模建築物の敷地は、延べ面積に応じ一定の接道長を確保すること。この場合、延べ面積が3,000㎡を超え、かつ、高さが15mを超えるものは、幅員6m以上の道路への接道とする。ただし、避難・消火・救助の面から安全上支障ない場合は、この限りでない(4条)。

【長屋の主要な出入口と道路との関係】
 長屋の各戸の主要な出入口は、道路又は道路に通じる2m以上の敷地内通路に面すること。この場合、建築物の構造により住戸の数の制限がある。(5条)。

【特殊建築物の敷地と道路との関係】
 特殊建築物の敷地は、①原則、路地状敷地への建築を禁止。ただし、敷地規模又用途に応じ、路地状部分の形態が一定のもの、その他建築物の構造や路地状部分の形態などの状況に応じ、総合的に判断し避難上支障がないものはこの限りでない(10条)。また、②特殊建築物の用途(交通発生量など)に応じ一定の幅員を有する道路に接するとともに、当該道路に面し自動車の出入口を設けなければならない。自動車の出入りに伴う通行の安全上支障のない場合は、この限りでない(10条の2)。さらに、③特殊建築物の用に供する床面積に応じ、一定の接道長さ(10条の2が適用される敷地は当該規定に基づく幅員の道路に面し)を確保しなければならない。ただし、災害時に避難上支障がなく安全が確保される場合は、この限りでない(10条の3)。

【共同住宅等の主要出入口と道路との関係(17条)】
 共同住宅等の主要な出入口は、道路に面して設けること。ただし、出入口の前面に住戸等の床面積に応じ一定の幅員の通路等を道路に20m以内で避難上有効に通じるよう設けるなど、通行・避難上支障がなく安全が確保される場合は、この限りでない。
事例紹介
「独特の界隈性を継承する京都祇園のまちづくり」 3項道路指定と階数・内装制限
写真❽ 祇園(花見小路通)のまちなみ。
筆者撮影
図⑧ 祇園町南側地区まちづくり協議会の区域
出典:京都市HP
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000297/297536/keikakusyo_gionchominamigawa.pdf
写真❾ 3項道路沿いのまちなみ。
筆者撮影
写真❿ 3項道路。
筆者撮影
図⑨ 地区計画区域と3項道路の指定。
出典:京都市HP
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000154/154889/35_gionntyouminami290407.pdf
茶屋形式の和風建築物群と花街のおもてなし文化
 京のまちを特徴づける茶屋(現在茶屋は50軒ほど)建築が醸す祇園のまちの界隈性は、近年、建物の建て替えに伴い薄れつつあった。それは建て替えると、道路の拡幅整備(建物壁面を後退させなくてはならない)や、建物の防火構造化が求められるからである。茶屋建築の消失は、まちなみ形成だけでなく、おもてなしの茶屋文化の衰退にもつながり、観光都市京都の地場産業活性化に大いに影響する。
 祇園の地は、京都五花街のひとつで、茶屋や料亭などが数多く立ち並び、そのすだれが下がり格子戸が続くまちなみ(写真❽)は、路地に聞こえる三味線の音や、まちを行く舞妓や芸妓の姿とともにも、この地独特の風情を醸し、花街の風雅さと格調の高さを漂わせる。4月の「都をどり」は、先斗町の「鴨川をどり」とともに、京の春を彩る華やかな行事で、7月の祇園祭は平安時代に始まる日本を代表する祭礼である。また祇園の北側、ここを流れる白川の河畔には、吉井勇の歌碑「かにかくに祇園は恋し寝るときも枕の下を水のながるる」が立つ。
 祇園は、京のまちの鴨東、山紫水明の地にある。まちは細街路とともに伝統的な茶屋形式の建築様式を継承し、その繊細で雅なまちなみは歴史的景観保全修景地区の名に恥じない。
 さて、祇園のまちが長年かけ築きあげてきた茶屋形式の和風建築群と、花街のおもてなし文化が醸す京都らしさ、この地独特の界隈性は、この場所固有のものである。この独特の風情を今日まで継承できた要因は、このまちの大方の土地を学校法人八坂女紅場学園(舞妓さん養成の学校)が所有していることにある。ここ祇園界隈の土地は200区画ほどに分割され、女紅場学園より各借主に賃貸に出され、お茶屋、飲食店、住宅などとして利用されている。賃貸にあたっては、まちなみを守るため、地主と借主との間で土地利用を規定した合意書、ある意味任意の建築協定(一人協定)ともいえるものが結ばれている。この合意書に基づく業種規制(一種の用途規制)と、地域合意された景観協定により、建物の用途や外観デザインが維持されている。
 さらに、注目すべきことは、この取組みを実効あるものにするため、地主の学園が土地収益を二の次に考え、借り主の地代を固定資産税の額を少し上回る程度の水準に抑えていること。地代を高くすると、借主は土地の有効利用をめざし、合意の範囲内でこの地の景観価値を下げるような用途、密度、形態の建築物を建てないとも限らないからである。
まちの界隈性の維持継承
 京都市は、この伝統的界隈性を公的な価値(社会的価値をもち維持保全すべき対象)ととらえ、行政と住民代表とが連携してまちづくりに取り組むため、平成8(1996)年南側地区5町の連合会として「祇園町南側地区協議会(約300世帯が会員となる)」を設立、平成11(1999)年6月にはこの地を市街地景観整備条例に基づき、歴史的景観保全修景地区(祇園町南地区は、約6.6ha)に指定、あわせて景観保全修景計画(建築物等の位置、規模、高さや階数など形態、また意匠、色彩、外観様式、屋根形状等に係る基準を内容とする)をまとめ告示した。
 修景地区は、ものの保存ではなく伝統的歴史的な意匠の継承・更新を図っていくことを目的としているが、これにあわせまちづくりの風習や作法の継承・発展もめざしている。こうした方式をとったのは地元がこの地を制約が大きい文化財にはしたくない、という強い意志を持っていたからである。歴史的景観保全修景地区は、伝統的建造物群保存地区とは違い、建築基準法上の適用除外とか緩和の措置はなく、税の優遇措置もない。ただ歴史的な建築意匠に沿ったデザイン(市長承認)が求められる。しかし、市は歴史的意匠を保持する建物の外観修繕に対し、工事費を助成している(補助事業は600万円を限度(補助率2/3)とし、毎年25軒ほどの実績)。
 当協議会は、屋外広告物の掲出についても地域ルールが必要ということで、全員が一致し平成11(1999)年5月に「景観協定」を締結している。景観協定の内容は、景観協定運営委員会を設置し、①建築物・工作物の新築等および外観に係る修繕等を行う場合は「保全修景計画」の基準に適合すること。②看板・照明等の屋外広告物を掲出する場合は自家用に限定し、町並み景観を損なわない形状・規模とし、2階以上の蹄面に設けないこと。立て看板・のぼりの類は掲出しないこと。③自動販売機は側面を覆い、色彩は黒・茶・白といったものとすること。 ④1階庇上看板は木製とすることなど、を規定しており、事前協議することになっている。
 平成13(2001)年、NPO法人祇園町南側地区まちづくり協議会(図⑧)が設立される。この「まち協」では、まちづくりのベースとなる道路の整備が大事と考え、地区のメインストリートである花見小路通の、電線電柱類の整理・地中化と路面の石畳化を図ることになった。また、平成14(2002)年5月には日本中央競馬会の支援を受け、市の事業として私道の石畳化事業が開始される。
 しかし、実際、祇園のまち独特の風情を保持していくのは、並大抵のことではない。そこには地域固有の価値など蹴散らす、近代化原理に基づく建築基準法等の画一的な法規制が、全国一律的な建築デザインを強いてくるからである。すなわち、この地は京都市の都心近くにあり建築物が密集していることから、都市計画としては準防火地域が指定され、中規模以上の建築物に対しては木造とすることを制限している。このため家屋を建て替えようとすると、通常、鉄筋コンクリート造や鉄骨造とならざるをえない。また、祇園のまちは道路が狭いため、建築行為を伴うと道路拡幅のため建物はセットバックを要請され、建て替えにより風情の香るまちなみが徐々に崩れていく事態を招いていた。
地場に相応しい建築規制への転換
 関係者は、このままでは、この場所固有の価値を維持できないと考えるようになった。そこで市は平成14(2002)年お茶屋や料理店を除く風俗営業を制限する地区計画を策定、また10月に「伝統的景観保全に係る防火上の措置に関する条例」を制定、伝統的景観保全地区について、階数や内装等を制限する独自の防火基準を設けることで、準防火地域の指定を解除し法22条区域として扱うことになった。また、地元組織のNPO法人まちづくり協議会(法人認証平成13/2001年9月)では、木造建築密集地で道路も狭いという地域実態をふまえ、木造建築が建ち並ぶまちの防火安全性の確保が重要とし、年に1~2回の定期的(大規模)な防災訓練(バケツリレー、放水、防災講演会など)を実施、あわせて私設消火栓や火災警報器の設置、また木造建物耐震診断受診の啓発など、防災活動を包括的に継続して展開している。市ではこれらの活動等を評価し、平成15(2003)年に建築基準法が改正(法43条の2に基づく条例が追加される)されたのをうけ、平成18(2006)年3月に「歴史的細街路にのみ接する建築物の制限に関する条例」を制定し、建築基準法42条3項に基づく道路(現在、幅員4m未満の道路に対し2~1.35mの範囲で中心線から別に水平距離を指定、ここを道路境界線とする)として恒久的に認めることになった。つまりこの道路の沿道の建築物は道路拡幅に伴うセットバックをしなくてすむため、市の独自な防火構造基準の適用とあいまって、この地独特の町並み風情は維持・継承されることになった(写真❾)。
 このようにして細街路の幅員が1間半(2m70cm)しかない祇園のまちも、細街路が建築基準法上の道路(法42条3項)として位置づけられたことで(写真❿、図⑨)、現状のまちなみ風情が維持できるようになった。また、この細街路に2m以上接した敷地で、地上階数が3以下の建築物は居室の壁や天井の室内に面する部分を難燃材料で仕上げ、3階の居室から屋外の出口に通じる避難経路沿いの壁や天井の室内に面する部分を準不燃材料で仕上げるものは、伝統的な木造での建築が可能となった。こうしてようやく地場産業活性化のための器の整備にめどがついた。あとは地域の関係者の活動状況如何ということである。なお、この地では近年、この独特の界隈性を維持しようと、お茶屋とこれに関連する業種との融合による発展をめざし、計画的にまちなみの保全修復整備を進めるべく、平成23(2011)年12月、地元住民組織が主体となり将来のまちづくりの目標・方向を、街並み誘導型の地区計画(約6.1ha)にまとめ(図⑨、下記参考)、この地のまちづくりのルールとして確立することで、前面道路の幅員に応じた容積率制限と道路斜線制限を緩和、あわせて法43条の2に基づく条例で階数や内装制限を強化、さらに道路交差部分における角切りの設置の有無も、市長の認定で柔軟な対応を可能とするなどして、「花街・祇園の風情・情緒」の維持継承に努めている。

【参考:祇園町南側地区地区計画】
目標 伝統的な木造建築物による優れた町並み、「暮らしの営み」などが醸す祇園らしい魅力的で個性豊かな市街地環境の維持・充実
区域の整備・開発・保全の方針
祇園の風情・情緒を大切にした良質な商業・サービスの誘導と定住できる良好な居住環境の形成、A地区(図⑨)は細街路に沿い建ち並ぶ伝統的様式の建築物の醸すまちなみの保全・再生。
地区整備計画(建築物等)
①用途の制限 風俗関係営業の用に供するもの、ナイトクラブ、カラオケボックスの類
②高さの最高限度 A地区のみ15m
③壁面の位置の制限 高さ6.5m以下の部分0.6m、超える部分3m
 ただし、以下に掲げる3項道路沿いは0.6m(この壁面の位置の制限と敷地境界との間には地盤面からの高さ1.2mを超える工作物を設置しない)
・2階以下の軒の高さ6.5m以下のもの
・3/10-5/10までの傾きの勾配屋根を有するもの
・道路境界から3m以内かつ高さ6.5mを超える部分に、地階を含まない階が3以上の部分を含まないもの
④敷地面積の最低限度 A地区のみ80㎡
[参考文献]
国土交通省ホームページ「建築基準法(集団規定)」
建築技術者試験研究会『新しい建築法規の手引き』井上書院、2023年
東京都都市整備局ホームページ「建築基準法法第 43 条第2項第1号の規定に基づく認定基準」
同上「建築基準法法第 43 条第2項第2号に基づく一括許可同意基準について」
荒川区ホームページ「無接道敷地における建替え方策のご紹介」
京都市ホームページ「祇園町南側地区協議会「景観づくり計画書」」
京都市情報館「35 祇園町南側地区地区計画」、「祇園町南歴史的景観保全修景地区保全修景計画」、「歴史的建造物等・地区の修理・修景助成制度について」
祇園南側地区協議会ホームページ
(一財)日本不動産研究所「固有性まちづくりVol.2京都祇園」
河村 茂(かわむら・しげる)
都市建築研究会代表幹事、博士(工学)
1949年東京都生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業/都・区・都市公団(土地利用、再開発、開発企画、建築指導など)、東京芸術大学非常勤講師(建築社会制度)、(一財)日本建築設備・昇降機センター常務理事など/単著『日本の首都江戸・東京 都市づくり物語』、『建築からのまちづくり』、共著『日本近代建築法制の100年』など/国土交通大臣表彰など