第49回東京建築賞入選作品選選考評
平倉 直子(建築家、平倉直子建築設計事務所主宰)
奥野 親正(構造家、株式会社久米設計環境技術本部構造設計室室長)
宮崎 浩(建築家、プランツアソシエイツ主宰)
石井 秀樹(石井秀樹建築設計事務所株式会社代表取締役)
北 典夫(鹿島建設株式会社建築設計本部長、専務執行役員)
永池 雅人(一般社団法人東京都建築士事務所協会副会長、株式会社梓設計フェロープランナー)
古谷 誠章(建築家、早稲田大学教授、NASCA主宰)
伊香賀 俊治(慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授)
宮原 浩輔(一般社団法人東京都建築士事務所協会常任理事、株式会社山田守建築事務所代表取締役社長)
山梨 知彦(建築家、株式会社日建設計チーフデザインオフィサー、常務執行役員)
渡辺 真理(建築家、法政大学デザイン工学部建築学科名誉教授、学校法人片柳学園理事、株式会社設計組織ADH共同代表)
●東京都建築士事務所協会会長賞、一般部門二類|最優秀賞
新宿住友ビルRE-INNOVATION PROJECT
設計|日建設計
   大成建設  竣工当時革新的であった高さ200mの超高層ビルは、20数年に及ぶ長い時間をかけ、法規・技術上の難題を乗り越えて改修がなされた。
 超高層足元の有効空地は、ガラス大屋根により、ビル風や天候に左右されず、賑わいがあり、快適な全天候型の「三角広場」に生まれ変わっている。この広場は、年間を通して多様なイベントを催し、街に賑わいを創出すだけでなく、有事には2,850人の帰宅困難者を受け入れ可能な「避難シェルター」として防災機能を併せもっている。多面体の大屋根は140m×90m×高さ25mの巨大無柱空間を生み、北側の浮揚感のあるロングテーパービームに代表されるように独特な表情を見せている。高層部分の外観は今までと変わりない姿を見せているが、三角形平面頂部の居住区間と切り離されたミニマムスペースを利用した画期的な制振システムによって居ながら制振改修を実現し、長周期地震動対策も含め、高い耐震性能を持たせて長く利用することを可能とした。
 この建物の価値を向上させ、建て替えによらない超高層ビル改修は、今後顕在化する大規模建築の機能更新という都市課題解決の可能性を広げたことを高く評価し、会長賞を授与するものである。
(奥野 親正)
●東京都知事賞
東立石保育園
設計|相坂研介設計アトリエ  保育園事業者と設計事務所が組んで民営化プロポーザルコンペにより選出され、東京都や葛飾区の要望を調整しながら実現に至る。
 区全域が災害時には浸水地域となることから、子ども・親・保育士・運営事業者など関係者および近隣住民の一時待機所となることが求められた。公園に一方を開く園庭をコの字型に囲む建物は、外部および外来者への備えと保育の日常に目のいき届く配置である。また3階屋上への避難ルートをわかり易く導き、屋外での子どもの遊びを促進し、保育と区民の高所避難、ふたつの目的を矛盾することなく見事に解き提案している。2階から3階屋上へ続くスロープやゆるい階段の木質デッキは、その質感によって心地よい場所として記憶され、活用されることを期待する。
 通常の保育園に加え、独立した子育て支援室や災害避難所として食事の提供や備品の保管を想定し、厨房やトイレ、シャワーなど設備を共有できるようによく考えられて配置されている。
 多くの関係者の意向を粘り強く調整しながら、当初の提案イメージを損なうことなく更新し、まとめた建築家と関係者一同のエネルギーに敬意を表します。
(平倉 直子)
●リノベーション賞、戸建住宅部門|優秀賞
菊名貝塚の住宅
設計|アトリエコ  縄文早期の貝塚跡地に建つ木造6室のシェアハウスを、設計者自らが約4年にわたって、住みながら調査・改修を続けているリノベーションプロジェクトである。
 計画は、木造地上階の個室の間仕切りを、比較的新しい構造柱を残しながら解体し、ワンルーム空間とした上で、地下コンクリートピットを現しとして収納や書斎として活用している。その上で、大胆にも遺跡を掘り出すかのようにピット底盤にも孔を穿ち、通常は分断されている大地と住空間である地上階をピットを介して一体の内部空間としている。
 応募時の書類や写真から漠然と感じていた、明るい爽やかなリノベーション住宅というイメージは、現地に行っていい意味で見事に裏切られた。住みながら改修するという設計者以外ではできない手法であるが、現地で感じたことを時間をかけて形にしたことによる間違いのないスケール感、そして上部から差し込む光や隣地擁壁に向かい合う地窓のような開口からの光と、地下へ開いていく中で生まれている影からなる静かな空間は見事であった。
 既存の建物では全く見えなかった空間の持つ力を、解体しながら発見し、建築として見事に昇華させている。優秀賞、リノベーション賞に相応しい驚きの住宅である。
(宮崎 浩)
●リノベーション賞
プラウド上原フォレスト
設計|竹中工務店  良質な既存ストックであっても、多くの建築が新築前提ではスクラップ&ビルドが起きてしまう。この建築は、竣工当時から容積緩和がなされた容積未消化に注目し、35年経過した既存建物の価値を継承しながら、内装・設備改修による居住性能向上、躯体安全性の確保とともに、容積を使い切る増築を共存させることで敷地のポテンシャルを最⼤限活⽤した計画である。
 既存建物を生かすために、設備全更新に対応した3Dスキャンによる既存スリーブの調査と利用最大化、共用部の設備ボイド設置と機器の集約、モルタル剥離技術による外壁再生などさまざまな既存を利かす技術がなされている。特に、建物の中性化深さとかぶり厚さを現地調査し、仕上げ、ならびに、コンクリートの中性化抑制効果の評価と進行を予測して、残存耐用年数を再計算の後、65年の耐用年数の証明と第三者の評価取得、さらに増改築物件として初の長期優良住宅認定など、安全安心を建築主に提供したことは注目に値する。改修と増築のハイブリッドによって、現代に合わせた住環境を付加する既存ストックの継承を高い技術力で実現したことを評価したい。
(奥野 親正)
●新人賞
ニセカイジュウタク
設計|横井創馬建築設計事務所
   佐瀬和穂建築設計事務所
   みゆき建築計画設計部  「ニセカイジュウタク」この変わったネーミングは8つのスペースを二重螺旋的動線で立体的に編むことでその組み合わせが数式上では100通りにも上るとのことで、多様な組み合わせでふたつの領域(セカイ)をつくる可変性を表している。ハウスメーカーの企画コンペ案だったため、当初は特定のクライアントがいなかったそうで、多様な住まい方に対応する可変性の高いプロトタイプとして考案されている。家の中を巡ると、さまざまな場面が現れる街中を歩くような流動的な空間構成が魅力的だ。水回りをふたつの動線の接点として中央に配置して、さまざまな領域化において共有できるように配慮されている。空間構成の可変的利用を実践として捉え、個別解に留まることなくストックの一般解として提案されている優れた作品である。
 窓からは雑然とした隣家が見えるが、街中を歩くような体験と映り込む外部の風景の解像度が妙に一致して、内外で街が連続しているような不思議な空間体験だった。開口にスクリーンを下さない開放的な住まい方も、この家の魅力を最大化している。住まい手がこの家を住みこなすことで個別解としての魅力が生まれていることは、つくり手が残した余白がうまく機能しているといえるだろう。
(石井 秀樹)
●戸建住宅部門|最優秀賞
斜と構
設計|加藤大作/UND  木造住宅密集地域の狭隘道路に面する30㎡の狭小敷地、軟弱地盤という条件を受けながら、建築家は居心地のいい個性豊かな住宅を提案した。限られる資金と施工条件をやりくりし、構造的には鋼管杭と木構造、シャッターと断熱防火パネルでくるんだ室内空間は、スキップフロアで連続した立体空間としてまとめられている。
 先鋭的に奇を衒ったかに見える斜め柱でさえ大黒柱のような存在となり、身体寸法を十分確認しながら配置し、構成要素のひとつひとつを決めていったということが、その空間に身を置くとよくわかる。
 日射しや風の流れ、付近の街の様子や遠望するスカイツリーなどの戸外の環境も手中に収めつつ室内環境を整え、移ろう時を楽しみ暮す。そして、近隣親戚友人が集い、ご主人が手料理を振る舞う機会ができたとのことは何よりである。それもこれも周辺に建つ同じような条件の住宅の在り様とは異なるけれど、案外よさそうだと気付かせ、手に入れる方法を教えているからであろう。
 挑戦は建て主・施工者・建築家の協力と信頼のもとに生まれ、その周囲にも広がる可能性に期待し、最優秀賞とする。
(平倉 直子)
●戸建住宅部門|優秀賞
柿の木坂通りの家
設計|若松均建築設計事務所  目黒の閑静な住宅地に建つ若い家族4人のための4階建ての住宅である。外部からは一見閉鎖的に見える印象とは異なり、その「大きな気積」の内部空間は、屋上ルーフテラスまでがひと続きとなるスキップフロアが立体的に組み合わされ、流動的に変化するシークエンスが心地よい。外の光景を縁取る大小さまざまな窓開口部、また照明器具や程よい装飾性を持つ家具調度品が絶妙な間を空けて配置されている。その抽象性ゆえか、空間的な距離感または心理的かかわり感によるものか、安心感に満たされる住まいである。また、エントランス吹き抜け部に置かれたガジュマル周辺の木陰のような居場所づくりや、外光が差し込む木製内開窓の設えなど、あたかも外部にいるかのような空間印象を随所につくり出している。特に、空間の中心に位置するダイニングスペースに立つと、内と外が反転し、外部テラスにいるような感覚に包まれる。壁面入角部での換気通風が行える開口部の配置等にも機能面での細やかな配慮がなされており、卓越したバランス感覚のもとで、空間全体に生活のリアリティが感じられる居心地のいい場が見事につくられている。
(北 典夫)
●戸建住宅部門|奨励賞
立川ANNEX
設計|MDS
   坂田涼太郎構造設計事務所  10年ほど前に応募者が設計したアパレルメーカーの本社およびオーナー住宅に隣接するアネックスである。隣のRC5階建ての本棟とは対照的に、木造2階建ての軽やかな建築としている。構造的には1、2階を貫通する通し柱に架け渡された水平梁から伸びてHP面を構成しながら母屋を支える斜材が特徴的であり、空間を印象付けている。また複数の用途地域にまたがる敷地の中で、第1種低層住居専用地域に建物をまとめることで木造を実現している点も評価できる。
 内部は1階、2階ともワンルーム空間で、1階部分は本社機能を補完する倉庫や写真スタジオとして、また2階部分はオーナーが主に別宅として利用している。
 住居として使用される2階部分は妻面を全面開口として明るい空間としながら、ポリカーボネートの中空板を採用することで、外からの視線をカットし、西日を遮りながら断熱性能を確保した快適な空間を実現している。そしてそれを単純な納まりとローコストとで実現している点は見事である。また住宅内部のつくり込みや、外構の設えなど、オーナーが自ら行っている点も特徴的である。
 半分は本社機能の一部であり、住宅部分も多目的な利用が想定されることから、審査委員会ではこれを戸建住宅として評価することについて議論もあったが、それを差し引いても余りある魅力があり、都会における別荘的住居としての新たな住まい方の提案として評価するものである。
(永池 雅人)
●共同住宅部門|最優秀賞
チドリテラス
設計|フジワラテッペイアーキテクツラボ  大田区千鳥町に建つ18戸からなるコーポラティブハウス。かつては大邸宅が建っていた屋敷跡に、既存の大樹や周辺の緑、元からある小径、近所の「くさっぱら公園」との接続などが入念に検討されており、さらに落差のある敷地を活かした快適で閉塞感のない集合住宅を実現した。それぞれの住戸のオーナーからの要望を丹念に汲み取り、地階から屋上階まですべてプランの異なる、立体パズルのような多様な住居の複合体を計画した手腕は見事である。
 建物容積に算入されない地下階の住居を最大限に取り込んでいるが、いずれも解放感のあるドライエリアを併設し、豊かな光が差し込む地下とは思えない地下居室が生まれている。雁行する平面にX、Y両方向の耐震壁を巧みに配置し、それ自体がRC造の堅牢さと安心感をもたらすものとして象徴的に働いている。
 さまざまなレベルに計画された各戸へのアクセスも、必然的に多種多様なものとなるが、住戸によっては共用部からのテラスアクセスが半ば開放されていたりして、集合住宅にありがちな他人を疎外する共用部廊下の冷たさがない。さながらヨーロッパの山岳都市の細街路を逍遥するようで、とても楽しい空間となっている。
(古谷 誠章)
●共同住宅部門|奨励賞
ニコタマテラス
設計|奥野公章建築設計室  かつて渓谷であった坂道に面する10戸からなるコーポラティブハウスである。瀬田玉川神社を頂上に東から西へと下っていく崖線の緑の景色の軸と、北側隣地の借景から多摩川へと下っていく南北の景色の軸を活かした配置とするために建物が鈎型に配置され、擁壁との間にできる空間が、長屋通路を兼ねた住民のコモンスペースとなっている。緑の谷や屋上の植栽は武蔵野台地の緑の景色を形成する自生種が植栽され、将来的には瀬田玉川神社の木々のように大きくなり、国分寺崖線の原生の景色継承する森の中の住まいとなることが意図されている。
 住戸は1階+地階のメゾネットタイプと1階+2階のメゾネットタイプで構成されている。2階と地階は3.2m~3.8mの天井高があり、2階では、天井までの大開口で周辺の緑の景色とつながる空間となり、地階では、敷地内の高低差を利用することで庭と繋がる空間となっている。
 高天井・大開口の建築計画に対する適切な温熱環境設計もなされ、住まい手の希望が叶えられるコーポラティブハウスの強みが発揮され、ロフトを組み込んで使ったり、そのままの大きな天井高さを楽しんだりと、住戸毎に立体的で変化に富む豊かな生活空間住が創出されている。
(伊香賀 俊治)
●共同住宅部門|奨励賞
鶯啼居
設計|山岡嘉彌デザイン事務所  江戸時代から残る店蔵を保存再生しながら、母屋と共に共同住宅へと建て替えを行ったものである。店蔵部分の再生にあたっては、研究者らと共に解体前、解体中、解体後にわたり綿密な実測調査を行っており、忠実に再現されている。また部分的にあえて仕上げを途中で止めて、その仕組みを見えるようにするなど、技術の継承にも心配りがされている点が目を引く。ただ、でき上がった空間があまり積極的に活用されていなかった点がやや残念である。
 本建物は共同住宅であるが、住宅部分は見ることができなかった。ただ図面からは特に特徴的な部分は見受けられない。その代わりとして見せていただいたオーナーの住居部分は、屋上もうまく使いながら快適な空間が構成されており、細部まで目が行き届いた優れた設計であった。
 もうひとつ特筆すべき点は、単に単体建物の建て替えにとどまらず、街づくりにも目を向けて先導的な役割を果たすことも意図している点である。まず建物を道路からセットバックし、道路に面した部分は低層に抑えている。そしてそれをベースとした通りの将来像を作成しており、すでに隣の建物はその意図を受け入れ実践しているなど、将来に可能性を感じさせる点も評価できる。
(永池 雅人)
●共同住宅部門|奨励賞
台と家
設計|TOASt  築50年の35㎡RC造4階建て壁式アパートの内装全面改修。なんの変哲もない和室2Kの木軸間仕切壁と天井を撤去してワンルーム化することで、角部屋ならではのパノラミックな眺望・通風と、最上階住戸の持つ2.9mの天井高さが生み出す快適さを「発見」した設計者の目利きを評価したい。
 食器棚、クローゼット、キッチン、バスなどを床から浮遊させ「機能を内包した箱」化することで、狭小住戸に広がりを与えている。またこれらの装置のいくつかは移動可能で、限られたスペースの住まい方の工夫のための道具立てとしても機能しており、若い夫婦ならではの変幻自在な生活の舞台装置でもある。
 ミニマルではあるが決して閉じ籠らず、3方の窓が提供する西新宿の高層ビル群を臨む眺望は、この最小限住居が社会に開かれていることを示している。将来性を感じさせる若いふたりの設計者夫婦へのエールとしてここに奨励賞を送るものである。
(宮原 浩輔)
●一般部門一類|最優秀賞
道の駅しょうなん てんと
設計|NASCA  屋根の下に広がる開放的な空間が魅力的な「道の駅」の計画。施設は地域のゲートとしての役割に加え、地域活性化の拠点を担う公共施設としての役割も期待されていた。設計者はその問いかけに対して、もともと敷地に広がっていた農業ハウスの連続した切妻屋根にインスピレーションを受けた大屋根を提案することで答えた。
 興味深いのは、これをさらに45度振った角度で切り取ることで、ともすれば見慣れた感もある連続切妻屋根というモチーフを一変させ、建築の内外をつなぐ「発明」とでもいえそうな提案を試みていることだろう。
 設計者は「パースペクティブな効果」を狙ったと説明されていたが、ボリュームを45度でカットすることで遠近感が強調され、独特の存在感を示している。この45度カットにより同時に、屋外空間から軒下へ、さらには軒下から内部空間へとつながる、矩形の空間ではつくりえない独特な流動感も生まれている。切妻屋根のディテールや構造も丁寧に検討されていて、地域の交流の場にふさわしい空間が生み出されている。こうしたハードウェア部分での丁寧な設計に加えて、オペレーションとのすり合わせも徹底されているなど、高い評価に値する作品である。
(山梨 知彦)
●一般部門一類|優秀賞
ROPPONGI TERRACE
設計|シーラカンスアンドアソシエイツ/CAt  敷地は、六本木といいながらも、ギリギリまで小規模な建物が密集する下町のような地域にあり、計画地はさらにその中の旗竿状敷地の奥に位置する。幸いにも、1段高いレベルではあるが、東側に開かれた公園があり、設計者はこの敷地の持つかすかなポテンシャルを最大限に引き出し、住宅スケールの12室からなる快適なワンルームテナントオフィスを実現している。
 建物は、公園側に向かって逆梁のスラブを斜めに持ち上げた特徴的な断面計画からなり、公園からの視線を見事にコントロールしつつ、光や風を室内に取り入れている。一般的に、「開かれている」といいながらもカーテンやブラインドで閉じて使われることが多いが、この建物では、審査時も、ほとんどのオフィスが設計者がイメージしていたであろう公園に対する開放的な使い方をしていることが印象的であった。
 また、この建築で特筆すべきは、優れた空間構成だけでなく、裏方になりやすい共用部や外廊下に対しても建築的な可能性を探りながら高い品質の建物を実現している点であり、このような小規模な施設に対しても、真摯に向かい合う設計者のプロフェッショナリズムが随所に感じられることである。高く評価したい作品である。
(宮崎 浩)
●一般部門一類|優秀賞
上越市雪中貯蔵施設 ユキノハコ
設計|海法圭建築設計事務所  端正な切妻形式の建築は、現地で実物を見ると、応募写真から予想していたよりよほど大きな建物だった。上越市の担当の方から、豪雪地帯上越市の地域特性を活用するという目的から「雪室」を公設することが行われていること、蓄積した雪の容量が雪を春から秋まで残せるかどうかにはクリティカルなので、この施設規模(貯雪量90t)が適正になる、というお話を伺った。
 貯雪室と農作物を保管する貯蔵庫はおよそ同規模なので、そこから建物の適正規模が導き出される。雪室は、単純にいうなら、雪という自然エネルギーを活用した大型冷蔵室なのだが、冷蔵室周囲を断熱(冷蔵)パネルで囲い、鉄製の雪カゴをその内側に並べて木造壁面に雪荷重の負担が行かないようにするというノウハウ(地元の特許)もこの「初源の小屋」を成立させるには不可欠なのである。
 初源の小屋と書いたが、冷蔵のテクノロジー以外は、この建築では徹底して最小限のデザイン操作で構成されている。開口部もサッシを使用する箇所は限定的にして、厚18mmの杉板透かし張りにして細いスリット状の開口をつくり、通風と採光をとっている。雪室上部を架構する必要があるので、木造架構としては決して短いスパンではないが、標準寸法の製材で鮮やかに解いている構造設計もなかなかの腕前である。
(渡辺 真理)
●一般部門一類|奨励賞
リバーホールディングス両国
設計|竹中工務店  墨田区に位置する、リサイクルを中心としたグループ会社を統括する持株会社の新本社ビルである。周辺環境の中で際立つ白い曲線の外観が印象的な建築である。うねる白の壁面が折り重なり、刻々と変化する光と影が映す姿はとても美しい。またエントランスへの導入アプローチや内部の緩やかに連続する空間は、人の行動を自然に促してくれているかのようである。
 アクティビティのデザインと環境デザインとを繋げ、人によって違う環境の嗜好性に着目した不均質な環境が誘発するワークプレイスづくりを、環境シミュレーション、ビジュアルプログラミングなどの手法を積極的に活用した設計アプローチで試みている。
 エビデンス・ベースド・デザインの重要性が増しているが、単にデータに基づくエビデンスが答えを導くわけではなく、むしろ想定を超えた別視点から意想外のデザインを導き出すことが期待される。
 この建築には、静的な領域から空間・建築を動的で可変性のあるものとして変容させていくようなイメージが浮かぶ。さらには、高品質な建築をつくる上で、施工現場の視点からの設計へのフィールドバックにも多くのヒントがあったに違いない。
(北 典夫)
●一般部門二類|優秀賞
東京ポートシティ竹芝オフィスタワー
設計|鹿島建設
   久米設計  東京都公募の「都市再生ステップアップ・プロジェクト」という官民連携による再開発プロジェクトである。東京都から70年間定期借地で借り受けた1.2万㎡の敷地に、地下2階、地上40階建てのオフィスタワーと、地上18階建てのレジデンスタワーからなる総延床面積18万㎡の大規模複合施設である。
 浜松町駅から首都高速を跨いで、竹芝駅、竹芝埠頭に至る全長500mの歩行者デッキも整備され、オフィスタワーの低層部にはイベントホール、飲食店舗、都立産業貿易センター、多目的スタジオ、会員制シェアオフィス等が配置され、6階のオフィスロビーを介して、高層部には大手IT企業の本社が入居している。
 低層部の8層のステップテラスには緑豊かなにぎわいの立体広場が創出され、生物多様性保全に関するさまざまな取り組みも行われている。高層部のファサードは海に対して大きく開き、旧芝離宮恩賜庭園、浜離宮恩賜庭園と調和する横基調の端正なデザインとなっている。また、環境・社会への配慮に対してDBJグリーンビルディング認証の最高ランクも取得し、多様なアクティビティを生み出す官民連携のエリアマネジメント活動など、竹芝地区の魅力あるまちづくりに貢献している。
(伊香賀 俊治)
●一般部門二類|優秀賞
WITH HARAJUKU
設計|竹中工務店
   伊東豊雄建築設計事務所  原宿駅前に再開発された延床面積約26,000㎡からなる、商業施設、多目的ホール、集合住宅などからなる複合施設。JR山手線を挟んで明治神宮の広大な杜と対峙している。
 計画地周辺が江戸時代には「源氏山」と呼ばれた地形であったことに遡り、また北東側には竹下通りへとつながる小スケールの遊歩空間に接することから、駅前の大きなボリュームから段々状にスケールを下げ、「丘」を彷彿とさせるデザインとしたことが奏功している。
 駅前側からは「パサージュ」入口となる大きな空洞を経て、ふんだんに緑化されたステップ状のテラスに至り、各所の滞留スペースに陣取って思い思いにくつろいだり、また店舗やレストランなどを巡りながら、敷地周辺の細街路に至るまで、変化に富んだ散策も楽しめるようになっており、都市の公共空間を豊かなものにしている。
 上層階の住居群は豊かな眺望に恵まれており、西側は明治神宮越しの夕陽を眺め、また東側は広く首都の中心部を見晴らすシティ・ビューを楽しむことができる。住戸のファサードではバルコニー部分の軒天や界壁を木製として、均整の取れた、それでいて柔らかみのある独特の外観を生み出していて、とても爽やかである。
(古谷 誠章)
●一般部門二類|奨励賞
三菱電機ZEB関連技術実証棟「SUSTIE」
設計|三菱地所設計  電機メーカーの総合研究所に建つZEB関連技術の実証のための施設。省エネと併せて職員間のコミュニケーションの活性化や快適性向上等を目指している。実証棟とあるように、さまざまな実験的試みがそのまま汎用性を持つとはいえないものの、ZEB達成のために日々苦労している者として参考になる手法が多々あった。
 6,000㎡規模のZEBはまだ事例が少ないと聞くが、本建物は設計値で106%、実測値で115%の省エネ+創エネを達成している。建築面では、吹き抜け空間北面の大きな窓から落ち着いた自然採光を取り入れたり、空調強度を低くした吹き抜け空間を打ち合わせスペースに活用して空調エネルギーを低減するなどの工夫が目を引く。設備面では、輻射空調などの高効率設備機器の採用に加え、主照明の照度を最低限に抑えつつZEB計算に算入されないタスク照明で必要な照度を確保する工夫は巧みである。太陽光パネルで覆われたため屋上に置けなくなった室外機は、熱負荷低減のために無窓壁とした東面に配置することで逆にメンテナンス性・更新性の向上と冷媒配管長の短縮化が図られている。
 単に消費エネルギーを低減するだけではなく、健康的な環境を評価するWELL認証とCASBEE SWOのSランクも取得しており、省エネとオフィスの快適性両立を評価して奨励賞としたい。
(宮原 浩輔)
奥野 親正(おくの・ちかまさ)
構造家、株式会社久米設計環境技術本部構造設計室室長
1968年 三重県生まれ/1991年 明治大学工学建築学科卒業/1993年 明治大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了/1993年 久米設計
平倉 直子(ひらくら・なおこ)
建築家、平倉直子建築設計事務所主宰
1950年 東京都生まれ/日本女子大学住居学科卒業/日本女子大学、関東学院大学、東京大学、早稲田大学等の非常勤講師を歴任
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、プランツアソシエイツ主宰
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立
石井 秀樹(いしい・ひでき)
建築家、石井秀樹建築設計事務所株式会社代表取締役
1971年 千葉県生まれ/1995年 東京理科大学理工学部建築学科 卒業/1997年 東京理科大学大学院理工学研究科建築学科修了/1997年 architect team archum 設立/2001年 石井秀樹建築設計事務所へ改組/2012年~一般社団法人 建築家住宅の会 理事
北 典夫(きた・のりお)
鹿島建設株式会社建築設計本部長、専務執行役員
1958年横浜市生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、鹿島建設株式会社
永池 雅人(ながいけ・まさと)
一般社団法人東京都建築士事務所協会副会長、株式会社梓設計フェロープランナー
1957年 長野県生まれ/1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、梓設計株式会社入社/現在、同社フェロープランナー
古谷 誠章(ふるや・のぶあき)
建築家、早稲田大学教授、NASCA主宰
1955年 東京都生まれ/1978年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1980年 早稲田大学大学院博士前期課程修了/1990年 近畿大学工学部助教授/1994年 早稲田大学理工学部助教授/1994年 NASCA設立/1997年 早稲田大学理工学部教授(現・創造理工学部教授)/2017年 日本建築学会 会長/2021年 東京建築士会 会長
伊香賀 俊治(いかが・としはる)
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授
1959年生まれ/早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了/(株)日建設計 環境計画室長、東京大学助教授を経て、2006年より現職/専門分野は建築・都市環境工学/博士(工学)/日本学術会議連携会員、日本建築学会副会長
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
東京都建築士事務所協会港支部、株式会社山田守建築事務所代表取締役社長
1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社
山梨 知彦(やまなし・ともひこ)
建築家、株式会社日建設計チーフデザインオフィサー、常務執行役員
1960年 神奈川県生まれ/東京藝術大学美術学部建築学科卒業/東京大学大学院都市工学専攻修了/1986年 日建設計
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学デザイン工学部建築学科名誉教授、学校法人片柳学園理事、株式会社設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを木下庸子と設立
カテゴリー:東京建築賞