東立石保育園
設計|相坂研介設計アトリエ
第49回東京建築賞|東京都知事賞
住宅に隣接する方を閉じたC型の園舎。
  • 住宅に隣接する方を閉じたC型の園舎。
  • 近くを流れる天井川。
  • 建築を活かしたタイヤロープの素朴な遊具。
  • 300人が腰掛けて救助を待てるひな壇テラスと屋上広場。
  • 避難時は隣のランチルームと寝食分離できる遊戯室。
  • 避難動線ダイアグラム
  • 水害時はさまざまな救助が可能。
  • 配置・1階平面図
  • 2階平面図
  • 3階平面図
  • 屋階平面図
  • 断面詳細図
建築主:
社会福祉法人徳育会
表彰建築士
事務所:
一級建築士事務所株式会社相坂研介設計アトリエ
施工:
株式会社三浦工務店
所在地:
東京都葛飾区東立石4-45-5
主要用途:
保育所
構造:
RC造、一部S造
階数:
地上3階
敷地面積:
1,296.63㎡
建築面積:
779.81㎡
延床面積:
1,380.58㎡
竣工:
2021年3月
撮影:
小川 重雄
設計趣旨:
 東京葛飾区、海抜0mの住宅街に建つ定員165名の保育園。旧園の歴史や環境を引き継ぎ、現代の複雑なニーズを満たすだけでなく、未来の子どもや地域に愛される園を実現させるべく、園児がのびのび遊べ、保育士も保護者も安心できる「家」、体を動かし考える力を養う「公園」、命や食への感謝を知る「学び舎」、そして天井川の氾濫の際には地域の拠りどころとなる「砦」の、4つを兼ねる建築を提案した。災害時は園児・職員に加え地域住民も含め約300名が広い階段に腰かけて救助を待つことができる。
 市街地の児童施設に昨今必須の近隣への音や視線の配慮を前提にしつつ公園を通じて街に開かれたり、さまざまな災害に備えた螺旋状の回遊動線やひな壇や屋上が、普段は園児の楽しい遊びに活かせるような建築を、多元連立方程式を解くように設計した。一方、意匠は子どもに近寄り過ぎず、納まりや色彩を慎重に整理し、さまざまな社会変化に長い年月にわたって柔軟に対応できる、質の高い空間を目指した。
(相坂 研介)
相坂 研介(あいさか・けんすけ)
相坂研介設計アトリエ
1973年 東京都生まれ/1996年 東京大学工学部建築学科卒業/1996~2002年 安藤忠雄建築研究所/2003年 相坂研介設計アトリエ設立/2016~2021年 日本建築家協会関東甲信越支部常任幹事/現在、法政大学、東洋大学非常勤講師
選考評:
 保育園事業者と設計事務所が組んで民営化プロポーザルコンペにより選出され、東京都や葛飾区の要望を調整しながら実現に至る。
 区全域が災害時には浸水地域となることから、子ども・親・保育士・運営事業者など関係者および近隣住民の一時待機所となることが求められた。公園に一方を開く園庭をコの字型に囲む建物は、外部および外来者への備えと保育の日常に目のいき届く配置である。また3階屋上への避難ルートをわかり易く導き、屋外での子どもの遊びを促進し、保育と区民の高所避難、ふたつの目的を矛盾することなく見事に解き提案している。2階から3階屋上へ続くスロープやゆるい階段の木質デッキは、その質感によって心地よい場所として記憶され、活用されることを期待する。
 通常の保育園に加え、独立した子育て支援室や災害避難所として食事の提供や備品の保管を想定し、厨房やトイレ、シャワーなど設備を共有できるようによく考えられて配置されている。
 多くの関係者の意向を粘り強く調整しながら、当初の提案イメージを損なうことなく更新し、まとめた建築家と関係者一同のエネルギーに敬意を表します。
(平倉 直子)
平倉 直子(ひらくら・なおこ)
建築家、平倉直子建築設計事務所主宰
1950年 東京都生まれ/日本女子大学住居学科卒業/日本女子大学、関東学院大学、東京大学、早稲田大学等の非常勤講師を歴任