上越市雪中貯蔵施設 ユキノハコ
設計|海法圭建築設計事務所
第49回東京建築賞|一般部門一類 優秀賞
北側外観。左の扉は来客用出入口。
  • 北側外観。左の扉は来客用出入口。
  • 北西側外観夜景。
  • 西側の回廊。
  • 北側の回廊。西方向を見る。
  • 貯蔵庫より外部を見る。
  • 1階平面図
  • 2階平面図
  • 断面図
建築主:
上越市
表彰建築士
事務所:
一級建築士事務所海法圭建築設計事務所
施工:
株式会社サトウ産業、上越技研株式会社、島津工業株式会社
所在地:
新潟県上越市安塚区樽田158
主要用途:
倉庫
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
1,324.04㎡
建築面積:
356.15㎡
延床面積:
432.31㎡
竣工:
2021年3月
撮影:
水津 惣一郎
設計趣旨:
 新潟県上越市安塚につくられた木造の雪室。雪室とは雪の冷熱を利用した天然の冷蔵庫であり、ここでは地域で収穫した米を主に貯蔵する。雪室米として付加価値を付け棚田農家の所得向上に繋げたいというのが上越市の思いである。
 貯雪室内は高湿度で、雪圧等で建物が損傷することもあるためRC造が一般的であるが、木造で廉価な雪室をつくることができれば、利雪の機運が高まり、雪エネルギーの利用促進に繋がる。
 周囲に巡る半国外の回廊は、来訪者が雪室や地城の魅力を学ぶギャラリーとした。回廊の外壁は貯雪室を囲む内側の断熱壁への日射を防ぎ、環境負荷を低減すると同時に、冬期の営囲いも兼ねる。また回の長柱を分割するように組柱とし、地場のスギの小径材を利用した在来工法で必要なスパンや天井高を確保した。雪、人、米、木、風、熱など、さまざまな規模や特徴を持つ循環の一部を補完したり、よりよい循環の接点を見つけたりすることで、雪室という建物の形にしている。
(海法 圭)
海法 圭(かいほう・けい)
海法圭建築設計事務所
1982年 秋田県生まれ/2005年 束京大学工学部建築学科卒業/2007年 同大学大学院修士課程修了/2007–09年 西沢大良建築設計事務所/2010年 海法圭建築設計事務所設立/現在、芝浦工業大学非常勤講師、法政大学非常勤講師
選考評:
 端正な切妻形式の建築は、現地で実物を見ると、応募写真から予想していたよりよほど大きな建物だった。上越市の担当の方から、豪雪地帯上越市の地域特性を活用するという目的から「雪室」を公設することが行われていること、蓄積した雪の容量が雪を春から秋まで残せるかどうかにはクリティカルなので、この施設規模(貯雪量90t)が適正になる、というお話を伺った。
 貯雪室と農作物を保管する貯蔵庫はおよそ同規模なので、そこから建物の適正規模が導き出される。雪室は、単純にいうなら、雪という自然エネルギーを活用した大型冷蔵室なのだが、冷蔵室周囲を断熱(冷蔵)パネルで囲い、鉄製の雪カゴをその内側に並べて木造壁面に雪荷重の負担が行かないようにするというノウハウ(地元の特許)も、この「初源の小屋」を成立させるには不可欠なのである。
 初源の小屋と書いたが、冷蔵のテクノロジー以外は、この建築では徹底して最小限のデザイン操作で構成されている。開口部もサッシを使用する箇所は限定的にして、厚18mmの杉板透かし張りにして細いスリット状の開口をつくり、通風と採光をとっている。雪室上部を架構する必要があるので、木造架構としては決して短いスパンではないが、標準寸法の製材で鮮やかに解いている構造設計もなかなかの腕前である。
(渡辺 真理)
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学デザイン工学部建築学科名誉教授、学校法人片柳学園理事、株式会社設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを木下庸子と設立