設計に携わった構造設計担当者が語る
大阪・関西万博大屋根リングの設計から完成まで
品川支部|令和7(2025)年7月31日(木)@梓設計AZS HALL
小林 正典(東京都建築士事務所協会会誌専門委員会・品川支部、株式会社相和技術研究所)
小林裕明 構造部門代表からの構造架構計画の説明。
林 将利 構造部ダイレクターチーフエンジニアによる大屋根の構造デザインの説明。
大屋根リングの構造架構計画の説明スライド。
構造デザインの説明スライド。
仕口仕様の説明スライド。
講演結びのスライド。

 大阪・関西万博のシンボルである大屋根リング。その基本設計の構造を担当された株式会社梓設計にご講演いただいた。当初、定員40名の予定であったが、定員数をさらに増やし、梓設計本社AZS HALLにて開催した。
 主催者の開会挨拶の後、構造部門代表 小林裕明様、構造設計担当者 ダイレクター 林将利様より説明いただいた。

全体の構造概要説明(要約)
小林 裕明 構造部門代表
 大屋根リングは、建築面積6万1035㎡、内径約615m・外径約675m、内側高さ約12m・外側高さ約20mとなっています。エキスパンションジョイントのない全周約2kmのリングです。
 基本設計は東畑建築事務所(意匠)・梓設計(構造)共同企業体で担当しました。設計期間は6カ月間という短い期間で行いました。その後、実施設計を担当される大林組(北東工区)、清水建設(南東工区)、竹中工務店(西工区)に設計を引き渡し、試験等を行いながら性能を検証し、設計を進めていきました。
 現地は地盤の状態が良くなく、先に施工地盤をつくることから始め、パビリオンワールド側は直接基礎(浮き基礎)、ウォータープラザ側は万博終了後の杭の引き抜きを考慮し、先端羽根付鋼管杭としています。上部構造は木造の純ラーメン架構を基本とし、3.6mモジュールの木架構グリットと7.2mスパンの吹き抜けを円形に連続させた木回廊となっています。
 柱・梁の接合部は有識者とも相談しながら、貫接合を採用しました。鋼棒・鉄くさび等でパネルゾーン部分を補強しながら、つくりやすく、解体・再利用しやすく、スケール感のある構造計画ができたと思っています。
構造設計担当者による詳細説明(要約)
林 将利 構造部ダイレクターチーフエンジニア
 大屋根リングは3.6mモジュールのグリットで構成したユニットを構造的に成立させ、ピン接合で少しずつずらしながらつなげ、全周2kmのリングをつくっています。ユニットをつなぐ空間は、リングの内外をつなぐ通路として計画しています。
 木材は国産材を約70%使用しています。強度・剛性を考慮しながら、柱はヒノキ材、梁はスギ材を使用しています。外国産材は約30%使用し、ヒノキに近い強度をもつオウシュウアカマツとしています。柱と梁を合せて約2万m3の木材を使用しながら、実施設計では床材にも木材(CLT)を使用するかたちとしています。

【接合部の設計】
 接合部の設計においては、日本の伝統建築に倣うところから始めました。伝統的な懸造りをもつ京都・清水寺の舞台の高さは約12mです。大屋根リングの内側の高さに近く、同じ純ラーメンであり、接合部は貫接合となっています。貫接合部の力学的なメカニズムは文献等でも定式化されており、貫梁のモーメント抵抗は、木材の貫梁の繊維直行方向のめり込みによって抵抗します。くさびでしっかり締め固めることで接合部のモーメント抵抗が発現するかたちです。
 しかし、貫梁の繊維直行方向のめり込みは、靭性は高いが剛性は低く、大屋根リングの場合は強度・剛性が足りません。そのため、鋼棒と鉄くさびで接合部の強度・剛性を向上させ、伝統工法を現代技術でアップデートさせた貫接合の提案を行いました。設計を進めながら実大実験を行い、接合部を改良させていきました。

【3工区各社による仕口仕様・施工】
 仕口は剛性などの違いにより、低剛性タイプ・標準タイプ・高剛性タイプの3つのタイプに分け、剛性・耐力を増減させた接合部をつくっています。また、仕口の納まりは各工区によって異なり3工区3様となっています。
 竹中工務店(西工区)は基本設計の最終案に近い鉄くさび仕様、清水建設(南東工区)は基本設計の初期案近い引きボルト仕様、大林組(北東工区)はくさびを使用しない固定方法としています。短い工期の中、接合部の試験を行いながら性能を担保し、技術力を結集した仕口となっています。
 施工において、竹中JV(西工区)では仕口を固めるための締め付け治具を開発し、強度管理のしやすさと工期短縮につなげ、予定より2カ月早い上棟となりました。各工区とも合理的に作業するため独自の技術を取り入れながら作業の効率性を向上させました。

【各社とのコラボレーションの中で】
 リングの屋上に上がると全体が見渡せ、気持ちのいい空間です。リングの下を円周方向に移動するとシークエンスの差異が生まれ、意匠のコンセプトである森の中を散策するような空間ができたと思います。今年3月4日には世界最大の木造建物として、ギネス世界記録公式認定証授与式が開催されました。
 「多様でありながら、ひとつ」という、会場デザインコンセプトを体現する大屋根リングを完成させることができたのは、各社とのコラボレーションの中で英知を出し惜しみせずに、設計から施工まで一緒に協力し合えたからこそであると思います。ぜひ完成したリアルの大屋根リングを見ていただければ嬉しいです。
講演後のオフィスツアー。
結びに
 ご説明の後、15分程度の質疑応答を行い、盛大な拍手の中で閉会した。
 閉会後、ご厚意によりオフィスツアーを行った。講演会を行ったAZS HALLから、フロアを横断するランウェイと名付けられた場所に集まり、ワンフロア約5,300㎡のオフィスの説明をいただきながら、大屋根リングを設計されていたワークプレイスを見学した。
 その後、オフィスに併設されている開放的なカフェテリアにて、羽田空港を望みながら懇親会を行い、賑やかなひとときを過ごした。
小林 正典(こばやし・まさのり)
東京都建築士事務所協会会誌専門委員会・品川支部、株式会社相和技術研究所
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