座談会:魅力ある首都東京へ──建築設計界の取り組みや貢献を考える
日刊建設工業新聞社連携企画
谷崎 馨一(東京都技監兼都市整備局長)
山崎 弘人(東京都住宅政策本部長)
千鳥 義典(東京都建築士事務所協会会長)
山内 哲理(東京構造設計事務所協会会長)
武井 一義(東京都設備設計事務所協会会長)
齋藤 誠(日本建築積算事務所協会関東支部長)
座談会風景。
谷崎馨一東京都技監兼都市整備局長
山崎弘人東京都住宅政策本部長
千鳥義典東京都建築士事務所協会会長
山内哲理東京構造設計事務所協会会長
武井一義東京都設備設計事務所協会会長
齋藤誠日本建築積算事務所協会関東支部長

 意匠、構造、設備、積算と専門分野が異なる設計関連団体でつくる東京建築設計関連事務所協会協議会(TARC)。2019年7月に活動を始め、会員企業が抱える課題に共同歩調で対処し解決策を探っている。魅力ある首都東京をどうデザインしていくかも重要課題のひとつ。建築設計界は何に取り組み、どう貢献するべきか考えようと日刊建設工業新聞社と連携し、東京都幹部とTARC各団体代表による座談会を企画した。

ふたつの老い、空き家──今あるものをいかに生かすか
 都内では大規模な再開発が進んでいるが、既存建築物も多く、ストック活用が課題となっている。
 谷崎氏は「壊して新しいものをつくっていく取り組みは必要だが、今あるものをどう使っていくかという議論をしている」という。都はストック活用やリノベーションを都市政策の柱に据えており、モデル事業にも取り組んでいる。
 分譲マンションは都内の住宅戸数の4分の1を占め、旧耐震基準のものも多い。山崎氏は耐震化に加え、適切な維持管理や建て替えが今後の課題になると指摘。さらに放置されている空き家問題にも触れ、「それらを市場で流通させたり、地域資源として有効活用したりすることが必要である」と語った。
 千鳥氏もマンションの老朽化と住人の高齢化という「ふたつの老い」に言及。東京都建築士事務所協会(TAAF)でも「大規模修繕相談室」を昨年開設し、高経年マンションの調査や相談に応えているが、「調査段階で止まるケースが多く、工事着手までなかなか進まない」と話した。資金面の優遇や建築規制の緩和など、行政によるマンション再生の支援策強化が必要とし「解決に向けた具体的な取り組みを進めてほしい」と求めた。また、空き家問題に対しては「空き家対策WG」を立ち上げ、発生を未然に防ぐ方策について検討していると述べた。
構造・設備の耐震化──「再生建築の多様化」へ
 山内氏は「新耐震基準の建物は大丈夫と思われているが、すべてそうだろうか」と問題提起した。1981年に新耐震基準が適用されて以降、95年に阪神・淡路大震災が発生し、地震被害を踏まえてその後告示が改正された。初期の新耐震基準の建物は現行水準を満たさない既存不適格となっているため、「これらの再チェックも今後必要になる」との見解を示した。
 構造の耐震化は進んでいるが、「設備機器自体の耐震化はもう一歩というところ」と見るのは武井氏。東日本大震災ではダクトやラックが脱落し、避難ルートが妨げられた。建物(構造)は機能しているが、空調機など設備機器の機能が維持できないケースも結構あったとし、「機器自体の耐震改修も大事だ」と訴えた。
 工事費高騰の中、既存建物の建て替えは進んでいない。齋藤氏は対策案のひとつとして、工事費を低く抑えられ工事期間を短縮できる「再生建築」の多様化を提案。リノベーションとは異なり、建物の長寿命化を図るとともに、竣工後に新たな検査済証を取得できる。「国や自治体による補助金などがあれば、後押しできるのはないだろうか」と投げ掛けた。
新しい価値──地域の特色を建築やまちづくりに反映
 住宅性能表示制度や長期優良住宅制度が普及し、4月には改正建築物省エネ法・建築基準法が施行された。
 山崎氏は「住宅の耐震性・断熱性などは着実に向上している。都営住宅でも設計基準をZEH水準に引き上げている」と述べた。また、「東京こどもすくすく住宅認定制度」の普及や、「高齢者いきいき住宅制度」の検討などにも取り組んでいると説明した。
 谷崎氏は「都心部ではマンション価格が高騰し、今後、都市政策上また住宅政策上でもアフォーダブル住宅(手頃な価格の住宅)の供給が重要になる」と見る。新しい価値のひとつに「地域の特色」を挙げ、「地域の文化や歴史をどう建築物やまちづくりに反映させるか、これから大きな議論になる」との考えを示した。日本を取り巻く国際環境を踏まえ、シェルターの議論を進める必要性も説いた。
 武井氏は「設備設計の分野では脱炭素が大きなテーマとなっている」とし、最近では建築物のライフ・サイクル・アセスメント(LCA)、ライフサイクルの二酸化炭素(CO2)排出量(LCCO2)の議論や取り組みが活発になっていることを紹介した。
 9月中旬に都内で1時間に100ミリ以上の猛烈な雨が降って、川の氾濫や浸水被害が発生した。
 山内氏は「われわれは地震に強い構造に取り組んできたが、都市の内水氾濫や竜巻、富士山噴火などが起きたら、どうするのか。谷崎技監が話したシェルターも長期的には備えるべきだと思う」と主張。特に竜巻や噴石に対応できる木造住宅の指針などが必要になるとした。
数値で表せない価値も大切に
 千鳥氏は「数値で示せる価値や性能面での価値は、快適性の必要条件に過ぎない」と指摘し、「数値で表せない、あるいは文化的や感覚的、空間の質といった数値化しにくい価値も大切にしたい」と語った。新しくなる建物が地域の中でどのような役割を持ち、未来のためにどのように役立つかを考え、クライアントに説明することが求められていると話した。
 齋藤氏は建て替え時にプロポーザル方式の採用を主張し、「この方式は『何を建てるか』だけでなく『どうやって建てるか』などを重視するため、現代的な建築の目標や価値創造には極めて有効だ。適切な設計者の選定が、新しい価値を実現するのに重要となる」と説いた。
都市と生活の接点を細やかにデザイン
 魅力向上には建物単体だけでなく、都市・まちとの連携が重要となる。
 谷崎氏は「都市政策と住宅政策は一体のもの。6年前まで住宅政策本部は都市整備局のひとつの組織で共に都市づくり、住宅づくりに取り組んできた」と説明。現在、都市整備局の上位計画となる「都市づくりのグランドデザイン」の改定作業を進めており、住宅政策本部では「東京都住宅マスタープラン」の改定を予定。「まずは上流の部分を議論し、都民や建築設計業界などに示していきたい」と話した。
 山崎氏は「将来の都市の在り方を考えるとき、人口減少や災害リスクの高まりなどを踏まえ、都市の中でどこにどのような住宅の供給を誘導していくのかという議論が重要となる」と主張。その上で「都市づくりのグランドデザインの改定や新たな住宅マスタープランの中で具体的に示していければと考えている」とした。
都市スケールと生活スケールの領域を橋渡しすること
 「都市づくりのグランドデザインと住宅マスタープランの整合性を高め、融合していくことが求められている」と千鳥氏。都市スケールと生活スケールの領域を橋渡しすることが重要とし、「この二つの領域の接する部分『接点』のきめ細やかなデザインが大事だ。また、地域の特色を生かした個性的なまちづくりが求められる」と述べた。
 山内氏は「都市全体の魅力は個々の建物だけでなく、周辺環境との調和によって大きく影響される。都市整備施策と住宅施策が互いに連携することで、より魅力的な空間が生まれる」と強調。魅力的で持続可能な都市と住宅地を実現することで、住民に住みやすい環境を提供できるとした。
 武井氏は「建築設備というと建物の中のイメージだが、強靱化や脱炭素、都市計画の視点に立った時、インフラ、住宅、非住宅でエネルギー連携できないか」との考えを示した。さらに「スマートシティをイメージした取り組みにも挑んでいきたい」と述べた。
 都市整備施策と住宅施策を一体で進めることについて、齋藤氏は「『空間』だけでなく『生活』、『人の流れ』までも見据えた統合的なビジョンが不可欠だ」と主張。行政の縦割りを超え、まち全体として「どのような暮らしを実現したいのか」を軸に据えることが重要だと述べた。
(2025/令和7年9月16日、都庁第一本庁舎会議室にて)
文責:山口 裕照(日刊建設工業新聞社)
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