
写真❶ 上引き排気ダクト火災の事例

図① 各用語に対するイメージ図
1. はじめに
背景
焼肉店等で使用される七輪等の調理を目的とする火気器具上部に設置される排気ダクト(以下「上引き排気ダクト」)の火災は毎年一定数起きており、減少傾向にない。その原因のひとつとして、上引き排気ダクトの位置、構造及び維持管理の基準が定められていないことがある。背景
この問題を解決すべく令和6年度「火気器具上部に設置される排気ダクトの火災抑制方策に関する検討部会」を設置、ダクト燃焼実験をはじめ、上引き排気ダクトに関する各種火災抑制方策の検討を行い、「火気器具上部に設置される排気ダクトの火災抑制方策に関する調査研究報告書」をまとめた。
上引き排気ダクトの特徴
上引き排気ダクトの火災発生の大きな要因として、火源から排気取入口までの距離の関係がある。通常の厨房排気ダクトの場合、火源から排気取入口までの距離は約1m確保されていることが多い中、上引き排気ダクトは約20cmと短く、炎がダクト内に入りやすい構造となっている。
これを解消するために、火源から排気取入口までの距離を確保しようとすると、排気取入口での風量及び風速を高める、あるいは排気取入口付近に天蓋等を設け、捕集効率を高める等の必要がある。
しかし、現在の焼肉店舗の上引き排気ダクト環境を鑑みると、これを実現させるのは困難性が高い。
よって、本検討では、上引き排気ダクト火災を根絶させることよりも、火災が発生した場合の焼損範囲を最小限に抑えること、具体的には、上引き排気ダクト火災発生時の焼損範囲を枝ダクト内に抑え、主ダクトには到達させないことにより、写真❶のような焼損を防ぐことを目的とした。
用語の定義(図①参照)
本稿における用語の定義は、次のとおりである。⑴ グリス除去装置とは、排気中の油脂及びじんあい等を分離し、除去する目的で、排気ダクト又は天蓋内部に設けられる媒介物をいう。
⑵ 防火ダンパーとは、温度センサー、連動閉鎖装置及びこれらの取付部分を備えたもので、温度センサーと連動して自動的に閉鎖する構造を有し、排気ダクトへの火炎の伝送を防止するためのものをいう。
⑶ 温度センサーとは、温度ヒューズ等でダクト内の温度を感知するためのものをいう。
⑷ ボリュームダンパーとは、ダクト途中に取り付けられた羽根により、ダクト断面積を変化させて空気の流れを調節するものをいう。
⑸ 防火ボリュームダンパーとは、防火ダンパー及びボリュームダンパー両方の機能を有するダンパーをいう。
⑹ 主ダクトとは、上引き排気ダクトのうち、排気ファンに直接繋がるダクト部分をいう。
⑺ 枝ダクトとは、上引き排気ダクトのうち、主ダクトへ繋がるダクト部分をいう。
⑻ 縦ダクトとは、枝ダクトのうち、垂直部分をいう。
⑼ 横ダクトとは、枝ダクトのうち、水平部分をいう。
⑽ エルボとは、縦ダクト及び横ダクトを接続する部分をいう。

図② 実験装置イメージ図

写真❷ 実際の実験装置の写真
2. 調査研究報告書の概要について
焼肉店舗における上引き排気ダクトの現状
上引き排気ダクトを採用している焼肉店舗の多くで、縦ダクト部分に防火ダンパーを設置している中、ダクト内の油脂汚れ及び防火ダンパーの温度ヒューズの油脂の付着状況によっては、縦ダクト内に着火した炎が防火ダンパーを突破して延焼拡大するケースが多く、現状の延焼防止対策としては不十分であると言える。焼肉店舗における上引き排気ダクトの現状
そこで、縦ダクト部分に設置している防火ダンパーの設置位置を横ダクト部分に変更するだけでも、延焼防止効果が高まるのではないかと予測、これを実証するために図②、写真❷のような実験装置を作成し、さまざまな実験条件のもと燃焼実験を行った。
なお、燃焼実験は油脂及び炭により最もダクト内が汚れやすい、七輪を使用した焼肉店舗の客席に設けられた上引き排気ダクトを対象とし、検討範囲は上引き排気ダクトの枝ダクトまでに限定した。
燃焼実験の主な結果
燃焼実験の主な結果を以下に紹介する。⑴ 縦ダクトに設置して延焼突破された防火ダンパーの設置位置を横ダクトに変更し、さらに温度ヒューズ(感知温度165℃)を横ダクト断面の上部側に設置することで延焼防止効果が高まった。
⑵ ⑴において、温度ヒューズを感知温度165℃のものから120℃に変更した全ての場合で延焼を防止した。
⑶ 上引き排気ダクト燃焼時、縦ダクト及び横ダクトの温度上昇の傾向は同一であり、ともに最高温度のピークを示す時間帯は一致していた。
⑷ 全ての実験結果において、最も延焼防止効果が高かったのは、排気取入口からグリス除去装置までのダクト内には油脂を塗布せず、きれいな状態として燃焼実験した場合であった。
⑸ 上引き排気ダクトへの着火のしやすさは、風速が遅い方が着火しやすかった。
⑹ 上引き排気ダクト内着火後は、風速が速い方が延焼拡大しやすかった。
⑺ 上引き排気ダクト燃焼時、ダクト表面から10cm離れた位置での温度は100℃未満であった。

図③ グリス除去装置、防火ダンパー設置位置例

図④ 防火ダンパーの温度ヒューズ設置例

図⑤-1 横ダクトの長さが1m以上の場合

図⑤-2 横ダクトの長さが1m未満の場合
3. 本技術基準について
調査研究報告書の結果を受けて
調査研究報告書の結果を受けて、火気器具上部に設置される排気ダクト等に係る技術基準(以下「本技術基準」)を策定した。以下に、その概要を紹介する。
調査研究報告書の結果を受けて
本技術基準の主な内容
⑴ 上引き排気ダクト等の取扱い(図③参照)① 上引き排気ダクト等は、ステンレス鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板又はガルバリウム鋼板若しくはこれと同等以上の強度及び耐熱性、耐食性を有する特定不燃材料で造ること。
② 排気取入口からグリス除去装置までの縦ダクトについては、容易に取り外して点検及び清掃ができる構造とすること。
③ ②以外の上引き排気ダクトの接続は、フランジ接続、溶接等とし、気密性のある接続とすること。
④ 上引き排気ダクト等は、可燃性の部分から10cm以上の距離を保つこと。
⑤ 上引き排気ダクトは火気器具側から、縦ダクト、横ダクト、主ダクトの構成順とすること。
⑥ 上引き排気ダクトは、直接屋外に通ずるものとし、他の用途のダクトと接続しないこと。
⑦ 上引き排気ダクトは、曲がりの箇所を極力少なくし、立下りを避け、内面を滑らかに仕上げること。
⑧ 上引き排気ダクトは小屋裏、天井裏、床裏等の隠ぺい場所への設置は避けること。
⑵ グリス除去装置の取扱い(図③参照)
① 上引き排気ダクトには、グリス除去装置を設置すること。
② グリス除去装置は、耐食性を有する鋼板又はこれと同等以上の耐食性及び強度を有する特定不燃材料で造られたものとすること。
③ 排気取入口からグリス除去装置までの上引き排気ダクト等の部分は、排気中に含まれる油脂分を75%以上除去することができる性能を有すること。
④ グリス除去装置は、排気取入口と防火ダンパーの間に設置すること。
⑤ グリス除去装置の設置位置は、火気器具の火源から80cm以上、100cm以下とすること。
⑥ グリス除去装置は、容易に取り外して点検及び清掃ができる構造とし、予備品を備えること。
⑶ 防火ダンパーの取扱い(図③および図④参照)
① 上引き排気ダクトには、防火ダンパーを設けることとし、防火ダンパーはエルボに近接した横ダクト部分に設置すること。
② 防火ダンパーを作動させる温度センサーは、横ダクト内の断面上部側に設置すること。
③ 防火ダンパー及び防火ボリュームダンパーの温度センサーは、ダンパーの羽根軸を基点として、火源側に設置すること。
④ 上引き排気ダクトには、ダクト内の点検及び清掃並びに防火ダンパーの作動状態の確認に必要な点検口を設置すること。
⑤ 温度センサーの作動温度設定値は、概ね120℃とすることが望ましい。
⑷ 点検及び清掃(図⑤-1および図⑤-2参照)
① 排気取入口からグリス除去装置までの上引き排気ダクト等は、店舗の営業日ごとに点検及び清掃を実施すること。
② ①以外の枝ダクトは、目視等による点検を6カ月に1回以上実施すること。
③ ②の点検の結果、枝ダクト内に厚さ0.4mmを目安として油脂汚れが確認された場合は、防火ダンパーを含む枝ダクト内を清掃すること。
④ ③の清掃は、排気取入口から横ダクトの概ね1mまでの範囲を重点的に実施すること。なお、油脂の付着状況に応じて、上引き排気ダクト等全体を清掃又は交換すること。
⑸ 従業員等の関係者に対する出火防止対策指導
東京都火災予防条例第56条の2第3項に基づく使用検査の際は、従業員等の関係者に対し、以下の内容を指導すること。
① 利用客が一度に多量の食材を焼かないよう注意喚起すること。
② 一度に多量の食材を焼くことによる火災危険の周知を目的とした掲示物及びメニュー表等を作成し、適切な場所に掲示すること。
③ 客席への氷の準備等を徹底すること。
⑹ その他
① 燃焼に必要な空気の取入口及び排気口について
a) 火気器具は、燃焼に必要な空気を取り入れることができ、かつ、有効な換気が行える位置に設けること。
b) 燃焼に必要な空気の取入口及び排気口の基準として、東京都火災予防条例施行規則第3条の2を準用すること。ただし、上引き排気ダクト等の製造会社等が建築基準法関係を参考に算定した必要換気量を満たす場合はこの限りではない。
② 業務用厨房設備の基準に準じた設備を設置した場合について
本技術基準に替わり、東京消防庁予防事務審査・検査基準第3章第2節第2厨房設備2、⑸、ア「業務用厨房設備に附属する天蓋及び排気ダクト」の基準を採用した場合は、⑸の内容を除き本技術基準によらないことができる。
4. 本技術基準の運用開始日
本技術基準の運用開始日は2025年10月1日としている。
5. 既存の上引き排気ダクト等の取扱い
2025年10月1日時点において、既に存する上引き排気ダクト等又は工事中の上引き排気ダクト等に対しては、本技術基準は適用しない。
6. 参考資料
「火気器具上部に設置される排気ダクトの火災抑制方策に関する調査研究報告書」は、東京消防庁ホームページに掲載している。https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/kouhyou/report/duct_fire2.html
金野 浩幸(こんの・ひろゆき)
東京消防庁予防部予防課火気電気係長








