「THE TOKYO TOILET」見学会
新宿支部|令和4(2022)年〜令和7(2025)年に5回開催@渋谷区内
文・写真:小松 清路(東京都建築士事務所協会新宿支部副支部長、株式会社ASKA建築研究所)
「THE TOKYO TOILET」ウェブサイト(https://tokyotoilet.jp/)にあるロケーションマップ。
❶ 第1回:神宮通公園トイレ。(神宮前6-22-8、⑪|安藤忠雄)
❷ 第3回:恵比寿東公園トイレ。(恵比寿1-2-16、⑯|槇文彦)
❸ 第4回:鍋島松濤公園トイレ。(松濤2-10-7、⑫|隈研吾)
❹ 第4回:代々木深町小公園トイレ。(富ヶ谷1-54-1、⑧|坂茂)
❺ 第5回:集合写真。代々木八幡公衆トイレ。(代々木5-1-2、⑥|伊東豊雄)
「THE TOKYO TOILET」とはどのようなプロジェクトか
 日本の公共トイレの多くが「汚い、臭い、暗い、怖い」として利用者が限られている状況である。この状況を鑑み、性別、年齢、障がいを問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレをつくることを目指して、日本財団から渋谷区に構想を持ち掛けたプロジェクト(「ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定」のひとつの取り組み)であった。
概要──2020–23年、17カ所のトイレが渋谷区内に
 2018(平成30)年、柳井康治の発案により、「THE TOKYO TOILET」のプロジェクト(TTTプロジェクト)が企画された。事業費の21億円は、日本財団と、発案者の「ユニクロ」などを運営する株式会社ファーストリテイリングの取締役柳井康治が出資した。
 2020(令和2)年~23(令和5)年にかけて、渋谷区内に17カ所のトイレが順次設置された。
 日本財団、渋谷区、一般財団法人渋谷区観光協会が三者協定を結び実施していたトイレの維持管理業務は、2024(令和6)年4月1日以降、渋谷区に引き継がれた。
16人のクリエーターによる17のトイレデザイン
 17カ所の公共トイレのデザインには、16人の世界的に活動するクリエイターが参画した。
 クリエーターたちに提示された条件は以下の3つのみで、それ以外は各人に委ねられている。
①「公的に定められた建築基準法を遵守すること」
②「ユニバーサルデザインのトイレを設置すること」
③「トイレ内のレイアウト等についてTOTO(株)の監修を受けること」
 ファッションデザイナーのNIGO®はトイレ清掃員のユニホームをデザイン、グラフィックデザイナーの佐藤可士和は各トイレに使うピクトグラムのデザインも兼任している。
 設計施工は大和ハウス工業株式会社が行い、現状調査・設置機器提供はTOTO株式会社の協力を得ている。
継続して快適に使用できるために
 トイレを設置するだけでなく、継続して誰もが快適に使用できる公共トイレをつくることを目指し、プロジェクト全体を「デザイン」している。
【トイレ設置後のクリーニングサイクル】
①通常清掃(乾式):1日3回(綺麗なトイレは回数減)
②定期清掃(湿式)+トイレ診断:月1回
③特別清掃:年1回
④維持管理協議会の開催:月1回
 2024(令和6)年に維持管理業務が渋谷区に移管されるまでに、費用や清掃方法など最適な仕組みを探求されてきた。
映画「PERFECT DAYS」
 「誰もが快適に使用できる公共トイレ」というコンセプトに基づいて日常生活において欠かせないトイレをここまで話題性の高いものにできたことは、綺麗好きな日本人だからこそ可能だったプロジェクトであり、「日本の文化だ」といえるだろう。
 「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは公共トイレを渋谷区につくるだけではなかったようである。プロジェクトを主導した柳井康治が、活動のPRを目的とした映画「PERFECT DAYS」を世に送り込むことにより、このプロジェクトを日本だけでなく海外にまで強くアピールした。
 監督は日本の映画界の巨匠小津安二郎を敬愛するヴィム・ヴェンダースに依頼した。ヴェンダースは最初の段階では短編オムニバス映画を計画していたが、日本滞在時に接した日本の公共の場所の清潔さに感銘を受け、長編作品として再構成した作品に変更した。そして、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で日本人俳優としてふたり目となる男優賞を俳優役所広司が受賞したほか、エキュメニカル審査員賞を受賞した。また、第96回アカデミー賞では日本代表作品として国際長編映画賞にノミネートされた。ヴィム・ヴェンダースの繊細な演出の中で、ひと際輝いていた公共トイレは俳優役所広司の存在感に負けてはいなかった。
 柳井康治のPRは大成功であった。その後日本だけでなく海外からも大きな反響があり、多くの旅行者が見学に訪れるなど大きな影響をもたらしている。
見学会開催の狙い
 見学会を実施した狙いは、社会の動向を会員同士が共有するとともに、まだ会員でない方々と建築を介してふれあい、理解を深め合い会員となっていただくことを促すことである。もちろん魅力的なトイレを体感することは当然のことである。
 また、トイレのみの見学だけでなく、まち歩き的な要素もあり、リラックスした中でまちなみや建築を題材に話が盛り上がり、会員同士や非会員の方々との交流を深めることも狙いのひとつとしている。
 では、なぜトイレの見学なのか。それは、トイレが人間誰しも1日に何回か一定時間お世話になる場所であり、プライベート空間である。その空間を公共施設として成立させるところにこのプロジェクトの面白さがある。そして、建築見学会は多々あるが、これほど小規模で身近な題材での見学会はないのではないだろうか。
 新宿支部での会員増強に向けたイベントは、このような見学会のみならず、セミナー等の企画も盛んに実施している。
4年間で5回見学会を開催
 令和4(2022)年5月20日開催した第1回目の「THE TOKYO TOILET」見学会が盛況であったため、また開催してほしいとの声も多く寄せられた。見学を行った場所と違うトイレの見学を含めて令和4年から毎年のように開催した。昨年の令和7年10月24日に第5回を開催した。
各トイレの仕様書等はTOTO(株)より提供いただき、資料を片手に見学ができ、有意義な見学会となった。
【第1回/2022(令和4)年5月20日(金)】
参加:27名、懇親会参加:12名
恵比寿駅西口公衆トイレ(恵比寿南1-5-8、⑮|佐藤可士和)
恵比寿公園トイレ(恵比寿西1-19-1、⑭|片山正通 / Wonderwall®︎)
恵比寿東公園トイレ(恵比寿1-2-16、⑯|槇文彦)
東三丁目公衆トイレ(東3-27-1、⑬|田村奈穂)
鍋島松濤公園トイレ(松濤2-10-7、⑫|隈研吾)
神宮通公園トイレ(神宮前6-22-8、⑪|安藤忠雄、❶)
【第2回/2022(令和4)年10 月29 日(土)】
参加:14名、懇親会参加:12名
代々木深町小公園トイレ(富ヶ谷1-54-1、⑧|坂茂)
はるのおがわコミュニティパークトイレ(代々木5-68-1、⑦|坂茂)
代々木八幡公衆トイレ(代々木5-1-2、⑥|伊東豊雄)
西原一丁目公園トイレ(西原1-29-1、④|坂倉竹之助)
七号通り公園トイレ(幡ヶ谷2-53-5、③|佐藤カズー)
【第3回/2023(令和5)年10 月27 日(金)】
参加:40名、懇親会参加:19名
広尾東公園トイレ(広尾4-2-27、⑰|後智仁)
恵比寿東公園トイレ(恵比寿1-2-16、⑯|槇文彦、❷) 人気ランキング1位
東三丁目公衆トイレ(東3-27-1、⑬|田村奈穂)
恵比寿公園トイレ(恵比寿西1-19-1、⑭|片山正通 / Wonderwall®︎)人気ランキング2位
恵比寿駅西口公衆トイレ(恵比寿南1-5-8、⑮|佐藤可士和)
裏参道公衆トイレ(千駄ヶ谷4-28-1、⑨|マーク・ニューソン)
西参道公衆トイレ(代々木3-27-1、⑤|藤本壮介)
西原一丁目公園トイレ(西原1-29-1、④|坂倉竹之助)
七号通り公園トイレ(幡ヶ谷2-53-5、③|佐藤カズー)
幡ヶ谷公衆トイレ(幡ヶ谷3-37-8、②|マイルス・ペニントン / 東京大学DLXデザインラボ)
笹塚緑道公衆トイレ(渋谷区笹塚1-29、①|小林純子)人気ランキング3位
※人気ランキングを第3回より実施している。
【第4回/2024(令和6)年11月1日(金)】
参加:25名、懇親会参加:12名
鍋島松濤公園トイレ(松濤2-10-7、⑫|隈研吾、❸)
神宮通公園トイレ(神宮前6-22-8、⑪|安藤忠雄)
代々木深町小公園トイレ(富ヶ谷1-54-1、⑧|坂茂、❹)
はるのおがわコミュニティパークトイレ(代々木5-68-1、⑦|坂茂)
七号通り公園トイレ(幡ヶ谷2-53-5、③|佐藤カズ一)人気ランキング3位
西原一丁目公園トイレ(西原1-29-1、④|坂倉竹之助)
代々木八幡公衆トイレ(代々木5-1-2、⑥|伊東豊雄)人気ランキング1位
笹塚緑道公衆トイレ(渋谷区笹塚1-29、①|小林純子)人気ランキング1位
※人気ランキング2カ所同率1位
【第5回/2025(令和7)年10 月24 日(金)】
参加:31名、懇親会参加:20名
恵比寿駅西口公衆トイレ(恵比寿南1-5-8、⑮|佐藤可士和)
東三丁目公衆トイレ(東3-27-1、⑬|田村奈穂)人気ランキング3位
恵比寿東公園トイレ(恵比寿1-2-16、⑯|槇文彦)人気ランキング3位
恵比寿公園トイレ(恵比寿西1-19-1、⑭|片山正通 / Wonderwall®)人気ランキング1位
鍋島松濤公園トイレ(松濤2-10-7、⑫|隈研吾)
神宮通公園トイレ(神宮前6-22-8、⑪|安藤忠雄)人気ランキング3位
代々木深町小公園トイレ(富ヶ谷1-54-1、⑧|坂茂)
はるのおがわコミュニティパークトイレ(代々木5-68-1、⑦|坂茂)
代々木八幡公衆トイレ(代々木5-1-2、⑥|伊東豊雄、❺)
西原一丁目公園トイレ(西原1-29-1、④|坂倉竹之助)人気ランキング2位
七号通り公園トイレ(幡ヶ谷2-53-5、③|佐藤カズー)
笹塚緑道公衆トイレ(渋谷区笹塚1-29、①|小林純子)
※人気ランキング3カ所同率3位
アンケート結果(回答の一部を抜粋)
・以前にも見たところですが、新しい発見がありました。
・トイレだけでなく、途中のまち歩きも楽しめました。
・ひとりではあまり行かないTOKYO TOILETについて、わかりやすい資料と解説を交えて楽しませていただきました。
・日ごろ接点のない方々との意見交換が良い刺激になりました。
・トイレの場合、男女がしっかり分かれているのがいいです。
・トイレをデザイン的に見ることがなかったので、新鮮で面白かったです。5番のトイレの多目的トイレで犬のリード掛けがあって公園のトイレであると助かるなと感じました。デザイン性だけでなく実用性も高くて勉強になりました。
・まちなみも散歩気分で散策でき、建築家の発想に感心。
・良かったと思います。2年前に初めて参加しましたが、今回はその後の経年劣化を確認するという視点も加わったので、楽しく見学できました。
・普段何気なく使用している公衆トイレですが、さまざまなコンセプトでつくられたトイレだけに絞って、見学ができて非常に良い経験になりました。
・曲面の壁の方が落書きされたり汚されたりしにくい。
・ユニークな企画で非常に良かった。
・清掃に関しては、駅から離れた公園のトイレの方が掃除が行き届いてないように感じました。
まとめ
 「THE TOKYO TOILET」という言葉を耳にした人は多いと思うが、4年間に5回もの「THE TOKYO TOILET」見学会を行うことは稀なことではないだろうか。
 第1回の見学会の時には、まだ有名建築家等が手掛けた建築が目新しく、トイレ自体も最新型の設備ということもあり、建築がどのようなものかという観点で見学会を実施した。それぞれのトイレにはしっかりとしたコンセプトがあり、新しい提案があった。
 しかし、見学会も回数を重ねるごとに、目新しさよりも「性別、年齢、障がいを問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレ」になっているかという観点からメンテナンスや男女両用形式などを注視して見学するようになった。トイレ形式の実態を調べると17カ所のトイレのうち11カ所が男女別形式、だれでもトイレ(多機能トイレ)を除いて6カ所が男女両用形式になっていた。これは近年の男女平等を象徴しているようにも捉えることができる。
 2024(令和6)年4月から維持管理業務が渋谷区に移管されたことによってメンテナンス状態がどうなっているかが気になり、第5回はその点において注意して観るようにテーマを設定して回ることにした。見学中に2度ほどTHE TOKYO TOILETの作業服を着た通常清掃員の人に出会い、乾式の清掃をテキパキとしている姿を見たときには、日本の公共トイレの質の向上を実感せずにはいられなかった。
 この見学会が会員増強イベントとして目的を達成できたかは新宿支部の正会員数の増加と活動委員の若返りをみれば明らかであるといえるのではないだろうか。このような結果は企画を提案された支部長はじめ会員増強のみなさんによる成果として感謝いたします。
小松 清路(こまつ・せいじ)
東京都建築士事務所協会新宿支部副支部長、株式会社ASKA建築研究所
1952年 長野県生まれ/1977年 日本大学理工学部建築学科卒業/1977年 谷脇建築設計事務所/1980年 石井和紘建築研究所/1983年 小松清路建築研究所設立/2021年 株式会社ASKA建築研究所に改称
カテゴリー:支部 / ブロック情報
タグ:まち歩き