社労士豆知識 第78回
社員の内発的動機を重視した人事評価制度について
星尾 実(GX経営社会保険労務士事務所)
 令和7(2025)年6月、社労士法の一部を改正する法律が成立しました。それにより、社労士法第1条の「目的」条文が「社会保険労務士の使命」に置き換わり、「適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与する」および「社会保障の向上及び増進に資し、もつて豊かな国民生活及び活力ある経済社会の実現に資する」の文言が追加されることが決まりました。これまでは、「……労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。」と1条に記載されていました。
 労働関係諸法令の円滑な実施のためには、コンプライアンスを始めとする社会的要請にも応えていくことが重要だと考えられる現状に対応したものだと考えています。しかし、コンプライアンスというのは曲者で、文字どおり遵守しようとすると、矛盾を含んだものになりかねません。カスハラの増加など行き過ぎた弊害もあり、昨今のメンタル不調者の増加につながっているのでは? と個人的には感じています。また、人事評価制度における成果主義の考え方が一般的になりつつあることも影響を与えていると考えられています。
外発的動機から社員の内発的動機に軸足をおくことで
 では、どうすれば良いのか? 成果主義から導き出される目標数字やコンプライアンスなどの外発的動機(自分ではない外部からの要請)から社員および自分自身の行動を律するのではなく、法令や会社のルールを遵守した上で自分自身の本当にやりたいこと(内発的動機)を軸に、自分自身の目標を定めて社員自らが自分の行動を律していくことが重要だと考えています。自分が本当にやりたい仕事をやっていると仕事が仕事ではなくなり、やる気がどんどん芽生えてきます。最初、つまらないと思っていた仕事も自分自身の内発的動機とリンクするようになると仕事に対する見え方がまったく変わってきます。
VUCAの時代における新しいPDCAのしくみについて
 社員の行動を律し業績を上げていくために人事評価制度を導入している会社も多いと思いますが、その基本のしくみにPDCAの考え方が多く採用されています。結果に軸足を置き、その改善を図っていくことで社員の職務評価を実施する、プロセスと結果という外部から見えるものに評価の軸足を置いていると、その内側でどのようなことが行われているのか? が、見落とされるリスクが高くなります。
 そこで、PDCAのC(Check/評価)を、K(気づき)に置き換えた、新たなPDCAサイクルを当事務所では顧客に提案しています。P(Plan/計画)を立て、D(Do/行動)し、その結果得られたK(Kidzuki/気づき)とA(Action/修正行動)も記録しておくことで、結果の内側にあるものが記録として残るようになります。
 仕事において「気づき」ほど重要なものはなく、偉大な建築物も設計者だけではなく、そこにかかわるいろいろな方々の気づきの集大成によって出来上がっているものだと思っています。特に、今はVUCA(変動性/Volatility、不確実性/Uncertainty、複雑性/Complexity、曖昧性/Ambiguity)の時代といわれていますから、社員の気づきをきちんと記録し、会社がそれを評価していくようになると、内側が見える化できて、昨今のメンタル不調者の増加も改善されていくのではと期待しています。
まとめ
 私自身が社労士として大事にしたいと考えているのは、顧客の会社の成長に貢献できているか? を意識していくことだと思っています。(社労士が重視する)会社の成長とは規模が大きくなること以上に、会社が社員ひとりひとりの成長につながる気づきを与える職場環境を提供できているのか? ということです。社員ひとりひとりが仕事を通じて気づきを得て成長していけば、自ずから会社も成長していきます。やる気に満ちた社員がたくさんいる会社は、不思議と成長していくものです。いろいろな会社の事例からも、それらのことは明らかです。
 みなさんの建築設計事務所におかれましても、「適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成」のために、外発的動機からではなく社員の内発的動機を引き出すさまざまな工夫を実施されることで、社員のモチベーションの向上を図り、結果として顧客からなお一層の支持を受けるようになることを願っています。
星尾 実(ほしお・みのる)
GX経営社会保険労務士事務所
ハウスメーカーの住宅営業を12年ほど経験。現在は、某国立の研究開発機構に籍を置きながら、兼業で社労士事務所を開業。兼業の強みを最大限に活かす工夫をしながら事務所運営をしています。
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士