
講演風景。(撮影:事務局)

講演する坂茂氏。(撮影:大平 孝至)
新春賀詞交歓会に際して開催される特別講演に坂茂先生を講師にお招きし、「作品づくりと社会貢献の両立を目指して」と題した講演をいただきました。
2014年にプリツカー賞を、2026年度のAIAゴールドメダルを受賞された世界的建築家の講演とあって、会場の明治記念館・富士2の間は満員の盛況。さらりとジョークを交えたお話に、会場が笑いに包まれるシーンも多々あり、その内容と共に引き込まれました。
建築家は案外、社会の役に立っていない?
講演の冒頭で「アメリカ留学から帰国して実務に慣れ始めると『建築家というのは案外社会の役に立っていないんじゃないか』と思った」とおっしゃったのですが、ちょっと「はっ」とさせられる言葉でした。もちろん、建築家はクライアントだけでなく使う人のことも考えて設計するので、その意味では社会貢献をしているとはいえるでしょう、ですが坂先生が言われる社会貢献は、それよりも一歩も二歩も踏み込んでいます。被災地での活動はもちろんのこと、既成概念にとらわれない構造を生み出し、「どこでも簡単に入手可能な建材」を活用した合理的で美しい建築、ある意味「エコロジーの時代における新しいスタンダート」を提案されているのです。それも、まだ「エコ」が叫ばれるようになるずっと以前から。
「人は建築のせいで死ぬ」という言葉も刺さりました。
耐震性や安全性に配慮するのは当然ですが、坂先生は災害時などの極限的な状況でも人にとって最低限必要なプライバシーや防寒性能のことを言われたわけです。避難所や仮設住宅の環境を改善することも建築家の仕事ではないのか?と。日本のみならず世界中の被災地に駆けつけて活動されている坂先生ならではの言葉でした。
被災地での活動、そのコンセプト
講演の前半は先生が設計された代表的な建築についてスライドで紹介され、設計の狙いなどを解説され、後半は被災地での活動についてお話しいただきました。紹介された作品や被災地での活動がかなりの数でしたので、紙面の関係上個々の作品や活動について触れることはしませんが、講演を拝聴した中で、坂先生のコンセプトだと感じたキーワードを列挙します。
【紙管の使用】
FAXロールの芯を「もったいない、何かに使えないか?」と感じたのがきっかけと話されましたが、それこそ「エコ」だと思いました。昨今、「エコ」は「エコロジー」の意味でだけ使われるようになり、ビジネスと化しているように感じていますが、高度成長期においては「エコ」は「エコノミー」の意味が主でした。「もったいない、何かに使えないか?」と考えることは「エコノミー」であると同時に「エコロジー」でもあるのではないかと思います。安価で環境にも優しい、それこそが「エコ」なのではないでしょうか。
先生は建物の寿命についても言及されましたが、建物の寿命は「その役割を終える」ことでも訪れます、その際に廃材の処理が容易で環境にも優しく、簡単に解体でき、再利用も容易な紙管は「エコノミー」であり「エコロジック」な素材ではないかと感じました。
【建築法規・行政への対応】
日本の建築法規は厳しいです。紙管を内装に使うならともかく、構造や外装にまで使うにはかなりの困難が伴います。先生は「ひとえに構造設計の大家、松井源吾先生のおかげ」と言われましたが、両先生の努力と忍耐はかなりのものだったのではないかと思います。また、避難所でプライバシーを保つためのパーティションですら「管理がしにくくなる」という行政の抵抗に遭われたとのこと。日本は災害大国といって良いほどに災害が多い国です。行政はその際の住環境についてもっと配慮すべきなのにと歯がゆく思いました。
法規にせよ行政対応にせよ、チャレンジしてそこを打ち破っていく先生のバイタリティには脱帽です。
【構法】
紙管による建築はもちろんのこと、木材を使った大規模構造などにおいて、容易に施工できて強固な構造とするために独創的な構法を考え出されていることも驚きです。そしてそれは二重の意味での「エコ」にもつながっています。
特に大きな屋根をかける構法に日本伝統の竹細工のアイデアを盛り込むなど、単に構法としてだけでなく独自の美を生み出されているとも感じます。
それにしても木材を曲線に加工して構造材とする技術が、スイスやドイツにはあって日本にないというのは歯がゆい思いです。
【可動・移動】
先生の建築には可動のものが多く見受けられます、広島の下瀬美術館では地元の造船技術を活用し、水面に浮かべた展示室のユニットを自在に組み替えられるという可動建築の極み。しかもジョイントを外せば成人男性ふたりの力で動かせるとのこと。曲木を使ったホワイエや極端に長いギャラリーも相まって、ぜひ見学してみたい作品です。また、コンテナを利用した建築のアイデアも驚くべきものでした。コンテナは世界標準規格だということも初めて知りましたし、「世界中どこに行っても入手可能」という特性を持っているとのこと。しかも積み上げてジョイントすれば構造体になり、解体すれば元のコンテナとして再利用できるというのは素晴らしいアイデアだと思いました。
いや、「再利用」ではなくて、コンテナの寿命の中で数年間建築の役目を担う、と言った方がいいかもしれません。まさに二重の「エコ」ではないでしょうか。
【人は建築のせいで死ぬ】
避難所や難民キャンプにおいても、暑さ、寒さをしのぐだけでなく「最低限の人権」としてプライバシーの確保を挙げていらっしゃいました、更に「丁度良い囲われ感=安心感」も考慮すべきだとおっしゃいます。まさにその通りで、避難所やキャンプでの生活が不便を強いられるのはある程度仕方がないとしても、生きているだけでストレスを抱えてしまうような環境では健康に過ごせるはずもありません。
先生の紙管パーティションは簡単な組み立て式を採用することで被災者自身でも設置可能で、1日で数百の被災者のための「居場所」をつくり出せるとのこと。
日本は災害の多い国です。行政は「管理しにくい」などと謎理論を振りかざすのではなく、パーティションをストックすべきなのに、と歯がゆく思います。
難民キャンプではさらに耐候性の問題も生じます。
ルワンダの難民キャンプでは、避難民が森から木を切ってきてテントを設営するので、森が丸裸になってしまったとのこと。その点、紙管ならば間伐材などで安価につくることが可能です。これこそ「エコ」なのではないでしょうか。
また、紙管はそもそも中空ですし内部に断熱材を仕込むことも可能です。仮設住宅においては重要なことです。それこそ「エコ」というレベルではなく死活問題にまで踏み込んだ、真に「社会貢献」としての建築家の役割ではないでしょうか。
以上、私見を書かせていただきましたが、単に「良い建築を設計する」だけでなく、「建築家の社会貢献とは何か」を常に念頭に置かれ、その上で革新的で美しい建築を生み出され、被災地での「最低限の人権」を守るために尽力される坂先生、これからもさらなるご活躍を願ってやみません。
それにしても、災害があれば世界中どこへでも飛んで行かれる先生、お身体だけは大切にしていただきたいとお願いしたく思います。

鷹取 奨(たかとり・すすむ)
東京都建築士事務所協会南部支部、鷹取1級建築士事務所
1958生まれ/芝浦工業大学建築学科卒業
1958生まれ/芝浦工業大学建築学科卒業
カテゴリー:東京都建築士事務所協会関連







