社労士豆知識 第68回
「年収の壁」対策とは──政府の年収の壁・支援強化パッケージ
小島 信一(小島経営労務事務所、社会保険労務士)
年収の壁とは?
 現行の社会保険制度では、会社員の配偶者などで一定収入のない人は、被扶養者(第3号被保険者)として社会保険料を負担していません。こうした人たちがパートやアルバイトなどで働いて、その収入が一定額を超えた場合、社会保険料の負担が発生してしまい、結果として手取り収入が減少します。このような形で手取り収入が減らないよう年収を押さえようと意識する金額のボーダーラインのことをいわゆる「年収の壁」といいます。
 「年収の壁」の手前では、社会保険料の負担が0円だったものが、年収106万円または130万円に達すると、それぞれ年額で一般的なケースでは約16万円または約27万円の負担が生じます。
 この「年収の壁」を踏まえて、手取り収入を減らさないように就業時間を調整するなど、働き控えをする人は少なくありません。こうした「働き控え」は、パートやアルバイトで働く人たちの所得向上を抑えるだけでなく、企業の人手不足を加速する原因の一つにもなっています。
 そこで、政府は令和5年(2023年10月)から「年収の壁・支援強化パッケージ」を開始しました。
106万円の壁対策
 106万円の壁は、従業員101人以上(令和6年10月からは51人以上)の企業などに週20時間以上勤務している場合に年収が106万円を超えると、厚生年金保険・健康保険に加入することになるため、労働者本人が社会保険料を負担する必要が生じ、社会保険加入にためらってしまうというものです。この対策として、労働者を雇用する事業主向けに、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。年収106万円を超えて働くなどして新たに社会保険適用となった労働者の収入を増加する取り組みを行った事業主に助成されます。
 助成金を申請しようとする事業主は、キャリアアップ計画を作成してから取り組む必要があります。
130万円の壁対策
 130万円の壁対策としては、パートやアルバイトで働く人が繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がり年収130万円を超えたとしても、健康保険組合などが被扶養者の収入を確認するタイミングで事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となります。

【具体例】
 アルバイト先の繁忙期の残業などにより、息子の年収が130万円を超えてしまった際に、事業主(息子のアルバイト先)が「一時的な収入増であること」を証明する書類を作成し、その証明を母親が加入する健保組合などに提出すれば、息子は引き続き扶養に入り続けることができます。
小島 信一(こじま・しんいち)
小島経営労務事務所 所長、社会保険労務士
1968年 静岡市生まれ/1991年 常葉学園大学卒業/2007 年 台東区で小島経営労務事務所設立/ 2010 年 事務所を東上野に移転
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士