地盤塾 第2回
地盤補強工事の見積り選定方法(前編)
春日 龍史(東京都建築士事務所協会賛助会員、株式会社アースリレーションズ)
千葉 由美子(株式会社ブルーセージ)
図1 不同沈下事故の原因例(『小規模建築物基礎設計指針』)
表1 不同沈下原因例(小規模建築物基礎設計指針)
地盤補強工事が原因の沈下事故が起きている
 建築物の基礎は、「上部構造を安全に支持し、有害な沈下・傾斜などをおこさないように設計する」ことが必要である。そのため、地盤の強度が不足する、地盤が変形することによって建物が沈下・傾斜しないよう、地盤調査によって支持力と沈下の検討を行い、基礎形式(直接基礎、直接基礎+地盤補強、杭基礎)を選定する必要がある。
 まずは宅地の地盤調査を行い、試験数値に宅地の地盤情報を加えて、地盤の地耐力を総合判定する。
 本来の基礎選定は、地盤の強度と変形の検討結果と上部構造を総合して基礎設計を行った上で決定するものだが、住宅の基礎選定では、基礎の必要地耐力(基礎接地圧)が先に決まっており、地盤判定結果が基礎の必要地耐力を上回れば地盤補強不要(直接基礎)、必要地耐力を下回ると地盤補強が必要(直接基礎+地盤補強)、と判断する場合が多い。
 そうして基礎選定を行ったにも関わらず、住宅の不同沈下事故の発生は毎年少なくない。地盤補強が必要な地盤を不要と誤判定し事故に繋がる例もあるが、地盤補強工事を行った住宅でも事故が発生している。
 図(1)は、過去に発生した沈下事故の原因例である。これによると、地盤補強の設計不良、施工不良でも事故が起きていることが分かる。
 地盤補強工事が原因で事故が起きる要因として、地盤会社側では「他社より費用を抑えて受注につなげたい」という心理が働き、コスト優先の工法提案や危険側の補強設計に繋がっていることが考えられる。もちろん費用が抑えられることは住宅事業者や施主にとっては喜ばしい。しかし、それは補強設計が適正であることが前提である。
 今回は、地盤会社の選び方を、「不同沈下事故を起こさないための地盤補強工事の見積選定方法」から考えていく。
「住宅の不同沈下事故は防ぎようがない」のか
 住宅の地盤について語られる際に、「住宅の不同沈下事故は防ぎようがない」、「地盤会社はどこに頼んでも同じだ」と言われることがある。しかし、本来は防げるはずのものがほとんどであり、残念なことに地盤会社の技術力やモラルは同じではない。
 不同沈下の原因例(表1)を見ると、地盤改良設計不良には工法選定ミスや杭長不足、地盤改良施工不良には改良体の支持力不足や腐植土層などによる未固化などが挙げられている。それらは、設計の検討不足や施工の品質管理が不十分で起きていることが多い。現に沈下事故をほとんど起こさない地盤会社があり、彼らは事故原因となる要素と対応策を知っていて、確実に設計検討と施工管理に反映させて事故を防いでいる。
 住宅の不同沈下事故は防ぎようがないものではない。住宅地盤の安全を考える上で、事故原因となる要素を見極め、適切な対応策を取っている地盤補強工事見積を選ぶことが求められる。
 まず、事故原因の要素を見ていく。一般社団法人地盤優良事業者連合会の『やってはいけない地盤補強の設計例』では、「地優連地盤判定基準書」において住宅地盤における危険因子を「地質・土質・造成地盤」とし、有機質土(腐植土)地盤新規盛土・埋土地盤における設計例を示している。
 有機質土(腐植土)は植物の遺骸が混入している土を指す。植物の繊維質が未分解のままだと圧縮性が非常に高いため建築物を不同沈下させる可能性がある。また、土質が酸性に傾いていることも多い。それらの圧縮性(建物に対しての軟弱性)や酸性度により、工法によっては対策が必要、採用できない、ということがある。そのため、見積り選定時に計画地で有機質土(腐植土)が分布しているか見当をつけることが鍵となる。地盤調査報告書のチェックリストや土の試料写真、近隣ボーリングデータなどで確認するほか、腐植土が分布しやすい地形(谷底低地、後背湿地、提間湿地、旧河道)に属している場合は有機質土が分布するものとして検討するか、現地の土の採取と目視で確認することも有効だ。地形は、地盤調査報告書を確認するだけでなく、自身で土地条件図や治水地形分類図、地形分類図を調べることが望ましい。
 造成地盤は人が造成したもので、台地や氾濫平野などの自然の地形とは分けて考えられる。田畑への盛土、傾斜地での切り盛りの境、擁壁の埋戻しなどがある。元の自然地形、造成深度、材料、転圧締固め具合など、造成地によって状態がさまざまなため、地盤調査データ、地形資料、周辺の傾斜方向、構造物(擁壁)の種類、大規模盛土造成地マップ、航空写真、必要な場合は造成図面を取り寄せるなどして、地盤状況に応じて対応可能な工法を選択し、補強が必要な範囲と深度について慎重に判断する必要がある。
 これらのことから、不同沈下事故が起きやすい宅地の状況が「有機質土地盤、盛土地盤、擁壁」であること、それに対する対策(地盤補強の設計例)があることがわかる。
 今回はこれらを踏まえ、「不同沈下事故を起こさないための補強工事見積選定方法」を下記の3つのポイントから説明する。前編で1)と2)、後編で3)について説明する。
1)各地盤補強工法の技術と分類を確認する。
2)地盤補強で「何が良くなるのか」を明確にする。
3)各地盤補強技術の注意点(やってはいけない地盤補強)を把握する。
地盤補強工法の技術と分類
 事故を防ぐ見積選定力を身につけるために、まずは各地盤補強工法の技術と分類を確認する必要がある。
地盤補強工法は、一般工法の他に独自の工法名がついた大臣認定・性能証明工法を含めると現在100を超えるが、それらは9つの技術に分けられる。補強工事の見積りで示される工法がどの技術に当てはまるのか確認する。
次に、工法の技術が属する分類を確認する。工法の技術が属する分類を確認することで、工法選定ミスを防ぐポイントを設計法から理解しやすくなる。
工法の技術は「平面地盤補強」、「杭状地盤補強」のふたつに分類される。さらに杭状地盤補強は、「補強体単独で支持力を見込む」ものと「補強体と地盤の複合で支持力を見込む」ものに分かれる。
平面地盤補強
①浅層混合処理(表層地盤改良)
②置換
杭状地盤補強
【補強体単独で支持力を見込む】
 ③深層混合処理(柱状地盤改良)
 ④小口径鋼管
 ⑤RC杭
 ⑥木杭
 ⑦ハイブリッド
 ⑧現場打
【補強体と地盤の複合で支持力を見込む】
 ⑨パイルド・ラフト(複合地盤)
図2 表層改良の地盤底面に作用する鉛直力
分散応力q'の算定式
平面地盤補強工事の設計法と注意点
 平面地盤補強は、地表面から深さ2m程度までを平面方向に連続して補強する。
設計法は、軟弱層の補強と補強体(セメント改良、置換)を通して建物荷重による地盤への負担を軽減させることである。
 従って、平面地盤補強の重要なポイントは下記の3点となる。
①補強深度は基本2m以浅かつ水位がない。
②建物荷重を分散するのに必要な面積もしくは置換の深度と補強体下部地盤の支持力が確保できるか。
③補強体下部地盤のバランスが良いか。

①補強深度は基本2m以浅
 補強深度(掘削深度)が地表面から2m以深になる場合は、掘削面を保護するため山留ね工事が必要になる。近隣の建物との距離、搬入可能な重機の大きさ、施工場所の確保などが、一般的な住宅の敷地では費用面・施工面で難易度が高い。基本的には掘削深度が地表面から2m以深になる場合は他の工法も検討すると良い。
 また、平面方向に連続して掘削するため、掘削深度以浅に地下水位がある場合は採用が難しい。

②分散応力と補強体下部地盤の支持力・圧縮
 平面地盤補強の設計法は、軟弱部分を補強しながら建物荷重が補強体下部地盤で安全に支持できるよう応力分散させる。
 図(2)から分かる通り、補強体下部地盤へ作用する分散応力が補強体下部地盤の長期許容鉛直支持力を上回らないよう分散角度θを満たし、基礎幅以上の寸法(面積)B‘×L’、もしくは補強深度(掘削深度)H-Dfを確保する必要がある。
 また、分散応力を補強体下部地盤で支持する必要があるため、補強体下部地盤が圧縮する地盤では採用しないことが重要である。圧縮の危険が高い地盤は、高有機質土(腐植土)、盛土、埋戻土、大きなガラやゴミなど土以外の混入、などである。

③補強体下部地盤のバランス
 平面地盤補強は補強体が版状のため補強体下の地盤の影響を受けやすい。したがって、補強体下部地盤の強度バランスが悪いと安全に支持できず不同沈下を起こす可能性があるため、そのような地盤では採用しないことが重要である。
補強体下部地盤の強度バランスが悪い地盤は、支持力が不均質、切り盛りに跨る、擁壁の埋戻し部分にかかる、埋設物撤去の跡、などである。
杭状地盤補強工事の設計法と注意点
 杭状地盤補強は、基礎底面下の地盤を杭状に深さ方向に連続して地盤補強する。
 杭状地盤補強の考え方は大きく分けて、地盤強度を考慮せず補強体のみで支持力を見込む方法と、補強体に加え地盤強度を考慮した複合地盤として支持力を見込む方法がある。
 また、設計法は技術ごとに異なり、各技術に適用できない深度、地盤状況がある。
 したがって、杭状地盤補強の重要なポイントは下記の2点となる。前編で①、後編で②を説明する。
①補強技術の考え方(補強体のみで支持力を見込むものと複合地盤)を把握する。
②宅地の地盤状況を見極め、地盤状況に合った補強技術を選択する。
①補強技術の考え方を把握する
 杭状地盤補強は補強深度が地表面から2mを超えて必要な場合に選択することになる。
 しかし、地盤補強は杭基礎と違い必ずしも固い層まで杭を打ち込む必要がなく、設計法が多岐に渡る。それに伴い補強可能深度、適用地盤、適用外地盤が補強工法ごとに大きく異なる。事故を防ぐために特に必要なことは、適用外地盤の工法は決して選ばないことである。
 事故を防ぐ、工法選定ミスを防ぐためには、まず宅地の地盤状況を見極め、どの設計法であれば補強が可能かを選別することが重要である。

【補強体のみで支持力を見込む考え方】
 ここでは一般工法と呼ばれるもの(深層混合処理、小口径杭)の算定式を参考に説明する。
 補強体の許容鉛直支持力Raを算出し、Ra≧補強体頭部にかかる鉛直力P(建物荷重/補強体の本数)となるよう補強体の本数を決める。
 一般的な設計法ではRa≧Pとしているが、ぎりぎりの設計は避けたい。なぜなら、補強体の先端地盤の強度が一定とは限らない、改良体の一部固化不良、土質の特性上補強体の杭径が保たれないなどの施工不良に備えたいからだ。また、補強費用を抑えるために補強体の本数をできるだけ減らしたいかもしれないが、補強体間隔を広げすぎると基礎が変形する恐れがある。基礎の剛性が計算されていない場合の補強体間隔は2m程度が安全とされている。
 補強体の長期許容支持力Raは、地盤から決まる補強体の長期許容鉛直支持力と、補強体の長期許容圧縮力(補強体自身の強度)を比較し、小さい値を採用する。
補強体の長期許容鉛直支持力Raの算定式
 次は、長期許容鉛直支持力の算定式を参考に注意点を説明する。
 ここで注意することは、補強体の先端地盤と補強体の摩擦力を見込む層の土質を的確に把握することと、摩擦力を考慮する危険性を認識しておくことである。
 補強体周面にかかる摩擦力を見込む層厚Liは、補強体の全長で見込むと計算上有利になり、補強体長は短く必要本数は少なく、費用を低く抑えることができる。しかし、本来は摩擦力を期待できない層を見込んだ場合、算定結果通りの摩擦力が実際には働かず、建築物を支えられずに不同沈下に繋がる恐れがある。有機質土を含む超軟弱層、新規盛土、埋戻し土、ガラやゴミなど土以外のものが分布する層では摩擦力を見込まないことが重要だ。摩擦力を見込んでいる層は検討書で確認できるが、どの層をLiに見込んでいるのか、そもそもLiが不明の場合は、地盤会社に質疑を投げかけるのも有効である。
 また、羽根つき鋼管や施工性向上(貫入力向上)を目的とした金具が鋼管の外面についているなど、鋼管の軸径より外側に出たものは補強体を貫入させる際に補強体周辺の地盤を乱すため安全側に摩擦力を見込まない。
 先端支持力係数αは数字が大きいほど補強体の支持力が大きくなるため、施工法と先端地盤の平均N値にそぐわない数値を設定すると危険である。一般的に、小口径鋼管の羽根無しは200、羽根ありは100、場所打ち杭は100、深層混合処理工法は75としているが、認定・証明工法では200以上のものもある。参考に、打ち込み杭は300とされている。αの特性上、先端地盤の平均N値は下限値ぎりぎりではなく余裕を持たせることが望まれる。
 補強体自身の強度の算定式は技術ごとに異なるので、工法ごとに確認する。

【複合地盤として支持力を見込む考え方】
 この設計法では地盤強度を見込むため、補強体のみで支持力を見込むより補強範囲が小さくなることや、軟弱層が深い深度まで分布する地盤で採用できるメリットがある一方、現地盤(補強前の地盤)に一定以上の強度と圧縮しないこと(補強体がネガティブフリクションを起こさないこと)が求められる。補強技術によって地盤の必要強度は異なるが、自沈層(※第1回参照)の荷重が0.5kN未満、有機質土(腐植土)が分布している、新規盛土、ガラやゴミなどが混入している、極端に地盤バランスが悪いなどの場合に注意が必要だ。
 また、補強体の形状が摩擦力をしっかり発揮することも重要である。
 さらに、補強体1本が負担する面積を大きくしないことも必要である。補強体間隔が広すぎると複合地盤の効果が期待できないことにも留意して欲しい。
「何が良くなるのか」を明確にする
 地盤調査の判定結果で「地盤補強が必要」となっている場合、判定文にはその理由が書かれているはずである。だとすれば、その理由が解消されるよう地盤補強の設計と施工を行わなければならない。その理由が何か、それはどの範囲と深さに及んでいるのかを見極め、理由部分がしっかり解消される補強工事見積を選ぶべきである。
 そのためには、価格のみで判断するのではなく、宅地の地盤状況に合った工法で不同沈下の原因となるもの(軟弱さや強度バランスの悪さ)を確実に改善する補強設計を選択することが重要である。
 不同沈下の原因を確実に改善する設計かどうかを見分けるには、支持力向上と不同沈下抑制について、それぞれ分けて確認すると分かりやすい。
【支持力向上】
・建物荷重を確実に支持できるか。
・軟弱層や圧縮性の高い層を確実に補強しているか。
・建物荷重(分散応力)が補強体下部地盤で安全に支持できるか。
【不同沈下の抑制】
・補強体下部に強度バランスの悪い地盤が残っていないか。
・補強体下部に圧縮の危険が高い地盤が残っていないか。

 前編は以上である。前編では主に設計不良による不同沈下事故を防ぐためのポイントを説明した。後編は、施工不良による不同沈下事故を防ぐために必要なポイントを説明する。宅地状況を見極め、宅地上に合った補強技術を選択するために、各補強技術の注意点を説明していく。補強体の材料、施工法の面から、各技術には注意が必要な土質や地盤がある。後編も合わせて確認してほしい。

[参考資料」
・『住宅地盤の調査・施工に関わる技術基準書』NPO住宅地盤品質協会
・『小規模建築物基礎設計指針』一般社団法人日本建築学会
・『やってはいけない地盤補強の設計例』一般社団法人地盤優良事業者連合会
春日 龍史(かすが・りゅうじ)
東京都建築士事務所協会賛助会員、株式会社アースリレーションズ技術営業部係長
1988年 東京都生まれ/2014年 株式会社アースリレーションズ入社、技術設計部門を担当/地盤調査判定、地盤補強設計検討に従事
千葉 由美子(ちば・ゆみこ)
株式会社ブルーセージ代表取締役、地盤品質判定士、住宅地盤調査主任技士、測量士補
YouTube「ER地盤塾(全12回)」の動画を作成。住宅会社向けに宅地地盤の研修を行っている。宅地地盤判定・審査の累計件数は約7万件