地盤塾 第1回
地盤会社の選び方──地盤調査報告書から見えるもの
春日 龍史(東京都建築士事務所協会賛助会員、株式会社アースリレーションズ)、
千葉 由美子(株式会社ブルーセージ)
アースリレーションズより:地盤の知識を身近なものに
 建築における地盤という分野は、半ばブラックボックスのように扱われている節がある。特に調査解析は計測数値のほか、多くの要素を加味しての評価となるため、報告書を読んでも一目ではその全貌の把握は難しい。解析判定結果によっては、安くはない補強工事が発生するため、昨今では独自基準での再判定や、再設計によるコストダウンを看板に掲げる企業の台頭が目立ってきている。
 当然だが、無意味な工事を行う必要はない。地盤会社各社は、沈下事故のリスクを評価し、それを払拭するための補強工事を提案、実施しているはずであり、企業により調査判定や補強工事に差異が出るのは、各企業のリスク評価に差異があるからである。よって、その内容を評価するには、地盤の何をリスクとし、何をリスクと「見込んでいない」のかを見極めることが重要だ。
 最終的には、建物の主関係者が費用と残存する事故リスクを比較して判定(企業)を選択せざるを得ない。その一助として、建主や設計者を対象に地盤知識の普及を目指し、株式会社アースリレーションズではホームページにおいて『ER地盤塾(全12回)』の連載を行った。本連載では、その特別編を寄稿する。
問題提起:地盤会社(地盤保証会社)によって判定が違う
建築事業者から寄せられる地盤の悩みには「小規模建築は地盤補強が必要となる判断基準が分からない」というものが非常に多い。同じ試験結果でも、地盤会社や地盤保証会社によって地盤判定の結果が異なるためだ。なぜ地盤判定に差異が生じるのだろうか。
1. スクリューウェイト貫入試験(SWS)試験作業風景。
2. SWS試験装置概略図
出典:地盤調査規格・基準委員会『地盤調査の方法と解説』公益社団法人地盤工学会
スクリューウェイト貫入試験:普及と問題点
 小規模建築での地盤調査といえば、スクリューウェイト貫入試験(以下、SWS試験)が主流である(1、2)。ロッド端部に円錐螺旋状のスクリューポイントを取り付け、重りで負荷をかけながら対象地盤への回転貫入を行う試験で、貫入量と負荷重量、半回転数を記録し、換算することで地盤のN値を求める方法だ。
 標準貫入試験に比べ精度は劣るものの、簡便で少人数での実施が可能かつ安価。複数箇所の試験が容易なため、浅層地盤の乱れを発見しやすく、その影響を受けやすい小規模建築では広く普及している。しかし、SWS試験は土を採取・目視することができない手法だ。特に乱れのない試料の採取は難しく、地盤の物性(圧密特性等)を知ることはできない。
 そこで地形情報を活用する。地形情報は地形図等の資料調査と現地踏査による敷地状況の把握からなり、地盤性状の推定に活用される。
 地形情報は試験数値にも並ぶ重要な因子だが、複数の情報を総合判断するために判定者の裁量によるところが多く、その活用度合いは地盤会社によって差がある。判定文等で明記されない限り、推定された地盤性状の全貌を知ることは難しく、地盤判定の不可解さの一因となっている。
3. 沈下検討フローチャート
調査報告書を読む1──地盤判定の要素
 地盤判定の主な検討要素は、①地盤支持力、②圧密沈下、③人工地盤の3つ。調査報告書を読むにあたっては、判定者がこれらをどのように扱っているかを読み解くことが重要だ。

①地盤支持力:試験数値の換算処理
 試験数値より求められる長期許容支持力度が、建築物の重量以上であることを確認する。国土交通省告示第1113号に倣い、基礎底面から2mの範囲の平均を参照することが多い。また、以下の日本建築学会推奨式の採用率が高い。
qa=30Wsw+0.64Nsw
qa:地盤の長期許容支持力度(kN/m2)
Wsw:スウェーデン試験における貫入時の荷重の平均値(kN)
Nsw:スウェーデン試験における貫入量1mあたりの半回転数の平均値(回) (Nswは150回を上限とする)

②圧密沈下:自沈層の評価
 無回転(Nsw=0)での貫入を示す層は自沈層と呼ばれ、主に軟弱な粘性土層として判断される。自沈層は許容支持力度のほか、沈下についての検討が課され、粘性土の特性とその被害度合いから圧密沈下について論じられる。
 基礎下位に自沈層を残す判定が出た際には、沈下に対する考察が行われていることを確認し、沈下の懸念がある場合には、沈下量計算結果をもとに基礎の被害程度を判断する必要がある。
 ただし、SWS試験のみでは沈下量計算に用いる物性値を得ることができないため、補足試験が行われていない沈下量計算結果は精度に乏しいことに留意すること(3)。

③人工地盤:盛土、埋め土、造成地盤の評価
 原則、不安全要素として扱われるため、正確な造成情報がある場合には調査前の提供をお願いしたい。必要な情報の一例を挙げる。
 ・造成日  ・造成方法(切り土・盛土)  ・樹木の伐根
 ・解体掘削  ・ガラ取り掘削 ・擁壁計画
 造成情報が十分でない場合は、人工地盤の有無を地歴、造成歴、地中埋設物(異物感)から推定する。人工地盤は均質性がない場合や、異物の混入によって試験数値が不正に大きくなる場合があるため、許容支持力度の計算の際に低減や除外などの適切な数値処理が行われていることを確認する。また、盛土の場合は土の重量分、原地盤への負荷が増えることにも留意されていることが必要となる。
 沈下にも配慮が必要で、自沈層でなくとも人工地盤は圧密沈下が発生するものとして扱われる。圧密沈下は長期にわたって進行するため、造成時の締固めでは解消することができないからだ。以下に圧密沈下を非考慮とする場合の参考条件を挙げる。
・砂質土材によるもの
・造成後10年以上経過が見込めるもの
・プレロード等による荷重履歴を見込めるもの
4. 現地踏査・資料調査結果サンプル
調査報告書を読む2──地盤性状の推定根拠
 当該地をどのような地盤性状とみているか。その根拠資料として添付されるのが、資料調査結果や現地踏査結果である。見込まれている地盤性状が判定文などから読み取れない場合にも、その一部を推察することができる。その一例を下記に示す。

①地形判別
 判定における地形の設定。地形図、地形分類図の読み取りと現地状況を加味して設定される。地盤性状の推定に使用する。
ex)台地、段丘:ローム、凝灰質粘性土主体。洪積地盤。圧密沈下の懸念少ない。
  氾濫平野:粘性土、シルト、細砂の互層構成。沖積層。
  旧河道:有機質土、腐植土堆積の可能性。埋め土造成。

②敷地状況
 現地踏査による状況記録。敷地の造成状態、隣地工作物の影響を推定する。
ex) 坂道中腹:切り盛り造成の懸念。不揃いの盛土。
  隣地L型擁壁:造成時の掘削、埋め戻し。底版の干渉。
  道路表面ヒビ:沈下未収束の可能性。

③土地の利用履歴
 航空写真、住宅地図などからの判別。地盤への荷重履歴の推定。
ex) 建て替え地:旧建物の荷重を受けているため、沈下が収束済みの可能性。
   (4. 現地踏査・資料調査結果サンプル)
地盤会社を選ぶこと
 地盤は自然物のため、判定を一定の基準、方式にはめることが難しい。判定者の裁量によって、その結果に差異が出るのが当然である。調査報告書を読む際には裁量の部分に踏み込み、自分やお施主様にとって、その判定が過剰な判定なのか、不安全な判定なのか考えてもらいたい。
 本稿で取り上げた判定要素は基本的なものだが、これらとどのように向き合っているかで地盤会社の姿勢をうかがい知ることができるだろう。報告書だけでは読み取れない、または読み取りづらい部分は直に問い合わせることも有効である。
 自分にとって、お施主様にとって、適正だと思える地盤会社を選択すべきである。
【地盤の知識──千葉由美子のER地盤塾】
https://www.earthrelations.co.jp/chishiki/
【参考文献】
(社)地盤工学会:地盤調査の方法と解説2013
(社)日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針2008
春日 龍史(かすが・りゅうじ)
東京都建築士事務所協会賛助会員、株式会社アースリレーションズ技術営業部係長
1988年 東京都生まれ/2014年 株式会社アースリレーションズ入社、技術設計部門を担当/地盤調査判定、地盤補強設計検討に従事
千葉 由美子(ちば・ゆみこ)
株式会社ブルーセージ代表取締役、地盤品質判定士、住宅地盤調査主任技士、測量士補
YouTube「ER地盤塾(全12回)」の動画を作成。住宅会社向けに宅地地盤の研修を行っている。宅地地盤判定・審査の累計件数は約7万件