建築と換気設備
──室内環境の適正化と換気設備
藤原 孝行(東京都設備設計事務所協会、株式会社エコテックインテグレーション研究所)
空調設備における換気設備の役割
 建築物の室内環境は、COVID-19のパンデミックによって、室内空気質の適正化が課題である。中でも、湿度維持と換気がますます重要であり、われわれ設計者にとって適切な換気設計に取り組むことが大きな課題となっている。
本稿では、設備設計と建築設計との関係が重要であることを中心に述べていきたい。
図1 換気の目的と種類(出典:東京都技術研修資料)
図2 24時間換気システムの課題(出典:東京都福祉保険局アンケート調査)
換気設備の種類
 換気は、人間の活動や調理などで発生する一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、粉塵、臭いといった汚染物質や水蒸気(湿気)などを室外に排出し、新鮮な外気を入れて、室内を常にきれいな空気に保つ役割を持っている。
 その方法は大きく分けて、自然の力を利用する自然換気と機械の力を利用する機械換気に分かれる。
 換気設備の種類には、風力や室内外の温度差による浮力によって窓等を通して行われる自然換気と、送風機や扇風機等の機械力による機械換気のふたつの方法がある(図1)。
(1)自然換気(第4種換気方式)
自然換気とは、室内外の温度差や風圧によって、自然と空気の入れ替えが行われる換気方式のことをいう。
(2)機械換気(第2種換気方式)
第2種換気方式とは、給気口に機械を使用し、排気口は自然換気を行う換気方法。
室内は正圧。他室からの汚染空気の流入阻止。クリーンルーム、手術室など。
(3)機械換気(第3種換気方式)
第3種換気方式とは、排気口を機械換気で強制的に行い、給気側を自然換気で行う換気方法。
室内は負圧。室内の汚染空気の流出阻止。汚染室(駐車場、工場)、感染症室、トイレ、ごみ処理場、塗装室など。
(4)機械換気(24時間換気システム)
新築・増改築後や、新しい家具の購入などをきっかけに、眼がチカチカしたり、のどが痛い、めまいや吐き気、頭痛がするなどの症状が特定の建物内や部屋で出現する「シックハウス症候群」の問題の対策として、平成15(2003)年7月に建築基準法が改正された。これ以降、原則として、新築住宅などの居室に0.5回/hの換気回数を持つ機械換気設備(いわゆる24時間換気システム)を設置することなどが義務づけられた。
24時間換気については、未施工のケースがあり、東京都の調査結果からも課題がわかる(図2)。
図3 空調方式の分類(出典:東京都技術研修資料)
図4 中央熱源方式による空調のオーソドックスな関係図(出典:東京都技術研修資料)
図5 中央熱源方式のバリエーション(出典:東京都学校調査資料)
図6 個別分散熱源方式のバリエーション(出典:東京都学校調査資料)
空調方式と換気方式
 空調方式には、大きくは中央方式と個別方式に分けられる。換気についても空調の方式にマッチした方法を選定する(図3)。
(1)中央方式
 中央方式のオーソドックスな関係図を図4に示す。
 次に、中央方式のバリエーションを図5に示す。
 各室換気システムとの組み合わせ等、建築との調整により、さまざまな方式がある。大別して、空気方式として、単一ダクト方式(定風量・変風量)と各階ユニット方式。水-空気方式として、外気用空調機+ファンコイルユニット方式がある。
(2)個別方式
 個別方式は、主に冷媒ガスによる冷暖房方式機器が中心であり、最近では、1万㎡クラスのものまでこの方式で施工されることが多くなってきた。
 各階ユニット方式、空気熱源マルチ型エアコン方式、空気熱源ウォールスルーユニット方式に分類される。しかしこの方式では、換気と加湿が別システムとなることが多く、建築設計との連携が不可欠である(図6)。
換気設備に関する基準類
 換気における基準はさまざまあり、設計対象に合わせた基準を選定する必要がある。
① 建築物衛生法
適用範囲:3,000㎡以上の建物(学校の場合8,000㎡以上)。室内環境基準値:浮遊粉塵量=0.15mg/㎥以下、CO含有量=10ppm(厚生労働省令で定める特別の事情がある建物にあっては厚生労働省令で定める数値)以下、CO2含有量=1,000ppm以下、温度=17℃〜28℃(室内温度を外気温度より低くするときは、その差を著しくしないこと)、相対湿度=40%〜70%、気流=0.5m/sec以下、ホルムアルデヒドの量=0.1mg/㎥(0.08ppm)以下
② 建築基準法
適用範囲:すべての居室。性能:浮遊粉塵量=0.15mg/㎥以下、CO含有量=10ppm以下、CO2含有量=1,000ppm以下、温度=17℃〜28℃(室内温度を外気温度より低くするときは、その差を著しくしないこと)、相対湿度=40%〜70%、気流=0.5m/sec以下
③ 労働安全衛生法
④ 学校衛生基準
浮遊粉塵量=0.10mg/㎥以下、CO含有量=10ppm以下、CO2含有量=1,500ppm以下であることが望ましい、温度=17℃以上28℃以下であることが望ましい、相対湿度=30%以上80%以下であることが望ましい、気流=0.5m/sec以下であることが望ましい、ホルムアルデヒドの量=100µg/㎥以下
図7 学校における全熱交換器の設置検討(出典:東京都学校調査資料)
図8 外気導入(出典:東京都学校調査資料)
図9 インフルエンザウイルスと温度、湿度の関係(https://kansenyobou.net/インフルエンザウイルスと湿度、温度の関係.htmlより)
換気設備設計と建築設計との関係
 換気方式と建築設計の関係は、建築意匠や構造等にも大きく影響する。特に、梁の貫通、天井との取り合い、外壁の開口等さまざまで、基本検討段階からの調整が望ましい。① 居室の種類に適合した換気設備計画:居室の要求スペックに適合したシステム。② 基本計画での検討:建築に大きく影響する。③ 特に断面とルートの検討。
(1)換気方式の検討
 学校における全熱交換器の設置検討の事例を図7に示す。
(2)特にCO2濃度制御と換気
 ビル管理法での居室濃度は1,000PPMを上限としているが、実態は換気量が過多となり、省エネルギー的には問題である。
 そのため、室内CO2濃度を計測し換気量を制御する方式を取り入れているケースも増えてきた。ただ注意しなければならないのは、どの位置で計測するか十分検討することが大切である(図8)。
(3)加湿の性能確保と建築
 加湿は、空気環境において冬場特に重要である。湿度管理とインフルエンザウイルス生存率の関係を図9に示す。新型コロナウイルスについても湿度は大きく影響すると言われており、40%以上を確保する必要がある。
 加湿と建築の関係をまとめると以下のようになると考える。
  • 加湿の確保は建築の対応が重要であり、そして設計が難しい。
  • 断熱の強化、ダクトのルート確保、建築的処理。
  • コストの増加を伴う建築の部位にさまざまに影響する。
  • そして、重要なのはメンテナビリティの確保。不要となる夏場の管理の容易性、保守体制の確立。
(4)エアフィルターの役割の増大
 ウイルス対策や火山灰対策などのPM対策の強化が必要と考える。そのためフィルターの選定はたいへん重要である。
エアフィルターの性能は、以下の3つの評価指標によって分類されている。①捕集効率:表示には、重量法、比色法、係数法がある。②圧力損失:省エネに影響。③粉塵保持容量:メンテナンスに影響。
 「厚生労働省、新型コロナウイルスに関するQ&A」によると、
  • 主として感染性飛沫と飛沫核の空中濃度の制御であり、換気による希釈とフィルタなどによる空中からのろ過の、ふたつの原理で行われている。
  • 日本病院設備設計ガイドライン(HEAS-02-2013)において、集中治療室、一般病室、救急外来の最小外気導入量の目安を2回/h(還気を含めた室内循環風量は6回/h)としている。
  • コストの増加を伴う建築の部位にさまざまに影響する。
  • フィルタによるろ過については、日本のオフィスビルなどの空調機には中性能フィルタが備えられている。比色法75%の中性能エアフィルターはMERV12に相当し、大きい飛沫核注に対し、90%以上の捕集率を示す。このことから、中性能エアフィルターの使用した機器の選定が望ましいといえる。
これからの室内環境と換気計画
 最後に、私が経験した建築意匠と設備設計の換気についての事例を書く。
 某庁舎の設計で、省エネのために外気冷房を計画していた。しかし外気取り入れ口がデザインのために縮小されてしまい、結果として居室インナー側は温度上昇が大きく、設定温度を維持できなくなり、冬でも冷房を必要とすることになった。
 これからの省エネ時代を考えると建築との調整は計画段階から調整する必要が大きいといえる。
 以下に換気計画のまとめを記述する。
  • 室内の空気環境を適正なレベルに保つには、単なる冷暖房では困難で、空調設備として考える。
  • 換気及び加湿を加えた設計を進めるには、建築との密接で適切な調整が重要となる。
  • 設備のレベルが向上するため、それに見合った維持管理の考えや運用方法も同時に考えることが必要となる。
  • 増加する経費確保には、計画段階でのコンセンサスづくりが不可欠である。
  • 空調システムの選定には、自然状況の違い等を考慮し省エネシステムとなるよう設計する。たとえば、外気冷房の検討、地下水が豊富な地域では地下水利用ヒートポンプシステムやバイオマス利用の検討も進める。
藤原 孝行(ふじわら・たかゆき)
エコテックインテグレーション研究所代表取締役、東京都設備設計事務所協会
1948年 鳥取県生まれ/1970年 日本大学理工学部機械工学卒後、東京都庁財務局建築保全部/退職後、東京都環境公社東京と環境科学研究所で都市環境の研究に従事/2013年 (株)エコテックインテグレーション研究所設立