今まで私は設計図書の中で国産材を指定したことはなかったのですが、過去には、現しの梁に松丸太と表記したところ、磨き丸太のように美しい松丸太が現場に届いたことや、工務店が決まってから大工さんに「ケヤキの大黒柱でいい在庫がある」と聞かされて、急遽その柱を中心に据えた設計に変更を行い、いい住宅になったなあと感じた経験があります。
木材市場の「競り」を見学
このようなお話しをさせたいただいた後、「もっと設計者に木の魅力を知ってもらいたい」ということで、通常は入れない「競り」を見学する機会をいただきました。今回見学に伺ったのは、木材市場の大手で、千葉、茨城、埼玉に4カ所の市場を持つ、丸宇木材市売株式会社の下館市場です。この日は年に1度の全国からの木材を集めての競りの開かれる日で、9000㎥の材木が集められ「ここにないものはない」とも仰っていましたが、たいへん見応えのある材木が勢揃いしている印象でした。また競りには各地の材木屋さん400社くらいが訪れるとのことでした。
設計者に見てもらいたい理由
私たちはあまり目にすることがない魅力的な材木と競りの雰囲気はたいへん楽しめたのですが、設計者に見てもらいたいという理由には、やはり問題もはらんでいます。まず流通の問題ですが、木材の流通も多様化しており、プレカット工場などでは市場を通さない独自の調達もあるようなので、市場の機能が縮小気味であることです。
そして価格面でも、かつては平均13万円/㎥程度だった価格が、5万円/㎥程度で取引されているとのことです。この原因はデフレで価格が下がったという以外に、大壁工法が増えて木材が室内から見えなくなり、造作材も樹脂製などに取って代わっていった影響があるとのことでした。
ちなみに「なぜこの下館に市場を設けたのか?」と理由を尋ねると、立派な農家の住宅も多く、歴史的に需要があったとのことでした。確かにこの地域にはたいへん大きな農家のお宅が残っており、当時の家造りを想像することができる地域です。
このような現状で、市場側でもただ木材を卸しているだけではなく、材木屋さんや工務店に対して構造設計などのサポートを行う仕組みを整えています。また住宅を建てたいユーザーに国産材を知ってもらうための取り組みも行っています。
材木屋さんと交流を
今回一緒に見学した設計者は皆さん「こんなよい材木を使いたい」という気持ちになったようです。木造の魅力を否定する設計者など誰もいませんが、いま一度、木材の生産・製材、そして私たちの手元に届けられている現状を考えて、設計に取り組んで行くことが必要だと感じました。構造や耐火性能面での木造の可能性は広がっており、鉄骨に取って代わる時代にもなってくるかも知れません。私たちも普段から材木屋さんと交流を持ち、このような競りにも一緒に行く機会をつくることで、よりよい空間をつくることができると思いました。ご興味ある方は下記のホームページもご覧下さい。
(一社)国産材を使った木造住宅を守る会
丸宇木材市売株式会社
高安 重一(たかやす・しげかず)
建築家、有限会社アーキテクチャー・ラボ代表取締役、東京都建築士事務所協会台東支部 副支部長・情報委員会委員
1966年千葉県生まれ/1989年 東京理科大学卒業/1995年 一級建築士事務所 建築研究室高安重一事務所 開設/2003年 現事務所に改組/2014年〜日本大学助教
1966年千葉県生まれ/1989年 東京理科大学卒業/1995年 一級建築士事務所 建築研究室高安重一事務所 開設/2003年 現事務所に改組/2014年〜日本大学助教
カテゴリー:サステナビリティ / 環境問題
タグ:木