思い出のスケッチ #321
変わりゆく大岡川のほとり
稲垣 法子
 メトロみなとみらい線の馬車道駅で下車する。地下改札口から階段で地上に出るとまぶしいばかりの夏の陽射しと強い海風を受け、港ヨコハマの香りを感じる。馬車道駅周辺には小さな洒落たバーやカフェ、レストランの街並みがある一方、この界隈は「神奈川県立歴史博物館」や「旧第一銀行」、「十番館」の建物など時代を感じさせる風格の漂う建造物が数多くある。横浜港の方へ大岡川に向かって歩くと、なにやら工事現場からの槌音が聞こえてくる。
 見上げれば空高くタワークレーンが二台、上下左右にゆっくりと首を振りつつ、慎重かつ正確に資材を運んでいる。クレーンの赤と白の重機が紺碧の空に映えて何とも美しく力強く感じた。この工事現場が「横浜市新市庁舎」であることを後で知ったのだが、この工事現場は大岡川が横浜港に注ぐ手前にあり、湾の対岸には山下公園の大観覧車と横には「インターコンチネンタルホテル」を同時に一望できる。大岡川に船着き場のデッキがあり、二隻の船が停泊している。時折スタンドアップパドルが風を切って通り過ぎて行く。
 このスケッチは約一年前に描いたもので、今は既に屋上のクレーンの姿はなく新庁舎の全貌が見られ、川面にもそのピッカピカの姿を映し出して誇らし気に建っている。
 これからこの新庁舎に働く職員の方々は何と幸せなことか! 遮る物のない大空と大海原を間近に望むことができるのだから! 横浜のユニークな立地と活力ある市政を盛り上げるべく力を尽くされることを期待したいと思う。因みに当方は月一回馬車道へボーカルレッスンに通うのだが、エキゾチックな雰囲気の漂う歴史ある街をもっと散策して楽しんでみようと思っている。
稲垣 法子(いながき・のりこ)
1944年 富山県富山市生まれ/1967年 女子美術大学芸術学部デザイン科インテリア専攻卒業/1977年 高木滋生建築設計事務所勤務/1992年 稲垣アトリエ二級建築士事務所設立/2005年 稲垣アトリエ一級建築士事務所設立(夫と共に)/2015年 同事務所、廃業