石炭ガス化複合発電(IGCC)の現状と将来
進化し続ける石炭火力
小泉 俊彰(常磐共同火力株式会社取締役社長)
数奇な運命をたどる石炭
 石炭の使用は、18世紀半ばに始まる英国における産業革命以来急速に拡大しました。第2次大戦後、日本における石炭の使用について見ると、戦後復興期においては主要なエネルギー源として、「黒いダイヤ」ともてはやされました。その後中東における石油の開発により低廉かつ使用しやすい石油に代替されていく、いわゆる「流体革命」が1950年代から進み、多くの国内炭鉱が経営危機に陥り、閉山していきました。「フラガール」という映画をご存知の方も多いと思いますが、1960年代に炭鉱会社が業務の多角化に向けて苦難を乗り越えて「常磐ハワイアンセンター」(現在の「スパリゾートハワイアンズ」)の開業にこぎつける映画です。
 皮肉なことに、石炭から石油へのシフトが進み、石油へのエネルギー依存度が8割に及んだ時に起こったのが、昭和48(1973)年の第一次石油危機です。その後昭和54(1979)年には第二次石油危機が勃発し、ふたつの危機を通じて世界経済は大混乱しました。これに懲りた先進国を中心に、省エネを徹底するとともに、石油代替エネルギーとして、原子力、液化天然ガス(LNG)火力発電、石炭火力発電を推進しました。
 石炭は豪州、米国など主な産炭国の政情が安定しており、埋蔵量も豊富(可採埋蔵量は130年)で、しかも発電単価が安いのですが、1990年代以降の地球環境問題への意識の高まりとともに、石炭のCO2排出量が他の化石燃料に比して多いということが、課題視されるようになってきました。
図1 火力発電の熱効率の歴史
図2 IGCCとは
図3 世界のIGCCプロジェクト
図4 常磐共火勿来発電所10号機(IGCCプラント)鳥瞰図
石炭火力は熱効率との闘い
 石炭火力の歴史は、熱効率向上への闘いでした。これまでの石炭火力はボイラでお湯を沸かし、発生した蒸気でタービンを回して発電するというものです。
 石炭の熱をどれだけ有効に電気に転換できたかという指標が熱効率です。この従来型のボイラータイプの火力発電では蒸気タービンに送る蒸気の圧力と温度が密接に熱効率に関わっています。1950年代の石炭火力の熱効率は20%台でしたが、その後研究開発が進み、熱効率を飛躍的に上昇させ、現在主流の超々臨界圧(USC)の熱効率*は42%にもなっています(図1参照)。
*熱効率:本稿では、送電端(発電した電力から発電所内で必要な電力を除いた所外への送電ベース)かつ低位発熱量LHVベース。
 さらに、地球環境問題への関心が高まる中で、石炭火力の熱効率向上への要請が高まり、ついに石炭をガス化し、これをコンバインドサイクルで効率よく発電することに成功しました。これが、石炭ガス化複合発電IGCC(Integrated Coal Gasification Combined Cycle)です(図2参照)。
 石炭をガス化する技術の歴史は意外と古く、19世紀初頭から実用化され、都市ガス製造などに使われましたが、現在は主として化学品を石炭から製造するプロセスとして使用されています。その後二度の石油危機を経験して、石油代替エネルギーの一環として、また環境対応としてIGCCが本格的な発電用に使われ始めたのは1990年代で、当時IGCCの世界4大プロジェクトともいわれていました(図3参照)。
 その後欧州では再生可能エネルギー拡大の影響を受け、電力市場での大規模電源と比較し発電コストが割高なため、ブフナム発電所については2013年3月に廃止されています。
 他方、米国では、2000年代に入ってもIGCCへの支援は続き、ブッシュ政権の2005年に「エネルギー政策法」が施行され、政府による債務保証や税制上の優遇措置がとられました。こうした支援もあり、米国エドワーズポートのIGCC(76万kW)は2013年6月に世界初の本格的商用機として運転を開始しました。しかし、国内に安価なシェールガスがあるため、石炭火力は現状では積極的には推進されていない状況です。
 欧米のIGCCは、石炭をガス化するために酸素を使う方式(酸素吹き)でしたが、日本においては、昭和58(1983)年から空気を使って石炭をガス化する空気吹きIGCC という新技術に挑戦し、9電力会社と電源開発株式会社、電力中央研究所が設立した株式会社クリーンコールパワー研究所は、平成19(2007)年に福島県いわき市にある常磐共同火力株式会社勿来発電所(以下「常磐共火」)の敷地内に25万kWの実証機を完成しました。この設備は現在常磐共火が吸収合併し、勿来発電所10号機として保有・運転しています(図4参照)。空気によってガス化する方が、酸素を製造するエネルギーが不要なため、酸素吹きよりプラント全体の熱効率を高めることができます。また、信頼性の面でも、連続運転時間3,917時間という世界記録も持っております。そうした意味で、常磐共火勿来発電所のIGCCは世界最新鋭の技術といえます。
 それでは、IGCCとはどんなものか、次項で少し詳しく見てみましょう。
図5 IGCC系統図
IGCCの仕組み
 IGCCはその名の通り、石炭をガス化し、精製してクリーンなガスにした上で、ガスタービンとボイラを組み合わせたコンバインドサイクルで高効率な発電を行うシステムです。常磐共火10号機を例にとると、以下のステップで発電がおこなわれます(図5参照)。なお、さらに詳しい資料をご希望の方は、http://www.joban-power.co.jp/nakoso_power_plant/igcc/overview/をご覧ください。
① 石炭ミルで石炭を粉砕し、微粉炭にする。
② 微粉炭をガス化炉でガス化反応させ、一酸化炭素(CO)と水素(H2)を主成分とする生成ガスを発生させる。
③ 生成ガスを冷却しつつ、ガス化炉出口の熱交換機(SGC)により高温の蒸気を発生させる。
④ 冷却された生成ガスをガス精製設備で、硫黄化合物などを除去する。
⑤ クリーンになった生成ガス(=精製ガス)を燃焼させてガスタービンを駆動する。
⑥ ガスタービン排ガスから、廃熱回収ボイラにより高温の蒸気を発生させる。
⑦ ③と⑥の高温の蒸気で、蒸気タービンを駆動する。
⑧ ⑤と⑦のタービンの回転力で、発電機を駆動して発電する。
 コンバインドサイクルにおける熱効率は、ガスタービンにおける燃焼温度により大きく変わってきます。「常磐共火10号機」の燃焼温度は1,200℃級で、熱効率も42%程度ですが、今後燃焼温度の上昇とともに、熱効率も大幅に上昇します。次項で述べる現在建設中の「勿来IGCCパワー」のIGCCは燃焼温度が1,400℃級で熱効率も48%となっています。
図6 常磐共火10号機と勿来IGCCの仕様比較
石炭火力の将来
 日本では、常磐共火の敷地に福島復興電源として三菱商事パワー、三菱重工業、三菱電機、東京電力ホールディングスの各社と常磐共火が共同出資した「勿来IGCCパワー合同会社」(以下「勿来IGCC」)が新たなIGCC54万3千kW機の建設を令和2(2020)年の運転開始を目指して鋭意進めております(図6参照)。さらに、もう1機、福島県広野町で同型のIGCCを上記三菱3社と東京電力の「広野IGCCパワー合同会社」が建設中です。
 この勿来IGCCパワーの熱効率は、48%となっており、従来の最新鋭石炭火力と比較しても約15%、インドの石炭火力の平均熱効率約30%と比較すれば、5割程度の大幅な効率の改善となります。熱効率の改善はそのままCO2排出量の削減となります。
 現在海外でも、タイ、ポーランドなどでIGCC導入を検討しており、これまで海外からの見学者は60か国以上、約1,500人となっており、海外からも大変注目されています。
 また、IGCCの将来については、現在広島県大崎上島町において、中国電力と電源開発両社の共同出資会社である大崎クールジェン株式会社が平成29(2017)年3月から平成31(2019)年2月まで酸素吹きIGCCの実証試験を行い、平成31(2019)年4月にCO2分離・回収装置の実証試験や燃料電池を組み込んだIGFCの実証事業に着手しました(図1参照)。CO2の分離・回収は、さらにCO2を地下に封入するCCS(Carbon dioxide Capture and Strage=二酸化炭素貯留)という技術へつながっていくことが期待されています。
図7 長期エネルギー需給見通し
エネルギーのベストミックスに向けて
 政府は平成30(2018)年7月の「エネルギー基本計画」の中で、「エネルギー政策の要諦は、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図るため、最大限の取組を行うこと」(「3E+S」の原則)としています。
 こうした中で、石炭火力は、温室効果ガスの排出量が大きいという問題があるものの、石油やLNGと比較して地政学的リスクが最も低く、熱量当たりの単価も最も安いことから、安定供給性や経済性に優れた重要な「ベースロード電源」と評価されています。今後については、非効率石炭火力のフェードアウトなどに取り組む必要があるとする一方で、発電効率を大きく向上し、発電量当たりの温室効果ガス排出量を抜本的に下げるための技術等(IGCC、CCUSなど)の開発をさらに進めることとしております。因みにCCUSは、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Strageの略)で、分離貯留した二酸化炭素を、油田に圧入し原油を回収したり、化学製品を作る原料などに活用しようとするものです。
 経済産業省の「長期エネルギー需給見通し」(平成27/2015年7月)によると、令和12(2030)年度までに日本における温室効果ガス排出量を平成25(2013)年度比26%削減することを目標とし、電力については、徹底した省エネにより電力需要を17%程度低減するとともに、電源構成は、再生可能エネルギー22~24%、原子力22~20%、LNG 27%、石炭26%、石油3%程度としています(図7参照)。
 LNGは供給ソースの約4分の1を、また石油は9割を中東に依存しており、未だに中東の政情が不安定な中で、供給の安定性に不安があるのが現状です。地球環境問題への対応は、喫緊の課題ではありますが、他方において、供給の安定性や経済性の問題もあり、エネルギー間のバランスをとりながら進めていくことが肝要かと思います。そのために、世界最新鋭のIGCCの技術がお役に立てるのであれば、誠に幸いなことであります。
小泉 俊彰(こいずみ・としあき)
常常磐共同火力株式会社取締役社長、オーストラリア国立大学国際関係論修士
1956年 東京生まれ/東京大学法学部卒業/1981年東京電力入社、電気事業連合会企画部副部長(派遣)、燃料計画課長、上野支社長、LNG調達・投資戦略グループマネージャー(部長)、燃料部長を経て、2014年より現職