左官の話
その5:漆喰・珪藻土
山口 明(東京都左官職組合連合会青年部 平成会)

 
1. 卵しっくいの押え仕上げ。しっくいのパラリ仕上げ。黒しっくいの模様仕上げ
漆喰
 漆喰とは、瓦や石材の接着や目地の充填、壁の上塗りなどに使われ、主成分の水酸化カルシウムが二酸化炭素を吸収しながら硬化する、いわゆる気硬性の固化材であるため、施工後の水分乾燥以降において長い年月をかけて硬化します。
 日本では土の上に塗るため、接着ではなく「保水効果」による作業性の向上させる糊や、収縮防止やつなぎ(補強)効果を与える麻すさなどと混合してつくられ、なめらかな質感になります。一方、欧州では石の上に塗る石灰モルタルや生石灰クリームが主流であり、下地が硬いため糊などと混合せず、それ自身で強度を出し、ざらついた質感になります。
 自然素材を活かした左官材料の中でも漆喰は、日本国内に産出する石灰岩を焼成し、製造過程で排出したCO2の70%以上を製品となってから長期間にわたって吸収する、温暖化防止にふさわしい唯一の建築材です。鳥インフルエンザウイルスや牛の口蹄疫を消毒する際に使用された消石灰と同じ原料ですから、抗菌・殺菌に効果があります。また、調湿性があり、結露やダニ・カビの発生を防ぎます。消臭効果もありますし、ホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)なども吸着します。耐火性に優れ、火災の際にも有毒ガスは出しません。鏝押え仕上げにしますと静電気を発生しませんので汚れにくく、白漆喰の金鏝仕上げは反射率が高く、室内をより明るくします。現在は、漆喰が放出するマイナスイオン効果について研究が進められており、精神の安定や、リフレッシュ効果があると言われ始めています。カラーバリエーションも多様です。
 特注を含めて無限の独自のカラーを出すことができます。多彩なテクスチャー・パターン、塗り厚に応じて無限のテクスチャー・パターン、ワラ・縄・植物の葉・砂などの伏せ込みや埋め込みを表現できます。風雨に弱い土壁に比べて防水性を与えることができるほか、不燃素材であるため外部保護材料として、古くから城郭、土蔵など、木や土でつくられた内外壁の上塗り材としても用いられてきた建築素材です。
 壁に使用される場合には、通常で3.5mm程度の厚さが要求されます。塗料やモルタルなどに比べ乾燥時の収縮は少ないものの、柱などとの取り合い部に隙間が生じやすいため、施工の際には留意が必要です。
珪藻土
 珪藻土は、珪藻という植物性プランクトンの遺骸が、約3000年〜1500年前に海底や湖に大量に沈積し、その珪酸質の殼だけが元の形のまま残存され、地殻変動によって地中に埋蔵されたものです。珪藻土と漆喰はその製造過程は同じですが、材料が漆喰がサンゴに由来するのに対して珪藻土は珪藻と異なっています。また生成物が漆喰のCa(カルシウム)に対してSi(シリカ)の違いがあります。したがってその生成物から漆喰は固化材となるのに対して珪藻土は骨材となります。
 珪藻殼は非常に微細なもので、肉眼では見ることができないものの、Icm平方の珪藻土のなかに数億の珪藻殼が含まれています。表面には、無数の微細な孔(0.1〜0.2ミクロン)が、円形や針状に規則正しく配列されています。この微細で超多孔質な構造のため、表面積が大きく優れた呼吸性を発揮するのです。また、熱絶縁性が高く耐火性があり、化学的にも侵されにくい性質を持っています。そのため、昔から七輪や耐火煉瓦の原料に、またビールやガスなどの濾過材として幅広く使われてきました。特に建築素材として注目されているのは、珪藻土の多孔質性による優れた保温断熱・防露・調湿・遮音性で、よく使われるようになりました。
 珪藻土は、非常に微細で軽いため水に混じりにくく、自固性がないために単独での左官材料として使用はできません。そのため、珪藻土素材には他の固化材を直接混ぜています。この固化材を土、しっくい等の自然素材のものにすれば、なお吸放湿性に優れた目的の壁ができ、固化材に類似した外観に仕上げることができます。左官には永年の経験によってその仕上げ方法が確立されており、安心して提供できるものです。
 固化材に何を選定するかが問題ですが、誰が塗っても仕上りを均一にする必要があるので、事前にプレミックス材として製造されている既調合の珪藻土壁材を使用することが推奨されています。しかし有効性を得るためには、珪藻土の含有量や、壁の厚さが十分あることが必要です。また珪藻土には発癌性があるとして一時問題になったことがありますが、発癌性があるのは焼結してセラミック状になった珪藻土で、焼結していない製品には問題がないという結論を得ています。
山口 明(やまぐち・あきら)
東京都左官職組合連合会青年部 平成会、二級建築士事務所山口巧芸舎
1947年 京都生まれ/1970年 日本大学理工学部卒業/石油会社に入社。2000年退社し、埼玉県仕上高等専門校及び東京都立足立専門校を卒業後、有限会社原田左官工業所に入職/2002年 建築工事管理及び左官業である二級建築士事務所山口巧芸舎を設立、現在に至る