左官材料
左官壁は、建築では水平・垂直がベースですが、稀有の曲面壁がつくれ、大壁でのシームレス壁をつくれ、いろいろな性質を持ち、独特の意匠を表現ができ、環境にやさしい、省エネの特色を持っています。この左官工事に用いられる結合材、骨材、その他を総称して左官材料といいます。これら左官材料は、塗り材として現場で施工され、壁や床として層状に構成されます。層状に構成するためには、左官材料が左官工具によって容易に塗り広げられるなどのコロイド状で可塑性を持ち、ひび割れや剥離を起こさず、強固に乾燥するものでなければなりません。さらに、塗られる箇所に応じて塗り壁が要求される防火性、耐候性、耐アルカリ性、防湿、防音などの性質に合ったものが使われます。材料の品質がそのまま塗り壁の性質を左右するために、左官材料はその認識のみならず保管についても十分に注意をする必要があります。左官材料の持つ性質や特徴を十分生かして施工することは、左官技能を向上させるばかりでなく、評価を上げ、左官技能を永続させることになります。一方、左官材料は湿式工法であり工期が長くなり、職人によってでき映えが異なり、施工管理が難しい建築材料であることも認識する必要があります。
結合材
結合材は下地への接着性を持ち、化学的性質により硬化(固化)します。その硬化の仕組みは結合材の種類によって異なり、化学反応による硬化と、単なる凝結硬化(乾燥凝集)に大別されます。化学的硬化のうち、凝結後、水中で硬化する性質を水硬性、空気中で硬化する性質を気硬性といいます。また、結合材は固化に際して、温度・湿度の変化、化学作用や応力を受けて体積を変化させる収縮または膨張します。そのため骨材、スサなどを混合して、ひび割れや剥離をできるだけ防ぐ必要があります。(註:凝結とは結合材に水を加えるとはじめ粘性のある液状だったものが時間とともに流動性を失ってついに固体になる性質です。)
骨材
骨材は、結合材の収縮や膨張をできるだけ防ぐために混合される砂利や砂などです。通常、骨材は体積比で7割程度を占めます。微粉末が多く含まれていない、適当な硬度、泥などの有機物の含有・付着がない、吸水量が少ない、塩分が少ない、粒径が均一であることが良い骨材です。珪藻土は結合材ではないので微粉末の骨材です。骨材の体積比や大きさは、作業性や強度(ひび割れ)に影響があります。
その他(混和剤)
その他には、スサ、糊、顔料や、防水材・膨張材等の混和剤があります。スサは、収縮、ひび割れを分散、曲げ強さを向上、スサの保水性が左官材料の流動性の向上に効果があります。土、しっくい、ドロマイト塗りなど、乾燥に伴って大きく収縮する結合材には、スサは絶対に必要な材料です。
糊は保水性があり左官材料に適度な粘性を与えて作業性を向上させることが主目的ですが、乾燥すると強さや粘着力を向上させる効果もあります。
左官道具
左官道具は、左官の工法技術に密接な関係があり、その種類、用途を知り、その使用法、点検と保守に留意する必要があります。左官道具は、墨出し計測作業、調合・捏ね作業、塗り付け作業、運搬に用いられます。墨出し計測作業用は仕上がりを正確にするため、調合・捏ね作業用は左官材を均一に混合するために重要な左官道具ですが、塗り付け作業のための左官道具は、仕上げを平滑にして意匠を表現するために重要なものです。
一級左官技能士の検定試験では受験者が個々に少なくとも13本の鏝を用意することになっており、左官は最低でもこのくらいの鏝を所有しています。
日本の鏝
日本の鏝は鏝先角度を直角とせず、また肩の部分が直線でかつ微妙な曲線となっていて、日本刀の切っ先をイメージさせます。これは日本の壁が真壁で柱隅や鴨居のチリ際、また柱と鴨居の角で鏝先が拘束されますが、鏝先が多少鋭角であることや微妙な曲線を持つことで、鏝の可動域を広くすることが可能になっています。欧米や中国では大壁であるため、チリ際を考慮しない角鏝が利用されています。また柄が元の位置にある元首鏝があり、日本の塗り付ける鏝使いに対して、削り取る作業に適した形状をしています。
鏝の材質
鏝の材質は、仕様の特色により使用目的に使い分けられています。特に鋼は焼き入れの状況により、焼き入れをしない軟らかい地金から、焼き入れ焼き鈍しをした硬い本焼きまでが用意されています。註:むらとは、鏝の跡が塗り壁面に明らかに高い部分、低い部分が残っている状態をいう。
鏝での塗り付け施工
鏝での塗り付け施工は左官の「経験と勘」といわれますが、その内容は工学院の難波研究室の報告で鏝から左官材料と下地に向けた力、鏝速度及び鏝に柄にかけるモーメントのバランスにより決定されます。左官が左官材料の粘性によりバランスを「経験と勘」で微妙に調整しています。最終仕上げ施工は、塗り付け施工の後、鏝と下地との角度で左官材を引っ張りまた均す(鈍角の場合)、もしくは表面を撫でるまたは押える(鋭角の場合)、が仕上げの要素となっています。最終仕上げである仕上げ塗りは、塗り付け含めそれぞれが仕上げのゴールになり、また壁装材等の他の材料で仕上げる場合はその下地となるため、むらなどのないように施工することが条件となっています。
さらに、左官材料を「荒らす」や「磨く」ことによって、さまざまな表現を醸し出すことができます。この時、塗り付けが平滑になっていないと、「荒らす」の場合は模様に斑ができ、「磨く」の場合は磨けない部分が発生し均一な磨きにならない結果となります。
山口 明(やまぐち・あきら)
東京都左官職組合連合会青年部 平成会、二級建築士事務所山口巧芸舎
1947年 京都生まれ/1970年 日本大学理工学部卒業/石油会社に入社。2000年退社し、埼玉県仕上高等専門校及び東京都立足立専門校を卒業後、有限会社原田左官工業所に入職/2002年 建築工事管理及び左官業である二級建築士事務所山口巧芸舎を設立、現在に至る
1947年 京都生まれ/1970年 日本大学理工学部卒業/石油会社に入社。2000年退社し、埼玉県仕上高等専門校及び東京都立足立専門校を卒業後、有限会社原田左官工業所に入職/2002年 建築工事管理及び左官業である二級建築士事務所山口巧芸舎を設立、現在に至る
カテゴリー:構造 / 設備 / テクノロジー / プロダクツ
タグ:左官