左官の話
その6:左官の伝統と革新をテーマに
山口 明(東京都左官職組合連合会青年部 平成会)
 
しっくい壁で仕上げられた医療センターCT室。
 
モルタルで個性的な表情の店舗外壁。
 
左官で個性的な表情をつくったホテルロビー。
 
幼稚園の面取り出隅の水飲み場。
 
土壁で塗られた美術館の外装。
 伝統的な技術を駆使している現場では、床には現場テラゾー(研ぎ出し)仕上げや三和土仕上げなど多岐にわたっています。壁では、エントランスや、ホテル・旅館のフロント、ロビー、廊下などに漆喰、珪藻土、土壁を、無限のパターンやワラなどを伏せ込んだり埋め込んだりして、そこにしかない表現にすることが可能です。
 病院・学校・百貨店などのトイレでは、漆喰が消臭や殺菌の目的としても採用されています。幼稚園・公園などの水飲み場や滑り台では、けが防止を考慮して、人造石塗り研ぎ出しで出隅を大きく丸面取りにする仕上げとしています。人造石塗り研ぎ出しは飲食店のカウンターにも使われています。
 新たな技能・技術も生み出されています。店舗などでは石こうボードの上に3〜4mm程度の塗り厚で、コンクリート打ち放し化粧を完璧に再現している事例もあります。また、アスファルトフェルト430または同等の防水紙で、700g/㎡以上の異形ラスを、1019Jまたは同等以上のステープルで100mm以内で留めつける基準のラス下地のモルタル壁は、通気層をとり、経年劣化を防げれば、耐震や防火に大いに付与します。
 材料も進歩しています。現在の左官仕上げの材料は、下地をプラスターボードで想定して製造されているため、浮き・剥離がまったくないといっても過言ではありません。ひび割れもプラスターボード9mmと12mmをステンレスビスで乱張りにしてジョイント処理をすれば大丈夫です。曲面壁や大壁、塗り厚がある場合は、スタッドの幅を狭くすることで強度を確保します。
 このように、エンドユーザーに喜ばれ、設計意欲をかき立て、若い次代の左官職人に夢と希望を持たせる左官仕上げがもっと身近に、普通に生活の中で目に触れるようになることをわれわれは望んでいます。
 住宅様式の変化、建設工期の短縮化、コスト削減の流れから、壁の仕上げがモルタル薄塗りに移行し、プレキャストコンクリート工法の導入等の要因により、塗り壁や左官工事が減少しております。しかしながら、健康に優しい、省エネ建材である漆喰、珪藻土、土等の天然素材を使用した壁が見直されると共に、手仕事による仕上げの多様性や味わいを持つ、左官仕上げのよさが再認識されてきています。これからも「伝統と革新」をテーマに、顧客ニーズに対応するよう、建築士の方々を通じて左官の技術と自然素材の可能性を現代の建築仕上げに生かす提案・協力に努力をしてまいります。左官は技術的に難しい面が多々ありますが、左官へ問いかけていただければフィードバックしていきたいと考えています。
山口 明(やまぐち・あきら)
東京都左官職組合連合会青年部 平成会、二級建築士事務所山口巧芸舎
1947年 京都生まれ/1970年 日本大学理工学部卒業/石油会社に入社。2000年退社し、埼玉県仕上高等専門校及び東京都立足立専門校を卒業後、有限会社原田左官工業所に入職/2002年 建築工事管理及び左官業である二級建築士事務所山口巧芸舎を設立、現在に至る