世田谷支部 姫路研修旅行
世田谷支部|令和5(2023)年9月29、30日@姫路
井元 美佐代(東京都建築士事務所協会働き方改革推進ワーキングクループ委員、世田谷支部、有限会社シーアーク)
 秋晴れの心地よい天気に恵まれた9月の2日間。姫路に建設した自宅兼アトリエ「姫路の家」のご案内を中心に、国宝「姫路城」と今回の住宅に使った宍粟杉(しそうすぎ)の「しそう森の木工場」の見学を行った。1日目は姫路市街地を見下ろす広峰山にあるレストランにて播磨産の食材をふんだんに使ったランチを、2日目には名産の穴子を存分に味わい、宿は田園風景が広がるの塩田温泉で疲れを癒した。
姫路の家外観。
姫路の家内部。
姫路の家
 「姫路の家」は、数年前から時間をかけ基本構想と土地の選定を行ってきた。安心と安全、環境に配慮し持続性のあるこれからの住まいのあり方を考えて計画してきたものだ。
 約100坪の土地に20坪の平屋、室内から眺める広いウッドデッキのある庭と外から入ってすぐのところに小さな菜園がある。建物は真南に面し、できる限り効率よく発電する向きにしている。自然エネルギーを使い全館温度変化の少ない、ストレスフリーな住環境づくりに取り組んだ。
 OMXを採用して、太陽光発電と蓄電を行いエネルギーの自立を目指し、雨の日や夜間、非常時に備えている。日中の冷暖房の間にヒートポンプによる貯湯を行い、その日の給湯として使っている。また熱交換した後の空気を空調することでエネルギーの消費量を抑えている。樹脂サッシの採用や夏のことを考えた調湿性のあるセルロースファイバーを採用、All Time Real ZEH 74.67%達成している。
 ヒノキの土台と大引き以外の構造材、ヒノキの浴室を除く仕上げ材、建具などほぼすべてを県産材の宍粟杉を使っている。大断面で揃えた梁は追掛大栓継手により化粧梁等の木組みを現した。木材を多用することで調湿効果によりさらりとした空気感がある。
 このふたつの大きな特徴がこの家のいちばんの快適性と心地よさになっている。気候変動の動向、エネルギーの自立、また製造から解体までのライフサイクルエネルギーへの配慮、持続可能性、伝統的資材の見直しと新しい技術の融合を大切に考えた住まいだ。(サステナブル先導事業補助金、兵庫県産材財助成金を受けている)。
 また和室の壁は、珪藻土塗り壁ワークショップを開催。家族、ご近所さん、東京からの友人も駆けつけてくれた。周りの人たちと実際に手を使ってつくる楽しみや喜びを共有できた。今後はいつでも集える場所でありたいと願っている。
しそうの森の木工場。
森の木の3つの工場
 翌日は、この建物を建設した株式会社山弘の三渡眞介社長に「しそうの森の木工場」を案内していただいた。①森の木製材工場、②森の木加工工場、③森の木 PC工場の3つの工場だ。
 ①の製材工場には原木置場、JAS棟、ふたつの製材棟、特徴的な真空減圧乾燥機(ヒルデブランド乾燥)がある。この高性能な乾燥機では木材の内部乾燥による割れが少なく、木材に入った黒い部分も白い美しい木材に変わる。乾燥後のスギの色は天然乾燥のような色味となるとのこと。JAS棟では、含水率とヤング係数を測り、高品質の材を安定的に出荷できるようにしている。日本一小さなJAS製材所だ。②加工工場では、歩留まり60%を目指し、辺材を使い切る工夫がされている。おがくずも捨てず、全て集塵機とダクトでペレット工場に運び最後まで無駄なく使う。③PC工場では、大工さんの墨付け、プレカットと手刻みの両方が行われている。パネル工場ではセルロースファイバー断熱材を入れた屋根パネルを製作。住宅の断熱性能を上げ、また一方で集成材に加工をした材を用い欠点材の歩留まりを UP している。
 森の木の3つの工場を見学することで、より完成した住宅を理解することができたことだと思う。みなさんには、木造の美しい架構を見せるための継手や金物納めなどにも高い関心を持って見学いただけた。
姫路城をバックに記念撮影。
姫路城──日本最高峰の木造建築
 1日目の午後には、日本最高峰の木造建築でのある姫路城へ。地上6階地下1階の7階構造だ。本日3回目の案内をされていると話される元気なシルバーガイドさんに説明を受けながら登閣。戦いに備えたさまざまな仕掛けは実際に使われることがなく、太平洋戦争の2度の空襲で姫路のまちは焼土となっても姫路城は奇跡的に生き残った幸福な城。昭和の大改修、平成の大天守保存修理工事と時代ごとに大切に手入れされている。2023年は世界遺産登録から30周年を迎える。改めて木造建築の素晴らしさを感じながら天守を見上げた。
 皆で学び、また新たな視点を持つことができる充実した姫路研修旅行となった。
井元 美佐代(いもと・みさよ)
東京都建築士事務所協会 働き方改革推進ワーキングクループ委員、世田谷支部
1965年 兵庫県生まれ/女子美術大学卒業/赤沼設計工房/現在、有限会社シーアーク取締役