令和5年度東京都への予算等に対する要望を提出
 当会は、令和元年7月に発足した東京建築設計関連事務所協会協議会(通称TARC)のメンバーである(一社)東京構造設計事務所協会、(一社)東京都設備設計事務所協会及び(一社)日本建築積算事務所協会関東支部の3団体と共同して、東京都、東京都議会自由民主党、都議会公明党、都民ファーストの会東京都議団、東京都議会立憲民主党の5者に対して、令和5年度東京都への予算等に対する要望書を提出しました。
以下に提出した要望書を示します。
1 木造住宅※1で、昭和56年6月から平成12年5月までの間に建てられた住宅の耐震性能を確保し、安全で安心できる都市生活の実現のために、東京都において木造住宅※1(「グレーゾーン住宅※2」)への耐震助成制度を創設するとともに、都内の各区市町村における現行耐震助成制度の拡充を強力に指導して頂くよう、要望いたします。
 東京都は、都民の生命と財産を保護し首都機能を維持するため、建築物の耐震化を計画的かつ総合的に促進することを目的として耐震改修促進計画を策定しています。さらに、令和3年3月には当該計画を一部改訂して、住宅及び特定建築物についても新たな耐震目標を設定し、住宅についても令和7年度末までに耐震性が不足する住宅をおおむね解消する方針が示されています。この促進計画においては、木造住宅についても原則として建築基準法における新耐震基準(昭和56年6月1日施行)以前に建築された「旧耐震基準」の建物を対象としています。
 また、木造住宅※1においては、平成12年6月1日に施行された改正建築基準法並びに告示により、地盤に応じた基礎の仕様、筋かい端部や柱頭・柱脚接合金物の仕様、引き抜き金物の設置、耐力壁のバランス良い配置などの仕様規定(簡易計算と仕様ルール)が定められました。
 そのため、昭和56年6月1日から平成12年5月31日までに確認済証を取り建築された木造住宅※1(以下「グレーゾーン住宅※2」という)については、新耐震基準であるが定められておらず、十分な耐震性能が確保されているとはいいがたい状況にあります。
 「グレーゾーン住宅※2」の内、148棟について(一社)東京都建築士事務所協会で耐震性を調査した結果、86%の木造住宅で「倒壊する可能性が高い」という判定になりました。また、平成28年4月に発生した熊本地震において甚大な被害を被った益城町中心部の悉皆調査では、平成12年6月1日以降に建築された木造住宅が大破・倒壊した建物の割合は約6%であるのに対し、「グレーゾーン住宅※2」についてはその割合が約18.4%になっており、明確な差異が顕著に表れています。
 このような被害の実態を鑑みるに、昨今首都直下地震の切迫性が指摘される中、「グレーゾーン住宅※2」の耐震性能強化は安全で安心できる都市生活の実現のために不可欠となっています。つきましては、東京都において「グレーゾーン住宅※2」への耐震助成制度を創設するとともに、都内の各区市町村における現行耐震助成制度の拡充を強力に指導して頂くよう、要望いたします。
注)
※1:ここでいう木造住宅は、2階建て以下の木造在来軸組構法で建てられた住宅を指します。
※2:グレーゾーン住宅は、昭和56年6月1日以降平成12年5月31日以前に建てられた木造住宅を指します。平成12年6月1日の法改正により、基礎(施行令38条)継手・仕口(施行令47条 告示1460号)耐力壁の配置(施行令46条 告示1352号)等について法文化されました。
2 学校施設の教室環境においては換気状況が建築物環境衛生管理基準に照らして必ずしも適正な状態にあるとはいえず、コロナ禍の中で環境改善に向けた対策は喫緊の課題となっています。教室環境の改善に向けた実態調査の実施を要望いたします。また、この実態調査の実施にあたっては私共協会も積極的協力をする用意があり、一括のご下命を要望いたします。
 幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の教育施設の教室環境は、子供の健全な発育と適切な教育のために物理的にも健全な環境であることが不可欠です。
 この条件を満たすため、建築物における衛生的環境の確保に関する法律の基準(以下「建築物環境衛生管理基準」)や文部科学省の教室環境基準が設定されています。これらの基準は、学校施設を中心とした感染拡大が大きな課題となっている現下のコロナ禍においては、一層重要性を増しています。
 教室環境の実態は、冷暖房についてはほぼ整備を終えているものの、換気設備の不備、加湿設備の欠落、気流速や騒音等課題は山積しているのが実情です。とりわけ、小学校、中学校・幼稚園等については、換気も十分でない教室が多く見受けられるとの情報もあり、実態把握が不可欠です。
 教育庁も、令和3年度の第四定例会において、教室環境に関する質問に対して、教室環境が建築物環境衛生管理基準や文部科学省の教室環境基準を満たしていないため、今後改善を検討する旨の答弁をされています。
 このような状況のもとで、学校施設の室内環境の改善を行うには、まず学校の室内環境の現状把握が不可欠です。教室環境の改善に向けた実態調査の実施を要望いたします。
 実態調査の後、最終的に改修設計・改修工事を行うに際しては、建築の経年状況や耐震強度等建築的要素を調査すると共に、調査結果を分析・評価し、新築時・大規模改修時・中小規模改修時などの状況を考慮した改善策を検討することが重要となります。更に、東京都が強力に推進するカーボンフリーに向けて学校施設の省エネルギー性能向上に資することにもなります。
 このように将来を見据えた検討を行うに際しては、教室環境の実態調査の段階から建築設備の専門家も参画し、建築物を総合的に調査し、改修改善の方針を探ることが不可欠です。
 つきましては、この実態調査の実施にあたっては私共協会も積極的協力をする用意があり、一括のご下命を要望いたします。
3 既存建築物の改修設計の業務内容は建物用途や改修目的によって大きく違い、千差万別であり、発注者と受託者が共通した理解のもとに業務を遂行することが困難な場合も少なくありません。業務ビルや病院施設、共同住宅などの代表的な建物用途について、業務区分(調査、基本計画、基本設計、実施設計、工事監理)毎に業務内容を明示した標準仕様書の策定をご検討いただくと共に、各設計業務の業務報酬基準を設定していただきたく要望いたします。
さらに、適正な設計業務期間の策定、並びに改修内容・範囲の変更が生じた場合は業務期間の延長についてもご配慮いただきたく要望いたします。
 既存建築物の改修設計において、建築設計事務所が受託した設計業務(意匠・構造・設備・積算)を遂行していくためには、適切な設計業務報酬基準の設定と共に、発注仕様書の内容が明確に定められている必要があります。
 改修設計の発注仕様書は、受託業務の詳細を定める極めて重要な文書であるにもかかわらず、現状では発注仕様書の内容と受託業務の実態が乖離し大きな変更や現況調査が必要となる状況が見受けられます。これは、既存建築物の改修設計の業務内容が建物用途や改修目的によって大きく違い千差万別であるため、発注者と受託者が共通した理解のもとに業務を遂行することが困難であることが一因となっています。さらには、その多様性ゆえに、改修設計業務を構成する調査、基本計画、基本設計、実施設計、工事監理の各業務を包含した統一的な標準発注仕様書を策定することが極めて困難であるという、実際上の問題も考慮する必要があります。
 新築の設計業務報酬基準については、平成31年1月21日発出の国土交通省告示第98号において略算表が定められているのに対し、改修設計については標準的な基準が示されていないことから、適切な設計料率が設定されずに発注がなされている状況が散見されます。
 このように、改修設計の発注仕様書の内容に不明確な部分があるために想定以上の業務負担(度重なる確認作業や内容照査等)が課されることになり、精度の高い図面や積算内訳書の作成の障害となります。一方で、改修設計の業務報酬基準が未整備の現状も相俟って充分な報酬を受領できず、建築設計事務所の経営に大きな影響を与えています。
 つきましては、既存建築物の改修設計における、業務ビルや病院施設、共同住宅などの代表的な建物用途について、業務区分(調査、基本計画、基本設計、実施設計、工事監理)毎に業務内容を明示した標準仕様書の策定をご検討いただくと共に、各設計業務の業務報酬基準を設定していただきたく要望いたします。
 さらに、適正な設計業務期間の策定、並びに改修内容・範囲の変更が生じた場合は業務期間の延長についてもご配慮いただきたく要望いたします。
4 既存建築物の改修設計に係る積算業務の発注においては、改修設計業務の終末工程となる積算業務の適正な業務期間を確保いただきたく要望いたします。
さらに、既存建築物の改修設計においては事前の現状把握が難しいため、詳細な現地調査や改修設計の内容変更が生じる事例も少なくありません。改修内容・範囲の変更が生じた場合は業務期間の延長並びに積算業務報酬についてもご配慮いただきたく要望いたします。
 国土交通省及び東京都財務局建築設計業務委託では、現状積算業務が設計業務の中に含まれています。私共積算事務所は、基本的に受注者である建築設計事務所等より積算業務を再委託される形で積算業務を執り行っているのが現状です。
 積算業務は設計業務の中の一部とされていますが、業務の性質上、設計内容が確定しないと数量算出や金額算出が出来ないのも事実です。
 改修設計業務におきまして、発注時の業務仕様書では改修内容が未確定な部分、または要協議となっている案件があります。これらの案件は、その建物を使用する関係者の意見等を聴取しながら設計業務を進めることになりますが、当該意見聴取等が関係者との調整のため遅延する事も多く、改修設計内容の確定が大幅に遅延することも見受けられます。
 その結果、積算事務所への積算図渡し時期すなわち積算業務の開始時期も遅延となり、あるいは工期遵守の観点から改修内容確定前の段階で、見切り発車的に積算事務所に図面が渡されることが多くなるため、積算業務途中段階においても内容変更が多くなり、非常に煩雑な状況となっています。度重なる変更図の内容照査や質疑応答等の回数も増え、予定以上の工数並びに作業時間を要することにもなります。
 さらには、図面内容と積算内訳書との相違、あるいは違算の原因にも繋がり、貴重な財源から高い精度で必要な工事費を算出する障害ともなり得ます。
 つきましては、既存建築物の改修設計に係る積算業務の発注においては、改修設計業務の終末工程となる積算業務の適正な業務期間を確保いただきたく要望いたします。
 さらに、既存建築物の改修設計においては事前の現状把握が難しいため、詳細な現地調査や改修設計の内容変更が生じる事例も少なくありません。改修内容・範囲の変更が生じた場合は業務期間の延長並びに積算業務報酬についてもご配慮いただきたく要望いたします。