団体別採用力スパイラルアップ事業 働き方改革・女性の活躍推進基礎セミナー──人材確保に向けた取り組みと中小企業にも適用される法規制「第1回 法改正の基礎を学ぶ」
令和2(2020)年5月19日@14:00~16:00、Webセミナー
磯永 聖次(東京都建築士事務所協会港支部、団体別採用力スパイラルアップ事業WG委員、タキロンシーアイ(株)一級建築士事務所管理建築士)
 優秀な人材が働きたくなる雇用環境の整備は、建築士事務所経営において必須事項である。この度、私も委員を務める「団体別採用力スパイラルアップ事業WG」において、雇用環境の整備に必要な事項を4回連続シリーズで開催することなった。今回は、第1回目として実施した「法改正の基礎を学ぶ」のセミナー内容についてご紹介する。
 本来なら本年4月に新宿(本部)の会場にて対面で行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響から、インターネット(Web会議ソフトZoomによるウェビナー)での開催となった。講師としてお招きしたのは、社会保険労務士の田中豪さんである。田中先生は、産業カウンセラーでありながら一級建築士である経験を活かし、労務からメンタルヘルスの分野までワンストップでのサービスを公的機関や大手企業に提供されている。
 今年(令和2/2020年)の4月1日より中小規模の建築設計事務所にも適用されている働き方改革関連法、女性活躍推進法の目的や考え方、業界にとって影響が大きいと思われる点をテーマとして解説していただいた。
2030年には日本の労働力人口が644万人不足
 冒頭で、パーソル総合研究所と中央大学の調査報告書『労働市場の未来統計2030』の内容の紹介があった。この報告書によれば、2030年には日本の労働力人口が644万人も不足すると推計されている。この644万人の人手不足をどう埋めるのかについて、以下のような4つの対策を上げている。
対策1:働く女性を増やす(102万人)
対策2:働くシニアを増やす(163万人)
対策3:働く外国人を増やす(81万人)
対策4:生産性を上げる(298万人)
 対策1として上げられている内容は、まさに、現在、本WGで検討している女性の活躍推進であり、今後の労働力不足をカバーするものとしても非常に重要なテーマである。これらのテーマへの対応としては、働き方改革による新しい経営環境に対応することであり、労働環境の大転換が求められる。
法的義務が課せられている働き方改革関連法
 このような背景から、日本政府は、働く人の置かれた個々の事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を実現し、ひとりひとりが健康でよりよい将来の展望を持てるようにすることを目指し、平成31(2019)年4月1日から順次、働き方改革関連法が施行してきた。
 これらの働き方改革関連法の中でも、法的義務が課せられている必須の対応事項としては、以下の内容が上げられる。
① 時間外労働上限規制【中小企業2020年4月1日施行済】
 →時間外労働の見直し(上限は、原則月45時間・年360時間)。罰則規定あり。
 →年次有給休暇の時季指定、取得促進(年5日の年次有給休暇不取得)。罰則規定あり。
② 時間外労働割増賃金引上げ【中小企業2023年4月1日施行予定】
③ 労働者の健康確保(産業医・産業保健機能の強化)【中小企業でも努力義務あり】
④ 同一労働同一賃金(不合理な待遇格差を是正)【中小企業2021年4月1日施行済】
 →基本給・賞与すべてにおいて待遇差禁止。
⑤ 女性の活躍推進(一般事業主行動計画の作成等)【従業員101人以上2022年4月1日施行予定】
 →女性の活躍推進(女性の活躍が進んでいる証:えるぼし認定)認定企業数1,000社以上。
「えるぼし認定」──女性の活躍が進んでいる証し
 これらの施策の中でも、今後、特に重要な取り組みとして、⑤の「女性の活躍推進」が上げられる。女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)は、平成27年(2015)9月4日公布・同日施行された法律であり、「女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進し、もって男女の人権が尊重され、かつ、急速な少子高齢化の進展、国民の需要の多様化その他の社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現すること」を目的としている。この法律に基づく具体的な施策としては、女性の活躍が進んでいる証し、「えるぼし認定」が上げられる。
 この認定は、
①一般事業主行動計画の策定・届出を行い、
②女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等、一定の要件を満たすこと、
が認定要件となる。
 この認定を受けるメリットとしては、厚生労働大臣が定める認定マークをHPなどに付することができることであり、女性の活躍が進んでいる証として、「企業イメージの向上、優秀な人材の確保・定着、職場環境の改善、公共調達での加点評価」など、企業価値向上に非常に有効なツールとなっている。
 現在、急激に認定数が増えており、既に、認定企業数が1,000社を超えている。講習会実施時点では、この認定は、1つ星(☆)、2つ星(☆☆)、3つ星(☆☆☆)、の3種類であったが、2020年6月1日からは、これらに加え、新たに女性活躍推進の新マークとして「プラチナえるぼし」がスタートしている。
取り組みの好事例の紹介
 本セミナーでは、田中先生から、建設業界における実際の取組みの好事例を多数ご紹介いただいた。そのなかでも、ある中小企業の取り組み内容に注目が集まった。
 同社は「えるぼし3つ星(☆☆☆)」を取得したことで従業員のモチベーションアップ、就業希望増により、今まで以上に働きやすい環境となった。さらに、妊娠や子育て中の従業員に対する健康の確保について、制度の周知や情報提供および相談体制を整備し、女性の育児休業取得率は100%を達成している。現在は、男性従業員の育児休業取得を目指しているという。
 本セミナーは、インターネット(Web会議ソフトZoomによるウェビナー)を利用した初めてのセミナーであったが、田中先生の講演のあとには、参加者からの多くの質疑もあり、働き方改革関連法、女性活躍推進法の基礎を理解する、素晴らしい機会が得られた。
 本セミナーは、4回連続セミナーとなっており、次回以降のスケジュールは下記の通り。次回の第2回も、インターネットを利用したセミナーとなりますので、ぜひ、ふるってご参加ください。
磯永 聖次(いそなが・せいじ)
東京都建築士事務所協会港支部、タキロンシーアイ株式会社一級建築士事務所 管理建築士
1985年 国立徳山工業高等専門学校建築専攻卒業後、東京理科大学建築学科編入/1988年 川鉄エンジニアリング株式会社入社/1998年 財団法人建築行政情報センター/2007年 同行政部(日本建築行政会議)/2010年 同 建築行政研究所 上席研究員/2014年 タキロン株式会社/2017年 タキロンシーアイ株式会社