木造耐震改修Q&A
東京都建築士事務所協会 木造耐震専門委員会
矢﨑 博一(木造耐震専門委員会委員長、杉並支部、ぴいえいえす設計株式会社)
辻川 誠(木造耐震専門委員会委員、立川支部、辻川設計)
 木造耐震専門委員会では、これまでに『木造耐震改修Q&A集』を作成し、このテキストによって講習会を開催してきました。2019年3月に「木造耐震改修Q&A集講習会」を開催する運びとなり、これに先立ちテキストに未掲載のQ&Aから一部を掲載しますので、実務の参考にしてください。
新耐震後に建築された建物の診断について
Q. 平成8年に建築された住宅の耐震診断を依頼されました。どんなところに注意する必要がありますか。
 新耐震に移行した後の木造住宅でも、平成12年告示第1460号が施行されるまでは接合金物等について、いわゆる4号建物では法的な規制がありませんでした。新耐震以降の建物を耐震診断する際には、接合金物の配置調査など詳細な調査が必要になる場合も考えられますので、先ずは予備調査を行い、破壊を伴う精密調査が必要か否かを判断するのがよいと思われます。
 以下に示すのは平成8年の新築住宅の予備調査時の写真です。
 写真1では金物は使われていますが、釘の本数が不足するなど使用方法が不適切です。
 写真2も同じ建物ですが、筋かい金物が使用されておらず、釘だけで筋かいを接合しています。また、柱の接合金物も予備調査で確認できませんでした。
このように、平成12年告示第1460号が十分に周知されるまでは接合金物の仕様が不十分な事例が存在することがわかります。
 接合金物の配置が不十分な場合は上部構造評点が1.0未満となる場合もありますので、新耐震基準と告示の関係などを依頼者によく説明することが必要です。
写真1:釘の本数が不足。
写真2:筋かい金物が使用されていない。
木ずり壁について
Q. 木ずり壁の規定を教えて下さい。
 木ずり下地モルタル塗り壁は、木造住宅において非常に多く利用されているものです。
 木ずり下地モルタル塗り壁の壁基準耐力は、木ずりをN50釘で柱に留め付けるとともに、ラスについては1019J同等のステープルを使用することが前提となっています。しかしながら、既存木造住宅では釘やステープルに所定のものが使用されていないこともあるようです。
 写真3は外壁の木ずりの状態を確認するため、壁の引きはがし調査をしたものです。この例では木ずり材に、さね加工がされており、他の仕上げ材の流用と考えられます。
 写真4はこの木ずりの取り付けに使用されていた釘(上)とN50釘(下)との比較です。明らかに小さな釘が使用されているのがわかります。また、モルタル壁にひび割れが発生している事例も多く見られますので、壁耐力の評価については、それらの状況を総合的に判断し、必要に応じて耐力を低減するなどの対応が必要と考えられます。
写真3:木ずりの調査写真。
写真4:使用されていた釘(上)とN50釘。
ラスシートについて
Q. モルタル塗り壁におけるラスシート下地と木ずり下地との違いについて教えて下さい。
 耐震診断でラスシートと呼ばれているのは角波形状の亜鉛鉄板にメタルラスを電着させたもので、木ずり下地で使用されているラス網とは別のものです。既存木造住宅のモルタル塗り壁の下地は写真5のような木ずり下地の場合が多いと思われます。比較的に建築年次の新しい建物の場合には、写真6のようなラスシート下地のものも存在します。ラスシート下地の場合は、小屋裏等からの調査の際に写真6のようにラスシート(鉄板状のシート)が目視確認されます。
 木ずり下地モルタル塗りとラスシート下地モルタル塗りとでは、同じモルタル塗りの壁でも壁基準耐力が異なりますので診断の際には注意が必要です。
写真5:モルタル塗り壁の木ずり下地。
写真6:ラスシート下地。
耐力壁の梁継ぎ手補強について
Q. 耐力壁の梁に継ぎ手がある場合、補強が必要ですか。
 耐力壁の中に梁の継ぎ手を設けることはできるだけ避けるべきですが、既存建物の改修の際に耐力壁内に梁の継ぎ手が発見されることがあります。
 十分な補強がなされていない場合は図1のように継ぎ手部で外れる心配があります。やむを得ずこのような部位を耐力壁とする場合は、梁の継ぎ手部分を図1のように適切に補強する必要があります。また、火打ちの内側に梁継ぎ手がある場合なども補強が望ましいといえます。写真7は補強事例です。
図1:継ぎ手補強がない。
図2:梁の継ぎ手補強。
写真7:補強事例(枕梁補強)。
矢﨑 博一(やざき・ひろかず)
ぴいえいえす設計株式会社代表取締役、東京都建築士事務所協会 木造耐震専門委員会委員長 1950年長野県生まれ/1973年日本大学生産工学部卒業
辻川 誠(つじかわ・まこと)
東京都建築士事務所協会木造耐震専門委員会協力委員、立川支部、辻川設計一級建築士事務所、博士(農学)(東京大学)
1962年 東京・昭島生まれ/サンフォルム設計事務所勤務を経て、1992年 辻川設計開業