思い出のスケッチ #313
パリ・ノートルダム大聖堂
早川 佳孝(東京都建築士事務所協会賛助会員会、富田商事株式会社)
 
 思えばもう五〇余年前、先の東京オリンピックのころ、私が建築学科の学生に転科した時である。西洋建築史という履修科目があった。
 国内においても、巨匠による現代建築華やかなりしころで、西洋建築史には気が回らなかった。しかし履修科目には試験があり、どのような出題があるのか心配ではあった。
 教科担当は建築史家の藤島亥治郎先生であった。試験当日の出題は、「ゴシック建築のスケッチ」を描きなさいというものであった。すかさずノートルダム大聖堂の正面を描いた。もちろん合格点をいただいた。
 それから一〇年余り経って旅行で妻と初めてパリに寄ったとき、「ノートルダム大聖堂」を見に行った。現地では、先ず広場から正面を見上げその大きさと荘厳さに感動し、中に入った。内部空間は少し暗かったが、見たこともない壮大さとステンドグラスを通す光に驚いた。
 その後裏側に回ってフライング・バットレスを背にし、当スケッチに似た位置で写真を撮った。その記憶は今でも残っている。
 そしてホテルに入ったら、割り当ての部屋は最上階で、屋根の傾斜部分にバルコニーがあった。出てみると、パリのまちなみは車の騒音と共に、各建物の屋根に多くの煙突が並んでいるのが印象的であった。
 パリ・ノートルダム大聖堂はしばしば初期ゴシック建築の最高傑作であるとされる。尖ったアーチ、フライング・バットレス、リブ・ヴォールトなどの工学的要素がよく知られており、技術的特徴のみがゴシック建築を定義づけると考えられがちである。
 だが、ゴシック建築の本質は、これらのモティーフを含めた全体の美的効果のほうが重要である。ゴシック建築では全体が一定のリズムで秩序づけられていることに注目したい。
早川 佳孝(はやかわ・よしたか)
東京都建築士事務所協会賛助会員会幹事、会誌・HP専門委員、富田商事株式会社企画・デザイン部 建築意匠参与
http://www.tomita-syoji.jp