平成29年度東京建築賞見学会
東京都建築士事務所協会 会員研修委員会
押川 照三(東京都建築士事務所協会会員研修委員会、板橋支部)
 サクラ満開の快晴に恵まれた平成30(2018)年3月29日、平成29年度東京建築賞受賞作品見学会が開催された。今年度は、今までセキュリティや受け入れ態勢などの問題で実現できなかった住宅関連の受賞作品を、建築主のご理解ご協力で見学することができた。東京建築賞見学会としては初の住宅関係作品ということもあって、これまでで最多の40人を超える参加者だった。
「a-blanc」東側外観。北東コーナーにあるサクラが満開。
「a-blanc」エントランス。
「a-blanc」「屋上はらっぱ」。
「a-blanc」A住戸の地階リビングを見下ろす。
■a-blanc
設計   株式会社ゼロワンオフィス一級建築士事務所
施工   株式会社片山組
所在地  東京都世田谷区
主要用途 共同住宅(コーポラティブハウス)
構造   鉄筋コンクリート造
階数   地下1階、地上3階、塔屋1階
敷地面積 853.46㎡
建築面積 489.04㎡ 延床面積 1,557.08㎡
工事期間 2013年12月〜2015年3月
http://coretokyoweb.jp/?page=work&id=56
共同住宅部門最優秀賞「a-blanc」
 初めに訪れたのは、満開のサクラに彩られた株式会社ゼロワンオフィス一級建築士事務所による「a-blanc」。
 コーポラティブ方式で建てられた共同住宅で、インターネットで集まった方々が建設組合を立ち上げ、建設を進めたものである。
 外観は、緑豊かな植栽とランダムに配置された木製ルーバーが、昨今の画一的な外観の共同住宅にはない柔らかな印象を街に映している。組合員同士のコミュニティを建築後も大切にしてそのつながりを保つために、企画段階から共用部分の充実が図られたという。
 屋上庭園である「屋上はらっぱ」は、ペットを飼っている住民の交流の場として、または住民同士の集まり(バーベキューやお花見等)の場所として活用されている。エントランス部分では、床の煉瓦や木製の壁、そして里山をイメージした豊かな緑が外部からの緩やかな緩衝材となり、出入りする人に温もりを感じさせる。エントランスの一角にある住民が書籍を持ち寄った「ヨリミチ文庫」は、エントランスを住民の気持ちが寄り添う豊かなコミュニティ空間にしている。
 13戸で構成されるこの建物では、各戸のインフィル(内装)は自由設計であり、個性に富んだプランと内装が特徴のである。見学させていただいた「A住戸」では、設計者でもある住民の方から直接説明をいただく機会を得た。
 共用部にも見られたテクスチャーに気を配ったデザインはこの住戸にも生かされている。住戸は1階と地下1階のメゾネット住宅で、地下のリビングは、吹き抜けと高さ5mを超えるサッシでドライエリアにつながる、明るく開放的な空間となっていた。住戸のデザインは鉄や木、コンクリートといろいろな要素を取り込みながらも、空間全体に広がるデザインは統一感があり、共用部と同様の暖かな印象だった。
 適度な距離感を保てる共用空間の充実が緩やかでまとまりのあるコミュニティ形成に大きく役立っている事例として、建築の力を大いに感じる建物であった。
「BEAMS」道路側外観。
「BEAMS」2階リビングダイニング。
■BEAMS
設計   一級建築士事務所有限会社河野有悟建築計画室
施工   山庄建設株式会社
所在地  東京都世田谷区
主要用途 住宅、ギャラリー
構造   木質ラーメン構造 階数 地上3階
敷地面積 64.24㎡
建築面積 48.95㎡ 延床面積 121.09㎡
工事期間 2015年2月〜2015年9月
http://coretokyoweb.jp/?page=work&id=54
戸建住宅部門奨励賞「BEAMS」
 「a-blanc」から歩いて5分ほどのところに、一級建築士事務所河野雄吾建築計画室によるアートギャラリー兼住宅の「BEAMS」はある。
 大きく開放できる方向が道路面のみという難しい条件の中で、開放的で広々とした空間を見事な手法で実現している。
 空間の奥まで光を届ける間口いっぱいの開口を可能にしているのが、集成材の間にスチールトラスを組み込んだ合成梁である。さまざまなデザインのスチールトラスが各空間にリズム感と彩りを与えている。部屋に落ちるスチールトラスの影のかたちもさまざまで、単なる構造部材としないスチールトラスのデザインの可能性を見た。
 1階のギャラリーは、大きなFIXガラスの開口から中の様子がうかがえ、街の彩りにも役立っているようだ。2、3階の住宅では、天井面に近い位置にあるスチールトラスを透かした開口が、奥行きのあるリビングダイニングに開放感と明るさをもたらしている。敷地の弱点を見事な手法で解決したその発想力と、それをデザインに生かした手腕に感心させられる魅力的な建物であった。
押川 照三(おしかわ・てるみ)
建築家、+A一級建築士事務所代表、東京都建築士事務所協会板橋支部
1995年 大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業/1998年 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻修了/1999年 株式会社ウシダ・フィンドレイパートナーシップ入社/2001年 株式会社ゼロワンオフィス入社/2005年 +A一級建築士事務所設立