横浜山手の洋館を訪ねて──人工河川とまちを考える
平成29年度江東支部研修見学会
蓼沼 芳(東京都建築士事務所協会江東支部、株式会社阿波設計事務所)
 横浜山手は、観光地としてご存知の方も多いと思いますが、旧居留地の往時の建築を見るという観点では初めてという人も多いのではないでしょうか。無料で見学できる洋館7館のうち、5館と周辺の建築等をいくつか選んで巡る昼食を挟んでの半日強のコースとして見学会を開催しました。
 今回(平成29/2017年11月2日)は第5ブロック会に参加を呼び掛けて江戸川支部1名、江東支部6名の参加でした。
 みなとみらい線、元町・中華街駅に集合した一行は駅構内のエスカレーターを上がり、結婚式場を横目に見ながら屋上庭園状のアメリカ山公園へ。地上5階のレベルということもあり、ベイブリッジを初めとする横浜港の景観を見渡すことができます。絶好の日和に恵まれ、普段は会議や懇親会で夜に顔を突き合わせることが多い面々が、11月にしてはぽかぽか陽気であることもあり、本来のはつらつとした面持ちを確かめる日にもなりました。
アメリカ山公園「地域の歴史解説」のレリーフコーナーにある「明治21年末現在の横浜地図」。
アメリカ山公園
 「地域の歴史解説」のレリーフコーナーには「明治21年末現在の横浜地図」がはめ込まれ、これを見ると往時の居留地の広がりを見ることができます。地図中央に縦に海に流れている直線部分が人口河川「堀川」でその左側の丘部分が居留地でした。
横浜地方気象台庁舎(設計:神奈川県営繕管財課、1927年)。
横浜地方気象台庁舎
 港の見える丘公園へ行く左脇、昭和2(1927)年竣工の既存棟部分(設計:神奈川県営繕管財課)。見学スペースの傍らでも気象台の方々が執務中で、抜き足差し足での見学でしたが、階段手摺りの造形など興味深いものを見ることができました。
山手資料館(1909)。今回見学建物の中で唯一、関東大震災(大正12年/1923年)前の建物。
山手資料館(横浜市認定歴史的建造物)
 明治42(1909)年建築の旧中澤健吉邸「和様併設住宅」の洋館部分を移築保存した建物。馬車道にあるカツレツ店経営会社所有の資料館。黒船来航時の珍しい資料、開港時に最初に居留地に住んだ西洋人の所持品など、多数の原資料が展示されています。説明にあたってくれた方は山手のすべてをご存知のようなすてきな方です。今回見学建物の中で唯一、関東大震災(大正12年/1923年)前のものです。今見ることのできる旧居留地の他の洋館群は実は震災復興後のもの。震災前の建築群は華やかなものであったと記されています。
洋館5館
山手111番館(横浜市指定文化財、設計:J. H. モーガン、1926年)。
横浜市イギリス館(横浜市指定文化財、設計:大英工部総署(上海)、1937年)。
山手 234番館(横浜市認定歴史的建造物、設計:朝香吉蔵)。
エリスマン邸(横浜市認定歴史的建造物、設計:アントニン・レーモンド、1925-26年、1990年に移築・復元)。
ベーリックホール(横浜市認定歴史的建造物、設計:J. H. モーガン、1930年)。
横浜山手聖公会(横浜市認定歴史的建造物、設計:J. H. モーガン、1931年).
横浜山手聖公会(横浜市認定歴史的建造物、設計:J. H. モーガン)
 大谷石造の教会として味わい深い趣の建築です。やはり帝国ホテルを設計したフランクロイドライトの影響なのでしょうか。
代官坂。
堀川に架かる谷戸橋の親柱。
代官坂から中華街
 山手から下ると人工河川の堀川に至ります。今回は代官坂を降りて行きました。途中にブラフベーカリーというパン屋さんがありブルーをモチーフにした店構えが洒落た横浜のイメージに合います。お土産で買って帰る参加者もいました。
おわりに
 今回はブロック会行事としては小規模な見学会になりました。中華街での懇親会付きという豪華な内容のせいですが、現地集合、全部徒歩というコースでしたので参加者からは好評でした。
 まちは見るだけでなく味わうもの。黒船来航後、本格的に日本国内に外来の、主に西洋の文化が移入した過程で西洋の街づくりが日本の風土に入り、多くの建築士が身につけている現代の建築や都市計画の考え方が定着しました。人工河川がまちなみに及ぼす様は独特です。今後もそのような視点で他のまちを見、次の支部見学会に繋げられればと思います。
蓼沼 芳(たでぬま・かおる)
東京都建築士事務所協会江東支部副支部長、株式会社阿波設計事務所 執行役員関東統括部長・東京支店長
1961年生まれ/1986年 東京工業大学大学院修了/2008年 株式会社阿波設計事務所入社