思い出のスケッチ #300
軍艦島の廃墟
根本 利英(東京都建築士事務所協会南部支部、株式会社根本建築設計事務所)
軍艦島は、平成二七(二〇一五)年に国際記念物遺跡会議によって「明治日本の産業改革遺産・製鉄・製鋼・造船・石炭産業」の構成遺産のひとつとして世界文化遺産に登録されました。
二〇一五年一〇月一七日〜一九日、東京都建築士事務所協会南部支部の研修旅行として、十四名で、長崎・佐賀方面を旅した初日の午後に軍艦島に上陸しました。上陸後、三班に分かれ、日本で最初の鉄筋コンクリート造の集合住宅、炭鉱施設、住宅、小中学校、店舗、病院、その他の今は廃墟となった施設の内容説明を受けながら見学し、この狭い島に大勢の人が働いて生活していたことを実感しました。
このスケッチは当時の事務所等の跡地を描いたものです。煉瓦の壁は明治時代につくられた浴場煉瓦壁。明治日本の産業改革遺産といっても、いかにも軍艦島らしい高密度の鉄筋コンクリート造の集合住宅群は、実は大正時代以降のものです。日本最古の鉄筋コンクリート造七階建ての集合住宅として知られる「三〇号棟」は大正五(一九一六)年に竣工していますが、当時それ以外の居住施設は木造だったようです。
昭和四九(一九七四)年に閉山して以来、上陸が制限されていました。それが平成二一(二〇〇九)年に長崎市によって見学施設が整備され、立ち入り区域は制限されているものの、観光客が上陸できるようになりました。上陸解禁以来、多くの観光客が訪れ、三年間で上陸ツアーによる経済効果は六五億円にのぼるといわれています。
根本 利英(ねもと・としえい)
株式会社根本建築設計事務所取締役社長、東京都建築士事務所協会南部支部 副支部長
1947年 福島県生まれ/日本大学付属東北工業高校建築科卒業/1977年 株式会社根本建築設計事務所設立