第1 はじめに
東京消防庁管内の火災件数が全体的に減少傾向にある中で、飲食店火災は増加傾向にあります。建物から出火した火災の内、飲食店火災が占める割合は、平成2年中は5.0%であったのに対し、平成22年中は9.7%と約2倍に増加しています。このため、東京消防庁では平成23年度から2年にわたり、外部有識者を交えた検討会の設置や厨房設備に附属する排気ダクト等の実物大の火災実験(写真①参照)を実施するなど、飲食店火災に関する火災予防対策について検討してきました。この結果、「店舗従業員」、「厨房設備等」及び「排気ダクト等」の3つの観点について、更なる火災予防対策を講じる必要があるとの提言を受け、今般、上記3点について総合的な火災予防対策を講じることとなりました。
本稿では、飲食店を設計する際に影響する排気ダクト等の運用基準の内容について紹介します。
「排気ダクト等」対策として、より速く火災を感知し作動できるよう、防火ダンパーの温度センサーに関する運用基準を改正しました(平成24年7月1日運用開始)。また、排気ダクトの延焼を防止する対策として、排気ダクトの点検・清掃しやすい構造や風量・風速等の運用基準を改正しました(平成25年10月8日運用開始)。
第2 防火ダンパーの温度ヒューズ及び点検口の設置に関する運用基準
1 経緯等
排気ダクトの排気取入口には、防火ダンパー等の火炎伝送防止装置が設置されていますが、油汚れの堆積等により正常に作動しない事例があります。火災予防条例(以下、「条例」という)では清掃を行い、火災予防上支障ないよう維持管理することが規定されています。このソフト面の対策に加え、条例では容易に清掃できる構造とすることを規定し、ハード面の対策も要求しています。特に、このハード面の対策は、設計段階から火災時に防火ダンパーが確実に作動することや、排気ダクトの清掃等の維持管理を考慮する必要があります。そこで、検討会の結果を踏まえ、設計、施工可能な防火ダンパーの温度センサー及び点検口の設置に係る基準をまとめました。2 防火ダンパー(火炎伝送防止装置)の設置に関する運用基準
(平成24年7月1日運用開始)火災実験の結果、防火ダンパーの温度ヒューズに油塵が堆積した場合、作動時間が遅延するなどの作動性能に悪い影響が生じることが分かりました。そこで清掃の容易性を確保し、維持管理を徹底することに加え、作動温度の範囲を概ね120℃から180℃の間と限定し、厨房環境や飲食店の業態等を勘案して当該範囲の中で最も低い温度とする等、火炎の伝送を防止するための措置が必要です。
防火ダンパーの設置に関する運用基準
(下線部は変更及び追加した部分)(1)条例第3条の2第1項第3号ハただし書きの規定に基づき、火炎伝送防止装置として防火ダンパーを
設ける
場合は、次によること。ア
グリス除去装置に近接する部分の排気ダクトに堅固に
設けるとともに、天井・壁等に保守点検が行える点検口(概ね450mm×450mm)及び排気ダクトに防火ダンパーの開閉、作動状態の確認及び
点検、清掃(以下「確認等」という)
に必要な検査口
(容易に保守点検及び確認等
ができる構造のものを除く)を設けること。イ
温度センサーの
作動温度設定値は、概ね120℃から180℃までの範囲内のもので、
周囲温度を配慮し、誤作動しない範囲でできる限り低い値とすること。ウ
温度センサーのうち、温度ヒューズを使用するものにあっては、「防火区画に用いる防火設備等の構造方法を定める件」(昭和48年建設省告示第2563号)第2、2、ハ、(一)に規定する試験に合格したものを使用すること。エ
温度センサーの取り換えは容易に行えること。3 点検口の設置に関する運用基準
(平成25年10月8日運用開始)排気ダクトの清掃は、主に手作業により行われます。作業員が排気ダクトの外から清掃を行う場合は、全体に手が届く範囲に点検口が必要です。一方、作業員が排気ダクトの中に入り清掃を行う場合は、作業員の体が入れられる大きさの点検口で、構造も作業に耐えられることが必要です。
また、天井に設ける点検口から排気ダクトの点検口までのアクセス経路が確保されていないと、作業することができません。アクセス経路を確保するとともに、点検口の周囲は作業の妨げとなる物を置かないようにすることが必要です。
点検口の設置に関する運用基準
(下線部は変更及び追加した部分)条例第3条の2第1項第4号で規定する「清掃ができる構造」とは、次によること。ただし、次の施工方法と同等と認められる構造等の場合は、これによらないことができる。
(1)
排気ダクトに点検口を設ける場合
排気ダクトの
点検口の位置は、わん曲部(120度以内)の部分、及び直線
部分に設けることとし、直線部分に設ける場合は、次により設置する
こと。ア
円形の排気ダクトの場合は、概ね2mの範囲内で点検口(概ね400mm×250mm)を設置すること。イ
角形の排気ダクトの場合は、次により設置すること。(ア)排気ダクト内に進入して清掃をする場合(概ね500mm×300mm以上)、概ね7〜8mの範囲内に点検口(概ね450mm×450mm)を設け、作業員の荷重に耐えられるよう、 支持部は排気ダクト自体の重みに300kgを加えた重量に耐えられる構造とすること。
(イ)排気ダクトの外から清掃する場合概ね2mの範囲内に点検口(概ね400mm×250mm)を設けること。
(2)排気ダクトに点検口を設けない場合
接続部をフランジ接続等により取り外し可能で、かつ、接合部の気密性が確保できる構造とすること。
排気ダクト内が清掃可能な場合であれば、(1)及び(2)の施工方法を組み合わせることができる。
また、点検および清掃のために天井・壁等に設けた点検口(概ね450mm×450mm)から排気ダクト及び排気ダクトの点検口へのアクセス経路として、断面積が概ね450mm×450mmの空間を確保できるよう適宜な位置に天井・壁等の点検口を設けること。(図①)
排気ダクトの
点検口は気密性を有し、かつ、容易に開口しない構造とすること。
また、点検口の周囲は、
障害となる物を存置しないよう維持管理すること。
4 その他の運用基準
(平成25年10月8日運用開始)排気ダクト内は、適正な風量よりも減少したり、適正な風速より遅くなると、延焼しやすくなるため、これらを適正に保つことが必要です。
排気ダクト内の油汚れは、点検口を活用して完全に除去するとともに、延焼の媒体となる可燃物を入れないことが必要です。
断熱材を巻いた場合、周囲の可燃物との離隔距離は不要ですが、隙間などの施工不良があると、排気ダクト内へ延焼した火炎の放射熱により、周囲に延焼拡大することが懸念されるので、完全に被覆することが必要です。
運用基準
(下線部は変更及び追加した部分)(1)天蓋に係る運用基準
特定不燃材料以外の
電気配線や活性炭等
は、天蓋の内側に設けないこと。(2)排気ダクトに係る運用基準
ア
特定不燃材料以外の
電気配線や活性炭等
は、ダクト内に設けないこと。イ
条例第3条の2第1項第2号ハに規定する「金属以外の特定不燃材料で有効に被覆する部分」とは、ロックウール保温材(JIS A 9504によるもの)又はけい酸カルシウム保温材(JIS A 9510によるもの)若しくはこれと同等以上の特定不燃材料で、厚さ50mm以上で隙間なく
被覆する部分又はこれと同等以上の安全性を確保できる措置を講じた部分をいう。ウ
風量調節装置(ダンパー等)が設けられた場合、排気ダクト内の風量が、有効換気量(「建築設備設計基準 国土交通省大臣官房官庁営繕部設備・環境課監修」等により算定されるもの)における適正な範囲外とならないよう、風量調節装置の操作部にむやみに操作しない旨を表示すること※。
※当該基準については、条例上の規定はないが、火災予防上の必要な措置として定めたもの。
(3)グリス除去装置に係る運用基準
ア
グリスフィルターを使用するグリス除去装置は、排気中に含まれる油脂分を75%以上除去することができる性能を有し、その性能を維持できるように
すること。イ
グリスエクストラクターは、排気中に含まれる油脂分を90%以上除去することができる性能を有し、その性能を維持できるように
すること。
5 注意事項等
(1)運用開始前に設置された排気ダクト等は、今後の改修・交換の機会を捉えて、運用基準に沿ったものとしてください。(2)自主的に設置された排気ダクト等でもこの運用基準に合うよう配慮してください。
(3)グリスフィルター※2及びグリスエクストラクター※3は、それぞれの性能を発揮する風速があることに注意してください。
※2 グリスフィルター前方の風速は、平均速度1.1m/secから1.2m/secとする。ただし、指定値がある場合はそれによる。
※3 グリスエクストラクター前方の風量、風速及び静圧は指定値による。
(4)条例第3条の2第1項第2号トは、排気ダクト内面への油脂の付着を抑え、かつ、排気ダクト内の風速を下げないことで排気ダクト内の延焼を防止する効果があります。
第3 今後の予定
東京消防庁では、①運用基準について関係工業会の基準書等への反映に加え、②「厨房設備等」対策として業務用調理機器への調理油過熱防止装置や立ち消え安全装置等の技術開発及び普及、③防火ダンパーの応答性能に優れた温度センサーの採用を、関係工業会に働きかけていきます。検討会部会の報告書や火災実験の映像は東京消防庁のホームページを参照してください。
http://www.tfd.metro.tokyo.jp
[参考条文]
火災予防条例(昭和37年東京都条例第65号)
条例第3条の2第1項第2号ハ
排気ダクト等は、可燃性の部分から10cm以上の距離を保つこと。ただし、金属以外の特定不燃材料で有効に被覆する部分については、この限りでない。
条例第3条の2第1項第2号ト
排気ダクトは、曲がり及び立下りの箇所を極力少なくし、内面を滑らかに仕上げること。
条例第3条の2第1項第3号ハ
排気ダクトの排気取入口に、火炎伝送防止装置を設けること。
条例第3条の2第1項第4号
天蓋、天蓋と接続する排気ダクト内、グリス除去装置及び火炎伝送防止装置は、容易に清掃ができる構造とすること。