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井出 幸子(東京都建築士事務所協会会誌専門委員会・豊島支部副理事、UIFA JAPON(国際女性建築家会議)広報担当理事、(株)井出幸子建築設計室一級建築士事務所)
明るい日差しをうけて、外の植栽とガラスの木々の模様とがさざめき、映り込んでいる西原一丁目公園の男女共用のトイレブース。(撮影:筆者)
2023年暮れと2024年の初めの戦闘色の赤と
【2023年暮れ】
年末、仙台、奈良から上京した仲間らと「The Tokyo Toilet」をトイレマップ頼りに、数件見て周り、その後、『Perfect Days』を観た。『リスボン物語』以来のヴィム・ヴェンダースの映画だ。口髭にハサミを入れ、身支度を整え、渋谷のトイレ掃除に行く主人公。点検ミラーで小便器下を見、手際良くトイレの掃除を終え、1970から1980年代のカセットを聴きながら高速道路経由で押上界隈の木賃アパートに帰っていく。主人公がフィルムカメラで撮る木漏れ日の映像が音楽とともに交錯する筋立てに、久しぶりに監督の気配を楽しんだ。
トイレツアーでは、槇さんのトイレはやはり上質。佐藤可士和の恵比寿のトイレは雑踏のかわし方が上手い。田村菜穂の小さな鉢型敷地にダークオレンジのトイレがシンボリックで魅力的。坂倉竹之助の西原の男女トイレは、樹木の影絵パターンの貼られたガラスにリアル植栽の影が重なり、映画を体現したような華麗なトイレだった。男女共用ブース独立型が多いこと。女性をドキッとさせる伊東豊雄の開放度の高い小便器など、銀座ライオンでの忘年会では、男性代表も交え、賑やかなひと時だった。

【2024年元旦の戦闘色の赤と】
恒例となった親族zoom新年会に参集した女性たち4人は全員「赤」を身につけていた。ひとりが「戦闘色」と語る。
16:10 珠洲市の固定カメラが報じる映像の中で、瓦屋根が土埃を上げてずれていく。向こうで大きな土埃が膨らむ。倒壊か。日ごろ大地が揺れることはこの国に住む宿命としつつも、何とか生命を守れる方法をと、法を改正し、数値基準を見直し、建築士として、それなりに向きあい、備え方には言葉を尽くしてきている。しかし、それを超える脅威を目の当たりにすると、力が萎える年明けだ。
1/5、1/6現地調査に入った防災学術連携体から、1/9報告会を聞く。こんなに何度も被災経験を積んでも、被災後はやはりたいへんな事態が展開し続けている。1/15時点、輪島市と珠洲市の被災状況はまだ掴めていないし、集落の孤立が続いている。初動期の判断が甘かったという反省も出始めている。
輪島の倒壊した仕事場からT定規を探し出し、ネットがつながる能登空港に走り、学生とのオンライン講義を続けている知り合いのFBをつてに、状況を見守り続けている。
井出 幸子(いで・さちこ)
東京都建築士事務所協会豊島支部 副理事、UIFA JAPON(国際女性建築家会議日本支部)広報担当理事、(株)井出幸子建築設計室一級建築士事務所
1950年 東京都生まれ/1972年 日本女子大学住居学科卒//1972〜2012年 (株)アール・アイ・エー勤務、各種計画・意匠設計に従事/2012年 (株)井出幸子建築設計室一級建築士事務所設立
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