関東大震災100年
耐震改修促進法に基づく耐震化の推進
藤村 勝(東京都建築安全支援協会管理建築士)
 関東大震災(大正12/1923年)の27年後に建築基準法が制定され、耐震規定が強化されたものの、関東大震災から72年後に発生した阪神・淡路大震災(平成7/1995年)では、建築基準法に基づき設計された建物の倒壊などにより、5,000人を超える尊い人命が失われました。このため、国民の生命および財産の保護に資するため、平成7(1995)年に耐震改修促進法が公布され、建築物の耐震化が推進されてきました。しかしながら、南海トラフ地震、首都直下地震の切迫性が指摘されており、さらなる耐震化の推進が必要とされています。
表① 耐震改修促進法の公布と改正
耐震改修促進法の公布と改正
 建築物の耐震改修の促進に関する法律(以下、「耐震改修促進法」という)の公布と主な改訂を表①にまとめます。
 耐震改修促進法の技術的な原点である耐震診断基準は、昭和43(1968)年の十勝沖地震によるRC造建物の被害を踏まえ、昭和52(1977)年に発刊されましたが、その後、他構造へも適用され数回の改訂・発刊が行われました。平成7(1995)年阪神・淡路大震災の甚大な被害を受け、その年に耐震改修促進法が公布され、耐震診断の努力義務が求められるとともに、耐震改修が奨励されました。
 平成18(2006)年の改正では、耐震診断と耐震改修の促進に関して、国が基本方針を、都道府県が促進計画を定めることが規定され、また、告示第184号により診断と改修の指針が示されました。さらに平成25(2013)年の改正では、要安全確認計画記載建築物の指定により耐震診断が義務とされ、これらの建物の診断者が講習会を受講することも義務化されました。また平成30(2018)年の大阪府北部地震で、ブロック塀の倒壊により人命が失われたことにより、避難路に面するブロック塀の耐震診断の義務化も行われました。
表② 耐震診断が必要な建物の区分
耐震改修促進法による診断が必要な建物の区分
 「耐震改修促進法」では、建物の規模や社会的な影響度により、診断の緊急度の扱いが表②のように区分されています。
 区分1~2の階数が3以上でかつ延べ面積が5,000㎡以上の病院、店舗などの「要緊急安全確認大規模建築物」、都道府県などが指定する緊急輸送道路沿道建築物などの「要安全確認計画記載建築物」では診断は義務とされ、違反した場合の罰則規定があります。
 区分3~4の階数が3以上でかつ延べ面積が2,000㎡以上の病院、劇場、百貨店などの「指示の対象となる特定建築物」、および階数が3以上でかつ延べ面積が1,000㎡以上の事務所、学校、共同賃貸住宅などの「多数の者が利用する特定建築物」では、診断を行い、必要に応じて耐震改修を行うことが求められます。
 上記外の既存不適格建築物(区分5)の建物に対しては特別な規定はありませんが、同法第3条では国民に地震に対する安全性の確保を求めているので、この規定に従う必要があります。
図❶ Is算定式の比較
耐震改修促進法の指針式
 平成18(2006)年 国交告第184号(別添)の指針には、耐震性能を評価するIs算定式が示されています。このIs算定式は、図❶に示すように耐震診断基準におけるIsの算定式と異なりますが、詳しく見ると両者は基本的な部分で一致しています。
 第1項は地震力の分布係数で、第2項の(Qu/W)と(Cw+α2C2+α3C3)は保有水平耐力(Qu)を建物重量(W)で除した値、第3項はともに靭性指標(F)、第4項の指針の1/Fesは耐震診断基準のSD指標に対応しています。
 異なる点は、第5項の1/(Z・Rt)で、促進法の指針では地域係数(Z)と振動特性係数(Rt)を考慮してIs指標を算定するのに対して、耐震診断基準ではこれらを考慮しません。このため促進法の指針では同一の耐力と靭性を有する建物でも立地する地域と地盤により異なるIsに評価されます。
一方、促進法の指針では、判定値のIsoは地域などに係わらず0.6ですが、診断基準では地域や建物周期により判定値のIsoを低減することができます。
図❷ 耐震改修促進法の指針による耐震性の判定
耐震性の判定
 耐震改修促進法の指針では、診断で得られた構造耐震指標(Is)と保有水平耐力に係る指標(q)から、図❷に示すように耐震性を(1)危険性が低い、(2)危険性がある、(3)危険性が高い、の3区分に分けて判定します。危険性が低いと判定されるためには構造耐震指標(Is)が0.60以上で、かつ保有水平耐力に係る指標(q)が1.0以上であることが必要となります。
 構造耐震指標(Is)は図❶にように、保有水平耐力(Qu)を建物重量(W)で除した強度指標(C)と靭性指標(F)の積として求めます。保有水平耐力に係る指標(q)は強度指標を強度の下限値(RC造で0.30、S造で0.25)で除して求めます。qが1.0未満の建物は強度が小さいため、地震時に過大な変形が生じます。強度の下限値(0.30、0.25)は保有水平耐力計算における構造特性係数(Ds)の下限値と同一です。
図❸ 耐震診断の対象とするもの
耐震性の検討が必要な部位
 耐震性の検討が必要な部位を図❸に示します。構造耐震指標(Is)により検討を行う部位は、地上階、塔屋で、地下階、杭・基礎は耐震診断計算の対象外です。ただし、地下階高の1/3以上が地上に露出している場合や、一面が埋め込まれていない地下階は耐震性の検討が必要です。杭や基礎は、現行の建築基準法で大地震時の安全性の検討が求められていないこと、過去の地震で人命に影響した被害例がないことなどから、通常は診断の対象としていません。ただし、不等沈下調査により常時荷重に対する杭および基礎の安全性の確認を行います。
 高架水槽、煙突、および2mを超える跳ね出しは、現行の建築基準法に基づき、1.0Z(Z:地域係数)Gの水平動、上下動に対して安全性の検討を行います。袖看板などの落下の恐れがある部位は目視調査などにより異常がないことを調査します。過去の大地震で被害例が多く報告されているコンクリートブロック壁は、規模の大きなものについて、縦筋頂部の躯体への定着状況を調査した上で強度計算により安全性を確認します。
表③ 促進法の指針と同等の効力を有する診断方法(平31国住指第3107号)
促進法の指針と同等の効力を有する診断方法
 平成31(2019)年 国住指第3107号による技術的助言により、表③に示す15の診断方法が促進法の指針と同等の効力を有する診断方法として指定されています。日本建築防災協会の木造、鉄骨造、RC造、SRC造の耐震診断基準に加え、壁式構造の診断指針および簡易診断法が指定されているほか、官庁施設の総合耐震診断基準、屋内運動場の耐震性能診断基準も指定されています。また、昭和56(1981)年6月1日以降における、ある時点の建築基準法も診断方法として指定されています。
耐震改修の方法
 耐震性能が不足することが判明した建物の耐震改修の方法は、前述の国交告第184号別添の耐震改修の指針に規定されているほか、防災協会の構造種別ごとの耐震改修指針に示されています。しかしながら耐震改修は、耐震診断結果の妥当性の確認を行った上で、建物に適した補強工法の選定など、高度な判断が求められます。
 安全支援協会ではこれらに係る無料相談を行っていますので、希望される方は東京都建築士事務所協会本部事務局に申込み下さい。
藤村 勝(ふじむら・まさる)
東京都建築建築安全支援協会管理建築士
1949年 長野県生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業後、竹中工務店東京本店設計部入社/現在、東京都建築安全支援協会管理建築士