地盤塾 第4回(最終回)
地形と土質を的確に判断できる地盤会社の見分け方
春日 龍史(東京都建築士事務所協会賛助会員、株式会社アースリレーションズ)
千葉 由美子(株式会社ブルーセージ)
地盤会社選びを間違えると沈下事故が起きる危険性が上がる
 第1回から第3回まで、「地盤会社の選び方」というテーマに沿って、地盤調査報告書と地盤補強工事見積書の見方を説明してきた。なぜこのテーマだったのかというと、「建築事業者や建築主に、真面目に地盤の検討を行っている地盤会社を見分けて欲しい」という想いがあるからである。
 今回の連載でも、YouTube「ER地盤塾」(https://youtu.be/oATOfZonFgM)でも訴えているが、宅地の地盤業界は会社によって技術力に差があり、さらにモラルが低い会社が存在することは残念な事実である。そして、地形や土質を考慮しない傾向やコスト重視の傾向が、工法選択ミスや補強深度と補強体本数の不足などにつながり、住宅の不同沈下事故が多数起きている。事故原因の多くが同じような理由であることや、技術力があり事故を起こさない会社があることを知っている身からすると、減らせる(そもそも起きるはずがなかった)事故が減らない現状はとてももどかしい。
 最終回は、今一度「技術力とモラルのある地盤会社を選ぶ重要性」を訴えた上で、「地形と土質を的確に判断できる地盤会社の選び方」を紹介する。
1. 測点データ表(現物ではなく再現したもの)
2. ハンドオーガー試験による地盤調査。
土質を確認し、地盤判定に活かした現場
 はじめに、実際に土質を確認して地盤判定に活かした現場を紹介する。
 計画建物は一部深基礎(基礎底面は設計GL-1.85m)で基礎の必要地耐力は30kN/㎡。現地の地形は東京都23区内の台地で関東ローム層の分布が考えられる。関東ロームは特殊土に分類され、人の手によって乱されたものや二次堆積でなければ、SWS試験の数値以上の地耐力が見込める。建築基準法施行令93条では、関東ロームの地盤の許容応力度(地耐力)は50kN/㎡とされている。小規模建築物は直接基礎で支持可能な地盤である。
 しかし、1回目の地盤調査(SWS試験)で、表層からGL-3mで回転層を主体に構成されているもののGL-3m以深で軟弱性の高いWsw=0.75kN以下の自沈層が多く見られるため地盤補強が必要という判定結果になった。(1)
 そこで、2回目の地盤調査でハンドオーガー試験を追加し、基礎底面部分で乱されていない関東ローム層の分布が確認できたことから、地耐力は30kN/㎡以上を見込めると判断し、最終的な地盤判定を「直接基礎での支持が可能」とした。(2)
「土質を確認して直接基礎」は諸刃の剣
 今回は乱されていない関東ローム層が確認できたため、直接基礎で支持が可能と判断した。
 しかし、「人の手によって乱されたもの」や「二次堆積」だった場合は、関東ロームの特性上地耐力が大幅に小さくなってしまう。したがって、見た目は関東ロームのようでも自然地盤の関東ロームと同じように判断することはできない。つまり、建築基準法施行令93条に当てはまらず、今回はSWS試験で基礎下5mの範囲で軟弱性の高い自沈層が多く見られることから軟弱地盤と判断し、地盤補強を施す必要がある。
 武蔵野台地で見られる自然地盤の関東ロームは、掘削・採取した時に粘性がある程度高い塊で現れ、指でこするとじわりと水分が染み出すことが多い。しかし、乱されたものや二次堆積の場合、塊ではなくぽろぽろの状態で水分量もかなり低いことが多い。瓦礫やゴミが混入している場合は完全に乱されたものである。
 最近は一部の地盤会社で「土質を確認して直接基礎」という営業手法があるようだ。その文言は地盤補強工事をしたくない側にはとても魅力的に響くと思う。しかし、自然地盤か乱されたものかの区別がつかない会社やモラルの低い会社であった場合、土質の確認が的確に行われず、営業的に危険側の判断になり不同沈下事故を招く危険性がある。
 土質確認を任せる場合は、建築士も現場で立ち合い土質を確認するか、せめて現場写真により採取した土の状態を把握することが求められる。その際、地盤会社に自然地盤とそうでない場合の土の状態の違いを聞いてみると、地盤会社の技術力を推察できるだろう。
 土質確認の目的は地盤対策費用を抑えることではない。あくまでも、SWS試験で得た数値を詳細に評価するための補完試験ということを忘れてはならない。
SWS試験に補完して地形と土質を考慮したい危険性が高い地盤
 『小規模建築物基礎設計指針』にも書かれている通り、SWS試験は簡便で安価で多くの箇所で試験を行えるメリットがある一方、土を確認できないデメリットが挙げられている。そのため、試験数値だけでなく地形と土質を考慮して地盤判定を行うことが求められている。
 地形と土質を考慮することは、関東ロームのようにSWS試験の数値以上に地耐力が見込めると判断できる場合があるが、反対に数値通りではなくシビアな判断が求められる場合もある。言い換えると、「数値をそのまま評価できない危険性の高い地形や土質がある」ということである。

【主な危険性の高い地形や土質】
・沖積地盤の粘性土
・有機質土(腐植土)
・液状化の恐れがある砂質土
・経過年数が浅い盛土
・土以外のもの(瓦礫、煉瓦、木片、ゴミなど)
 これらの確認方法は、ハンドオーガーなどで実際に土を採取するほか、地形資料や航空写真、造成図面などから判断できることも多い。資料の読み方は、連載第1回の「調査報告書を読む1・2」を再読して欲しい。
3. 東京低地にある沖積平野の代表的な地層区分
4. 東京の地層構成断面図
5. 土粒子の区分と構成分の名称
6. 日本統一土質分類表(一部抜粋)
7. 粒度試験の様子
8. 地形模式図
土質確認の結果の妥当性
①沖積地盤の粘性土、液状化の恐れがある砂質土(3〜6)
 沖積地盤は年代が新しい地層である。
 沖積地盤は建物に対して未圧密であることが多い。粘性土は未圧密から正規圧密へ移行するのに長い時間がかかるため、沖積地盤の粘性土層の自沈層は圧密沈下量検討が求められる。
 沖積地盤かどうかは土地条件図で確認できる。
 粘性土(細粒分)、砂質土(粗粒分)の境は土質工学で下記のように粒径(土の粒の直径)によって分類される。
 土は、地形ごとに単一の粒径で構成されている場合や、さまざまな粒径が混じり合って形成されている場合がある。粒径が混じり合っている場合は、細粒分の含有率によって粘性土と砂質土が分けられる。その土地の土が粘性土なのか砂質土なのかを正確に判定するためには粒度試験を行わなければならない。
 しかし、現状は小規模建築物で粒度試験を行うことは稀である。粒度試験(7)を行う以外は、すべて推定土質となる。基本的には、近隣ボーリングデータとの相関性、SWS試験の貫入時の感触(シャリシャリ、ジャリジャリ、ガリガリなどの音を伴う時は砂質土)、回転数値から総合的に推定している。推定の場合、安全側で判断することが求められる。
 たとえば、圧密沈下量検討の対象であれば粘性土とし、液状化検討の対象であれば砂質土としている。

②有機質土(腐植土)
 有機質土(腐植土)の危険性は、圧縮性が高く圧密沈下の危険が非常に高いこと、酸性土のためセメント系固化材の取り扱いに注意が必要なことが挙げられる。
 有機質土は一般的に軟弱な数値の自沈層で形成されると思われているようだが、実際には回転層となる有機質土もある。自沈層部分で地盤補強を行ったところ、その下の回転層でも腐植土の分布が続いており、補強深度不足で不同沈下事故が起こった例もある。腐植土=自沈層という先入観は改めて欲しい。
 有機質土が堆積しやすい地形は決まっている。(8)
・谷底低地
・後背湿地
・旧河道
・堤間湿地
 敷地がこれらの地形に属する場合は、近隣のボーリングデータで有機質土の分布を確認し、ドリルサンプラーやハンドオーガーにより土質確認を行い、適した工法と深度設計を行うことが望ましい。連載第2回と第3回で記載した通り、有機質土は補強工事での事故が多い。設計者として、安全側の判断を選択して欲しい。
まとめ
 4回の連載で終始訴えてきたことは、「不同沈下事故を起こさない検討の見分け方」だった。
 地盤は、似たような傾向が広い範囲で続く地域もあれば敷地が隣にずれただけで状況が変わってしまうことも多く、一般論に括り説明することがとても難しい。また、地盤従事者以外には理解が難しい分野と思われている節があるように思う。しかし、実際には注意が必要なポイントは限られている。
 地盤会社によって技術力とモラルに差がある現状を変えるためにも、建築事業者や建築主の目を光らせて欲しい。
 普段から地盤の周知・啓発活動をしている身として、多くの方の目に触れる機関紙での連載はとても光栄なことでした。今回の連載の機会を下さった方、ご協力頂いた方、皆様へ感謝いたします。
アースリレーションズより:地盤会社の選び方
 第1回の導入にて、「地盤会社が何をリスクとし、何をリスクと見込んでいないのか」を見定めることが重要であると述べた。地盤支持力と圧密沈下は支持地盤の二大要素であり、それらに注目することで見えてくるものがあるだろう。
 また、地盤業界にも業界特有の常識のようなものがある。たとえば、「ローム地盤は高い圧密沈下耐性を持っている」などだ。そして、地盤判定書や支持力検討書では、これらを特段明記しない場合も多い。もしそのような不鮮明さを感じたら、遠慮なく地盤会社に質問すると良いだろう。その回答は地盤会社の姿勢の見極めに大いに役立つはずだ。
 建築事業者は自らのバランス感覚にそぐう会社をみつけて欲しい。
春日 龍史(かすが・りゅうじ)
東京都建築士事務所協会賛助会員、株式会社アースリレーションズ技術営業部係長
1988年 東京都生まれ/2014年 株式会社アースリレーションズ入社、技術設計部門を担当/地盤調査判定、地盤補強設計検討に従事
千葉 由美子(ちば・ゆみこ)
株式会社ブルーセージ代表取締役、地盤品質判定士、住宅地盤調査主任技士、測量士補
YouTube「ER地盤塾(全12回)」の動画を作成。住宅会社向けに宅地地盤の研修を行っている。宅地地盤判定・審査の累計件数は約7万件