「リノベーションまちづくりの実践」講演会を支部で開催
豊島支部|令和4(2022)年11月16日(水)@としま区民センター
阿部 弘明(東京都建築士事務所協会豊島支部副支部長、株式会社空間デザイン)
らいおん建築事務所、嶋田洋平さんが空間・事業プロデュースを手掛けたリノベーション「メルカート三番街」。(写真提供:ライオン建築事務所)
 豊島支部では、らいおん建築事務所の嶋田洋平さんを講師に招き、「リノベーションまちづくりの実践──地域の資源を活かしたリノベーションによるエリア再生」と題した講演をお願いした。今回の講演会をより多くの方に聴いていただくため4ブロックの皆さんに参加を募ったところ、20名を超える方々が参加され、活気のある講演会となった。
Re-innovation──発想を変える
 リノベーションはリフォームより大規模に、建物を手直しするくらいに考えている方もおられるようだが、リノベーションは「Re-innovation」であり、「新たな価値やアイデアを創造し直す」ことである。建築の場合は「既存建物の価値を新たに創造し直すこと」であり、建物の「使われ方」や「利用者」を変えることで、空間は新しく生まれ変わる。建物の改修だけでは終わらないのだ。そこで重要なことは「発想を変える」ということ。そのため業務の内容は、従来の建築士事務所の建築設計・工事監理を超えたものになる。
リノベーションまちづくりのきっかけ
 嶋田さんは、大学卒業後在籍していた「みかんぐみ」を退社し、事務所を始めるにあたり、今後の仕事のあり方がどこにあるかを考えたという。すると新築住宅着工件数が減る一方で、空き家はどんどん増えていることが判明する(ちなみに嶋田さんが大学に入学した1995年、年間160万戸あった新築住宅着工件数は、2015年には約80万戸と約半減、また空き家は約820万戸あり、現在も増加中)。新築は減る一方、せっかくつくった建物がどんどん放置される時代になっていた。
 増加し続ける空き家を「リノベーション市場」と捉えると、その市場規模は年間新築件数の約10倍あり、建築業界の数少ない成長市場と見ることができる。視点と発想を変え、空き家を「まちの宝」とし、「更地にして建物を建てる」のではなく、既にある空き家をどう活かすかという発想で仕事をする「リノベーション」は、可能性無限大のこれからの仕事であると考えたそうだ。そこで、活動の主軸を新築ではなく「リノベーション」に決め、それが現在の活躍に繋がっていく。
北九州市小倉魚町エリアリノベーション
 独立当初、生まれ故郷、北九州市小倉のアーケード商店街にある築50年以上の古いビルの有効活用の相談を受けた。長い間入居者のいない案件(Z案件)である。そこで嶋田さんの「リノベーション」が動き出す。その場を全国チェーン店で埋めるのではなく、若いクリエイターたちに低家賃で提供するというものだ。通常の建設プロジェクトでは、企画デザイン→建設工事→入居者募集だが、逆に、入居者確定→建設工事の確定→企画デザインとし、絶対賃料(確実な収入)を確定した上で、収支を検討して基本5年以内に投資回収できる範囲の建設工事とした。工事予算が限られる中、不足分は入居予定者などが自力施工した。
 空き家だらけの商店街に、若い人たちの個性豊かな店が一気に10店舗オープンすると、若者が集まり、通りの景色が変わってきた。すると、この成功を見て周囲の空店舗に新しい若者の店がオープンし、エリア全体が活性化していった。
エリアリノベーションで気をつけること
・古い建物を暫定利用する──従前の行政の多額な補助金を使い、新たに再開発ビルを建てるのではなく、補助に頼らず、自己投資の範囲内で古い建物を寿命まで暫定利用していくことが大切。
・コンテンツ・アジャイル開発──計画の全てを決めてしまうではなく、状況を見ながら適宜修正しながらつくり込んでいく。
・素早い都市型サービス産業集積──ビル内の一部分(1店舗)ではなく全体の(多店舗)計画をする。またひとつの建物ではなく狭いエリアの様々な建物に都市型サービスが集積することが効果大。
・積み重ねられた時間の手触り──その土地の歴史が積み上げた地形や風景を掘り起こし光を当てる。
 このほかにもエリアリノベーションの継続・発展のための「家守制度」や行政の建物をリノベーションした福島県国見町の事例など、魅力的な話が続いた。
 講演後には、出席者の質問にも答えていただいた。
 嶋田さんのプロジェクトに参加を希望する若者たちのような、個性豊かな人材をどう見つけ出すか、という質問には、「建築を生業とする人たちは、そのようなユニークな人たちと出会ったり、見つけたりするのが上手いですよね」との回答。仕事に対するモチベーションが上がるひとことだった。
 空き家、空き店舗、空きビルを豊かな空間資源として捉え、「リノベーションまちづくり」をしてみたいと思う素敵な講演であった。
阿部 弘明(あべ・ひろあき)
東京都建築士事務所協会豊島支部副支部長、豊島区商工政策審議会委員
1963年 奈良県生まれ/1987年 大阪大学工学部建築工学科卒業/1996年 株式会社空間デザイン設立代表取締役就任