国策により進む建築物の木造化
林業の持続的発展と森林の整備、木材自給率の向上などを目指し、国が建築物の木造化を推進しています。そのひとつの契機となったのが平成22(2010)年に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」です。この法律は低層の公共建築物については原則木造化を図ることとされています。平成26(2014)年には木造建築物の耐火基準も一部緩和され、耐火仕様を求められる非住宅においても木造を検討しやすい環境が整いはじめました。
さらに令和3(2021)年6月には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、同10月に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」として施行されました。同10月1日には国の基本方針として、「公共建築物について、低層のものに限らず、コストや技術の面で困難な場合を除き、積極的に木造化を促進するとともに、公共建築物だけでなく、民間建築物を含む建築物一般での木材利用を促進する」ということが示されました。
公共建築物の木造化と連動するかたちで、民間の非住宅に対してもさまざまな補助事業が立ち上がり、公共・民間ともに非住宅における木造化が推進されています。
コスト・環境の面でも検討される木造へのスイッチ
住宅分野では高いシェアを有する木造ですが、非住宅分野においては鉄筋コンクリート造や鉄骨造が主流の状況が長く続いていました。住宅に比べて、規模の大きい非住宅には鉄筋コンクリート造や鉄骨造の方が取り回しが容易といわれてきましたが、鉄骨などの建築資材高騰によりコスト面でよりシビアな検討が必要になったことや、高力ボルトなどの部材の調達が困難な社会情勢から、近年では鉄筋コンクリート造や鉄骨造から、木造へのスイッチを検討する動きがみられています。また、カーボンニュートラルな社会を目指すという方針を政府が宣言したことから、今後はより環境負荷の少ない部材として、環境面から木造が検討されることもさらに増えていくと考えられます。
木造非住宅のメリット
非住宅分野において、実態としてはコストや部材調達困難の外部要因から、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の代替工法として選択肢になりはじめた木造非住宅ですが、鉄筋コンクリート造や鉄骨造にはないメリット(設計自由度が高い/短工期・低コスト/法人税や所得税の軽減効果が大きい)があります。1. 設計自由度の高さ
木造の設計自由度の高さで非住宅建築にも対応可能。建物ごとに違うニーズに細やかに対応することができます。
2. 短工期、低コストの実現
一般的な鉄筋コンクリート造や鉄骨造の工期(6.5~7.5カ月)に 比べ、木造の工期は6カ月程度と短く、木造は建物が軽いことにより基礎や地盤改良工事にかかるコストの低減も図れます。
3. 法人税や所得税の軽減効果
木造は減価償却期間が22年に設定されており、鉄筋コンクリート造や鉄骨造よりも短いのが特長です。法人税や所得税の軽減効果が期待でき、長期的な事業リスクも軽減できます。
木造非住宅の超えるべき課題
これまで非住宅において鉄筋コンクリート造や鉄骨造が主流であったのは、端的に言えば「木造では希望する建物がつくれないから」ということでした。非住宅特有の要望としては代表的なものは「大空間の実現」で、施設や店舗などでは柱のない大空間への要望が多くあります。倉庫などの建物用途では天井高さへの要望も加わります。住宅でいう大空間とは規模の違う非住宅の大空間を、空間を遮る壁や柱を置かずに実現するのは構造強度上難しい課題です(1)。
木は生育する縦方向からかかる力に強い優れた建築材料ですが、横方向からの力には弱いという特長(2)があり、大空間を構成するうえで大きな課題となるのは梁の強度です。梁の強度を高めるために大断面の木梁を用いれば、理論上は強度を持たせることが可能ですが、コスト面が悪化し、木造のメリットが薄くなってしまいます。また、大断面梁では梁成が大きくなり天井高さに影響が出ることや、分割できない大断面の梁を輸送し搬入する際のハードルも高いという課題もあります。
これらの木造の課題を克服し、まずは希望する建物を木造で実現できるようにすることが、木造非住宅の推進には不可欠といえます。
木造の課題を克服した「パナソニック耐震工法 テクノストラクチャー」
木造の弱点を克服するために、梁の部分に鉄の力をプラスしたのが「パナソニック耐震工法 テクノストラクチャー」です(3)。梁の強度を高めるために、梁は木と鉄を組み合わせた「テクノビーム」というオリジナルの梁を使用します。木造でありながら、鉄骨造と同等の空間を柱なしで実現することが可能な工法です(最大10m、床梁は8m、4)。
非住宅の大空間ニーズにこたえられるだけでなく、通し柱が不要で上下階のプランニングの自由度が高まることや、耐火建築物対応で防火地域や特殊建築物にも対応できることなども特長です。
また、一般的な木造にはないメリットとして、大断面梁は分割して搬入し現場接合することが可能で、狭小な搬入経路にも対応できることや、配管を通すための梁貫通穴を梁にあけることができ天井高さを確保できることなども挙げられます。
テクノストラクチャー工法の特長
・最大スパン10m、最大天井高さ4mまで対応可能。・梁勝ち工法で通し柱が不要のため、1階が大空間、2階が小部屋など上下階で異なる平面プランでも対応可能。
・耐火建築物にも対応。
・梁貫通穴を活用して天井高さを確保可能。
・諸条件に対応できる多彩な部材ラインナップ(大開口、変形敷地、斜線規制など)。
現在は3階建て延床面積1,500㎡まで一体設計が可能ですが、2022年秋以降に3,000㎡まで一体設計が可能になる見込みです。木と鉄を組み合わせることで、木造の課題を克服しながら、木造のメリットを享受することができる工法として、さまざまな用途の非住宅物件で採用されています。
テクノストラクチャー工法が採用された実例
● 老人福祉施設──大空間で見通しと通路幅を確保
● 老人福祉施設──大空間で見通しと通路幅を確保
2階にロングスパンビームを配置し、大空間を実現した事例。柱がない空間は必要なスペースを確保するとともに、施設運営で重要な死角を減らすことにも貢献しました。
● アパートガレージ──広い開口を確保
耐力壁の配置が必要な箇所を高強度の門型フレームに変更し、一般の木造では難しい耐力壁のない広い開口を、コストを抑えて実現しました。
● 保育園・幼稚園──梁材の分割・現場接合で狭小搬入経路に対応
鉄骨造・RC造では実質的に対応困難な狭小な搬入経路の現場。大断面梁も分割して搬入し現場接合できるテクノストラクチャーだから大空間が実現できました。
● 公民館──4m柱で高い天井を実現
鉄骨造から切り替えてテクノストラクチャーが採用されたケース。木造でありながら遮る柱のない10m間口、高さ4mの大きな空間が実現しました。
● 倉庫──高天井倉庫の2階に事務所スペースを確保
倉庫に置く資材に4m近いものがあったため高い天井の確保が必須だったケース。1階は高天井の倉庫、2階に事務所スペースを実現しました。
● 事務所──ZEB達成と職場環境の快適性向上を実現
会議室・執務室などの大きな空間と応接室・更衣室等の小さな空間が混在する事務所を、設計自由度の高さで実現したケースです。
● 店舗──独自部材で変形敷地を最大限に活用
外周部に斜め接合する独自部材を配置して、規格寸法では建築しづらい変形敷地を最大限活用。上棟から2カ月半後のテナントオープンに間に合うようスピード工事を実現しました。
● 診療所・クリニック──意匠性の高い空間と工期短縮・コスト低減を両立
部材調達のリードタイムが開業予定に間に合わず鉄骨造から計画変更。ほぼ予定通りの日程で竣工し、鉄骨造の当初計画から予算も圧縮しながら意匠性の高い空間を実現しました。
安定的に、求められる建物を提供することをめざして
数年前に発生した部材の調達困難が工期やコストに大きく影響したことが記憶に新しい非住宅ですが、木材についても世界の物流の乱れや情勢不安の影響から調達困難な状況が起こっています。これらは単一の部材調達の問題にとどまらず、安定的に建物を提供できる提案や備えが今まで以上に求められる状況であるといえるのではないでしょうか。また、建物も建物の供給方法もサステナブルであることを強く求められる世界に変わりつつあることも加え、建物を提案する事業者への社会の要請は日々相当にレベルアップしていると認識しています。
当社は木造非住宅というフィールドで、皆様のお役に立ちながら社会の要請にこたえる建物の提供に取り組んでまいります。
木造非住宅の案件に、ぜひテクノストラクチャーという選択肢をご検討ください。
【お問い合わせ】
パナソニック アーキスケルトンデザイン株式会社
Tel. 06-6906-2269
松川 武志(まつかわ・たけし)
東京都建築士事務所協会賛助会員、パナソニック アーキスケルトンデザイン株式会社代表取締役社長
1994年に松下電工株式会社(現・パナソニックホールディングス株式会社)入社/テクノストラクチャー工法の開発に携わったのち、パナソニックのハウジングシステム事業の経営企画・事業企画・海外事業などを担当/2022年4月より現職
1994年に松下電工株式会社(現・パナソニックホールディングス株式会社)入社/テクノストラクチャー工法の開発に携わったのち、パナソニックのハウジングシステム事業の経営企画・事業企画・海外事業などを担当/2022年4月より現職
カテゴリー:構造 / 設備 / テクノロジー / プロダクツ
タグ:テクノロジープラス