テクノロジー+ 第14回
感染症蔓延予防対策においての建材選定
美濃部 敦也(東京都建築士事務所協会賛助会員、ロンシール工業株式会社)
図1 国立感染症研究所で分離に成功した新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真。(国立感染症研究所ホームページより)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは
 新型コロナウイルスは元来あるコロナウイルスのひとつとなります。
 これまで50種類以上確認され、その中で人に感染するウイルスは7種類見つかっています。
・一般的に風邪の原因となる4種類のウイルス。
・2002年に発見されたSARSは、コウモリを媒体として人に感染。
・2012年に発見されたMERSは、ラクダを媒体として人に感染。
・2019年12月に中国の武漢にて原因不明の肺炎患者からヒトに感染する7種類目の新たなウイルス「COVID-19」が発見されました(図1)。
図2 ヒトからヒトへの新型コロナウイルスの経路
図3 ヒトは顔を触っている。(厚生労働省ホームページより)
新型コロナウイルスの感染経路
 新型コロナウイルスの感染経路としては、3種類となります(図2)。
・飛沫感染⇒感染者の咳、くしゃみなどにより飛び散った唾液に含まれるウイルスを吸い込んで感染します。
・空気感染⇒飛沫の水分が蒸発し、空気中に浮遊したウイルスを吸い込んで感染します。
・接触感染⇒ウイルスが付着した手で口や鼻や目を触ることにより、粘膜から感染します。
 通常、人は無意識に顔を触っています。1時間当たり、平均接触回数は、目・鼻で3回、口で4回も触っていて、日常生活の中で無意識のうちに感染するリスクが往々にあります(図3)。
 また、2020年10月にアメリカ疾病対策センター(通称CDC)から新型コロナウイルスの感染経路に関する指針を改定するニュースがありました。「空気感染で広がることが時々あり得る」と、指摘されています。これにより、感染予防対策を見直す必要もあり、今後の課題となります。
図4 新型コロナウイルスの寿命
新型コロナウイルスの寿命について
 アメリカ国立アレルギー感染症研究所などのチーム論文よりさまざまな環境の中でのウイルスの寿命が発表されています(図4)。
 空気中では3時間。鋼の表面では4時間。ボール紙の表面では24時間。ステンレスの表面・弊社の主力製品のビニル床シートとして同等のプラスチックの表面に関しては2日から3日間となり、かなり長い時間、感染するウイルスが存在することがわかります。
 ちなみにマスク表面の外側では1週間程度となります。また、ヒトの皮膚上では9時間となり、これはインフルエンザの5倍の寿命となります。
トイレの床は感染リスクが高い
 2020年2月にダイヤモンドプリンセス号でCOVID-19の集団感染発生が確認されました。合計712名の感染者が確認されています。
 国立感染症研究所にて患者周囲の環境汚染の程度を確認し、感染経路について推測するため、船内の環境調査として、合計601カ所から検体採取が行われました。共有部分97カ所、部屋490カ所、空気14カ所で調査を行い、その内58検体でウイルスが検出されました。
 部屋の中では、浴室内トイレの床が13カ所となり、部屋全体での39%と、多くの感染検体がトイレにて発見されました。これにより感染者の排泄物にウイルスが含まれていることが判明しました*。
 また、廊下天井排気口からも検出されていました。これにより特殊な環境でウイルスが遠方まで浮遊する可能性について、さらなる検討が必要となります。
図5 新しい生活様式の実践例(厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルス感染症について」より)
図6 職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト(厚生労働省ホームページより)
図7 (公社)日本産業衛生学会「建設業における新型コロナウイルス感染予防・対策マニュアル」
新しい生活様式
 専門家会議からの提言を踏まえ「新しい生活様式」の実践例が示されています(図5)。
 既に一般常識のようにご理解されているかと思いますが、
・まず人との間隔をあける。
・会話をするときは可能な限り真正面を避ける。
・ヒトとの間隔が十分取れないときは、症状がなくてもマスクを着用する。
・手洗いをする。
・換気をする。
が重要となります。
 さらに厚労省から各事業者向けに示した注意事項の中に、トイレ使用後はフタを閉めて流すよう、表示を求めています。これは感染ウイルスが糞便内に含まれている場合にウイルス拡散を防ぐための行為となります(図6)。
 (公社)日本産業衛生学会からの、建設業における新型コロナウイルス感染予防・対策マニュアルの中でも、「洋式トイレで汚物を流す際には、フタを閉めるよう提示する。」と表示されています。(図7)。
図8 ウイルス感染が拡大していくプロセス
図9 ウイルスの構造
床材に感染対策がなぜ必要なのか
 ウイルス感染者がする咳、くしゃみの飛沫は2mほど飛散します。
 飛散したウイルスは空気中に漂い、最終的には床に付着します。
 ウイルスは目に見えないほどの小ささになります。そのため、どこにウイルスがあるのか人間の目では判別できません。
 人が歩行することにより足底等にウイルスが付着し、汚染エリアを拡大させます。床に付着したウイルスが乾燥すると人が歩いただけでも、その気流により人の口元まで舞い上がってきます。そして別の人へと入り二次感染していき、さらに広い範囲へ感染してクラスターとなります(図8)。
 一般的にウイルスは、その構造からエンベロープ有と無の、ふたつのウイルスに分けられます。ウイルスの中には核酸があり、中心に遺伝子、その外側に脂質の膜のエンベロープがあります。スパイクと呼ばれる突起状のたんぱく質が細胞に付き侵入感染します。エンベロープがあるタイプのウイルスは、主にインフルエンザウイルス、風疹、コロナウイルスとなります。ないタイプのノンエンベロープは、ノロウイルスなどとなります(図9)。
図10 SIAAマーク
ウイルスなどの感染症蔓延予防対策においての建材選定
 ウイルス対策としての建材選定には、建材自体の抗ウイルス性能を見極めることが重要です。
 現在、抗ウイルス性を謳う製品が増えていますが、それらの抗ウイルス性効果の表記が異なっている場合があります。
 抗ウイルス性の性能評価方法としては2019年5月に国際基準であるISOにて評価方法と性能基準が制定されています(ISO21702)ので、試験方法に着目した建材選定が重要となります。
 また、SIAA(抗菌製品技術協議会)では、独自の認証基準を満たした製品に対し、抗ウイルス加工マーク(SIAAマーク)の表示を推奨(図10)しています。このような認証マークの有無についても建材選定の目安として活用することができます。
製品パンフレット
美濃部 敦也(みのべ・あつや)
ロンシール工業株式会社 建装事業部 建装営業部 営業推進グループ
1973年 東京都生まれ/2010年 同社入社/入社当初、建装事業部企画部に所属し、内装仕上げ材の企画立案に従事/2015年 マーケティング営業グループに転属し、内装・防水の設計向け営業に従事/2017年 建装営業推進グループに統合し、内装仕上げ材の設計向け営業に従事