世田谷支部技術研修会「うめとぴあ」見学会
世田谷支部|令和3(2021)年12月14日@「うめとぴあ」
鈴木 紘子(東京都建築士事務所協会世田谷支部、(株)MMAAA)
地下1階駐車場。柱上部に免震装置がある。
外構の免震スリット。
段状緑化テラス。保水性竪樋が見える。
東側外観。黒っぽく見えるものが保水性竪樋。
 今回は2019年に開業した、世田谷区立保健医療福祉総合プラザ「うめとぴあ」を見学した。参加者は当日15時に現地に集合し、区の施設の管理者と、工事監理担当者のおふたりに、施設概要をご説明いただいた。
 施設全体のコンセプトとして、地形や土地の持つ緑の力を最大限いかすことを掲げられており、また敷地が浸水想定区域に近いことから、BCP(事業継続性)、DRP(災害リスク軽減)にも重点を置かれているとのことであった。そのため、建物には免震構造を採用し、上層階に上がるごとにセットバックさせて緑化を行う段状緑化、雨水流出抑制・空調負荷削減のための独自の保水性竪樋、施工中に出てきた湧水を利用した雨水を貯留するレインガーデン等、さまざまな工夫が随所に施されていた。
 はじめに案内いただいた地下1階は駐車場として使用されており、その天井に近いレベルで免震装置により構造躯体が地盤側と建物側とに分けられている。3種類、約70基もの免震装置により建物全体が支えられているそうだ(写真1)。
 次に案内いただいた外構には、建物外周に0.5m程度の側溝が掘られており、地震時に建物が動いた際のクリアランスとしての機能と、地下駐車場への雨水の浸水を防ぐ機能を併せ持っていることが理解できる(写真2)。
 施設の外に出ると、地中熱エアコンのための室外機や、先述のレインガーデンが一般の利用者からもよく見える場所に配置されていた。また、地中熱利用のエネルギー消費量・稼動状況は、1階エントランスホールのモニターで誰でも確認できるようになっており、グリーンインフラ普及への強い関心と熱意が感じられた。
 最後に、段状緑化が行なわれているテラスを案内いただいた(写真3)。盛夏には緑がかなりのボリュームになり、空調負荷を大きく削減するそうだ。緑の美しい時期には軒下に植栽が映り込み、地上から眺めると建物全体が大きな緑の丘のように見えるという仕掛けもあるそうだ。写真奥に写る石積みは、本施設のために新たに開発された保水性竪樋で、雨が降れば雨水を吸水し、雨後には蒸散作用により周囲の温度を下げる。5階から1階までタイルの馬目地のようにずらした位置に計画されているため、5階から流れる各階を流れていく水は、段状緑化を潤す役割も果たすという(写真4)。この開発時には相当な苦労があったそうだ。どうしても四方に水が飛び散り下に流れていかないので、多孔質の石を選び吸水性能を向上させ、さらに石の大きさや積み方等をモックアップで検証し、何度も試行錯誤を重ねられたそうだ。
 見学の後、小田急線梅ヶ丘駅最寄りの「美登利寿司本店」にて懇親会を行い、見学会の感想や、日頃の実務における意見の交換等が活発に行なわれた。寒波が激しい天候であったが、多数のご参加をいただき、大変盛況のうちに幕を閉じた。
■世田谷区立保健医療福祉総合プラザ「うめとぴあ」
所在地 東京都世田谷区松原6-37-10
設計  佐藤総合計画
施工  大成建設
構造  地下1階柱頭免震、地上:SRC造+S造、基礎:RC造
規模  地上5階、地下1階
延床面積 15,485㎡
竣工  2020年2月
鈴木 紘子(すずき・ひろこ)
東京都建築士事務所協会世田谷支部、(株)MMAAA
1996年 京都生まれ/2014年 千葉大学工学部建築学科卒業/現在、(株)MMAAA