SMI:RE SHAKUJII──都市の『よはく』への可能性
ビーフンデザイン
第45回東京建築賞|共同住宅部門奨励賞
建築主:
合同会社BE 代表社員 進藤強
設計:
株式会社ビーフンデザイン一級建築士事務所
施工:
栄光建設株式会社
所在地:
東京都練馬区
主要用途:
長屋
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
85.17㎡
建築面積:
47.72㎡
延床面積:
94.45㎡
工事期間:
2016年7月〜2017年1月
撮影:
平井 広行
設計趣旨:
 新青梅通りに面する極端に細長い土地に5戸の長屋を計画した。
 土地の潜在的価値を見出す建物の在り方を提案するため、建築家自ら土地探しから始めたプロジェクトである。使い道のない都市の「よはく」のような土地にふたつのアプローチから付加価値をつけ、「魅力のある住まい」とした。
 ひとつ目に、道路と地盤面の高低差を利用して1階階高を高くとることで、都市のスケールを建物に取り込み、狭小住宅でありながらもダイナミックな空間構成とした。また、ロフトを設けて空間の立体的活用も可能となった。
 ふたつ目に、隣地に緑豊かな施設があることから、室内に大きく開口を設けて周辺環境を借景として取り入れた。大通り沿いの狭小住宅でも、中に入れば庭が向こう側に広がっているような心地良い空間となった。
 これまで土地の開発は主にデベロッパーが担ってきたが、今回のように建築家が土地探しから介入することで、これからの住まい(SMI)の探し方をリノベーション(RE)できるのではないか。今後、建築家の職能を広げるひとつの方法となればと思う。(進藤 強)
進藤 強(しんどう・つよし)
1973年 兵庫県生まれ/1996年 京都精華大学美術学部デザイン学科建築専攻 卒業/1998年 株式会社アーキテクトン 米田明に師事/2001年 ビーフンデザイン共同設立/2012年 株式会社ビーフンデザイン
選考評:
 都市の中には見捨てられた土地、役に立ちそうもない土地、建築の敷地にはなりそうもない土地が数多くある。そのような余白のような敷地にあえて挑戦して価値を生み出すという新しい発想を展開している建築家の作品である。多くは地主を説得して計画を実現することが多いようだが、この作品は自ずから土地を購入して共同住宅を建設するという事業にチャレンジしている。
 前面道路から擁壁で大きな落差で落ちている下の奥行き3mほどの狭隘で、かつ使いにくい敷地に長屋型式の2階建共同住宅を計画した。各戸は10㎡の平面型で、敷地の高低差を利用して地上レベルの階高を大きくとりロフトを設けたり、小さな吹き抜け空間を設けたり、変化に富んだ立体的空間を実現している。
 隣接する庭園の緑を借景とし、大きな開口部を設けて狭い居室にも関わらず開放感がある。居住者は若い夫婦や若い芸術家かそれぞれ狭小な居室を工夫しながら生活している。
 この作品は建築そのものよりも「よはく」の土地にさまざまな工夫を凝らして付加価値を生み出そうとする発想と企画力。その結果実現したユニークな住環境とそれを楽しんで生活する若い世代の新しい感覚が評価される作品である。(岡本 賢)
岡本 賢(おかもと・まさる)
建築家、一般社団法人日本建築美術協会会長
1939年東京都生まれ/1964年 名古屋工業大学建築学科卒業後、株式会社久米建築事務所(現・株式会社久米設計)/1999年 同代表取締役社長/2006年 社団法人東京都建築士事務所協会副会長/2014年 一般社団法人日本建築美術協会会長