初台の家
石井秀樹建築設計事務所
第45回東京建築賞|戸建住宅部門奨励賞
建築主:
非公開
設計:
一級建築士事務所石井秀樹建築設計事務所株式会社
施工:
株式会社アーキッシュギャラリー
所在地:
東京都渋谷区
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
鉄筋コンクリート造
階数:
地上2階/地下1階
敷地面積:
84.22㎡
建築面積:
50.32㎡
延床面積:
105.45㎡
工事期間:
2016年7月〜2017年12月
撮影:
鳥村 鋼一
設計趣旨:
 東西に長い長方形で道路以外の三方は隣家が迫る典型的な都市型敷地である。方位にほぼ正対し北側斜線が最も厳しく敷地全体に作用する。南側採光を礼讃する家づくりでは、南側に庭が広がり開口には深い庇が設けられ、庭と庇にバウンドした光が心地良く室内へと導かれる。模範的な住宅の空間構成だが、現在は庭や深い庇を望む事は難しい。そこで、北側にそびえる反射壁を利用し室内へ光を導くことを考えた。厳しい北側斜線は裏を返せば、自身の建物により日射が遮られない状況が担保されているとも言える。隣家のために頭を垂れるのではなく、反射壁に光をバウンドさせ自分の家に光を導くために身を屈める。反射壁は外部の視線を遮断し水平への抜けを確保する。視線と直射光から開放された北側の大開口はカーテンも不要で常に広がりと開放感を保証する。旧来の模範を疑い北側斜線を再解釈することで、現代都市のプロトタイプとなりうる都市住宅を獲得した。(石井 秀樹)
石井 秀樹(いしい・ひでき)
1971年 千葉県生まれ/1995年 東京理科大学(初見研究室)卒業/1997年 東京理科大学大学院(初見研究室)修了/1997年 architect team archum設立/2001年 石井秀樹建築設計事務所設立/2012年 建築家住宅の会理事
選考評:
 建設地は、短冊状に細分化され、面積90㎡に満たない分譲地の一画で、西側の道路面を除く東・南・北3面は隣家が近接して建てられている。設計者はこうした条件から、外壁面に法的に要求される以外の開口部を設けることを断念している。
 周辺の住宅では、無理やりそうした開口部を設けていながら、ほとんど例外なく隣家との視線を遮るためのカーテンやブラインドを閉じた生活を強いられている。そこで設計者は、北側の斜線制限に沿って屋根に傾斜をつけて屋根の高さを低く抑え、その先の中庭を挟んだ道路と隣地側に、外壁のような塀を立てた。そうして低くした北側の屋根越しに差し込む十分な太陽光を、その広い塀面に当て、そこからの反射光を室内に採り入れている。反射光は、主な生活の場である間仕切りのない2階全体を柔らかな光で明るく照らし、快適な生活空間を生み出している。
 狭小敷地ゆえに、外壁と塀で屋外への視線を閉ざされたことによる窮屈さは止むを得ない。しかし十分な反射光を取り込んだ北向きの室内は、明暗の差がなく、部屋のどこに居ても落ち着きが感じられる。こうした周囲の環境に煩らわされることなく、快適な生活を営むことが容易に想像される設計は、設計者がいう現代都市のプロトタイプの創出に成功しているものと考えられる。(金田 勝徳)
金田 勝徳(かねだ・かつのり)
構造家、株式会社構造計画プラス・ワン会長
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業/1968〜86年 石本建築事務所/1986〜88年TIS&Partners/1988年〜現在 構造計画プラス・ワン/2005〜10年 芝浦工業大学工学部特任教授/2010〜14年 日本大学理工学部特任教授、工学博士