森の段床
SUGAWARADAISUKE建築事務所
第45回東京建築賞|戸建住宅部門最優秀賞
建築主:
非公開
設計:
SUGAWARADAISUKE建築事務所株式会社一級建築士事務所
施工:
株式会社ミズケン
所在地:
長野県上水内郡信濃町
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
2,612.44㎡
建築面積:
52.03㎡
延床面積:
79.50㎡
工事期間:
2017年6月〜12月
撮影:
Jérémie Souteyrat
設計趣旨:
 野尻湖畔に佇む山荘。敷地周辺の豊かな風景と一体化し、時と共に移ろう、大らかで豊かな住まいを目指した。
 大地の起伏と木々の配置に応答するように、積層する5枚の床面を計画した。広さや高さ、素材の異なる床面は、森とのさまざまな関係によって多様な居場所群をつくり出す。重なり合う床面の間には、新しい行為やモノの配置が生まれ、自然×ヒト×モノが漫然一体となった新しい風景をつくる。また、構造フレームでもある柱と横架材は、リノベーションの拠り所にもなる。季節の移り変わりや、住まい手の変化などに合わせて空間を変化させることで、自然と共に成長する暮らしを可能にしている。
 建築物の中でヒトやモノを支える床面を、森や自然と共にデザインすることで、自然に遊び、発見し、学び、暮らすための居場所をつくった。それは正に、湖と森の魅力と一体化し、時間と共に移ろい、風景に開かれた建築のあり方を示している。(菅原 大輔)
菅原 大輔(すがわら・だいすけ)
1977年 東京都生まれ/2000年 日本大学理工学部建築学科卒業/2003年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/2004年 C+A tokyo / シーラカンスアンド・アソシエイツ/2004-05年 Jakob+Macfarlane(フランス)/2006-07年 Shigeru Ban architects Europe(フランス)/2007年SUGAWARADAISUKEを設立/2017年 SUGAWARADAISUKE建築事務所株式会社に改編/2017年〜山梨県景観アドバイザー/2019年〜港区景観アドバイザー/現在、工学院大学・法政大学非常勤講師
選考評:
 野尻湖畔の800坪近い自然豊かな敷地に計画された小さな山荘である。敷地の状況から考えると、平屋でも充分魅力的な建築になりそうだが、設計者はあえて、最小限の建築面積約15坪に5層の床を平面的にずらしながら重ね合わせ、全体を構成している。この建物の最大の魅力は、作品名称にもあるこの段床から生まれる空間の拡がりと変化にある。
 公道から森の中をゆっくり下りながら建物にアクセスすると、小さなデッキがわれわれを迎えてくれた。ここが、この段床の最下段である。建物に入って、今度はゆっくりと上階に向かっていくと、まるで森の中を歩いているような風景をインテリアから楽しめる。
 床材の選定や開口部の大きさについても、森との関係が注意深く考慮され、構造材である現しの柱も外の木々との連続性を強調している。平面的にも、断面的に見ても、床のずらし方が巧妙で、小さなスペースでありながら、住まい手に豊かで多様な居場所がつくり出されている。1,820mmの構造グリッドが、家具や建具の心地よいスケール感を生み出しているが、これは同時に、住まい手による自由な空間編集の手掛かりとなることが意図されているという。
 非常に丁寧に設計された建物であり、森が持つこの場所の魅力と、季節の移り変わりだけにとどまらない住まい手の成長・変化をもプログラムに組み込むことで、豊かな生活の場をつくり上げた最優秀賞にふさわしい住宅建築である。(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立/1990〜2010年 早稲田大学非常勤講師/2011〜13年 同大学大学院客員教授