時の流れる家
SUGAWARADAISUKE建築事務所
第43回東京建築賞戸建住宅部門奨励賞
建築主:
菅原 敏江
設計:
株式会社SUGAWARADAISUKE建築事務所一級建築士事務所
施工:
宗建築株式会社
所在地:
東京都調布市
主要用途:
専用住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
100.08m2
建築面積:
38.62m2
延床面積:
76.30m2
工事期間:
2013年5月〜2014年2月
撮影:
Jérémie Souteyrat
設計趣旨:
 東京近郊に建つ多世帯住宅。都市住宅に見られる「多様な住まい方」と「変化するまちなみ」という特徴に積極的に向き合い、時の流れと新しい関係を築く自由で大らかな都市住宅を目指した。
 閉鎖的な寝室を対角線上に配置することで、敷地全体を屋内/半屋内/半屋外/屋外に変換する。周辺環境とさまざまな距離をもった多様な居場所を組み合わせることで、3世帯から1世帯住居まで、異なる住まい方を可能にする。
また、外皮を特殊金属左官と鋼製メッシュによって構成することで、雨や風、日射といった敷地固有の微気候を風化で記録する、移ろい続ける豊かな外観をつくり上げた。
 この住宅の「住まい方」と「佇まい」を決定するのは設計者ではなく、生活者の住まい方と自然の振る舞いそのものである。本計画が目指しているのは竣工時の真新しさではなく、時の流れに応答しながら存在や意味を積み重ねる、本来のあるべき建築の姿である。
(菅原 大輔)
菅原 大輔(すがわら・だいすけ)
1977年 東京生まれ/2000年 日本大学理工学部建築学科卒業/2003年早稲田大学大学院修了/2004年 シーラカンスアンド・アソシエイツ/2004 – 05年 Jakob+Macfarlane(フランス)/2006 – 07年 Shigeru Ban architect Europe(フランス)/2007年 SUGAWARADAISUKEを設立/2017年 株式会社SUGAWARADAISUKE建築事務所に改編
選考評:
 東京近郊住宅街の100㎡の敷地に建つ、木造2階建て延床76㎡の多世帯住宅である。
 プリミティブな家型で、外装の鉄粉混入左官壁の錆色の風合いとエキスパンドメタルメッシュの透過性が対比をなしている。メッシュは2重構成となっており、外部側は無塗装のため左官壁と同様に錆色の風合いが生れ、内側メッシュは白色塗装となっており周辺環境を柔らかく映し出す。
 総2階建てのボリュームを4分割して、3つの個室とキッチン、中庭、アプローチスペースを市松に配置することで、光・風・視線が通り抜ける平面・断面構成となっており、小規模ながら広がりと開放感を感じさせる。設計者自身と母親を含む3世帯のプライバシーを確保しつつ、適度な交流が期待できそうだ。決して恵まれているとはいえない周辺環境、狭隘な敷地と限られた床面積であるが、変化に富んだ豊かな居住空間が創造されており、設計者の巧みな空間構成力を感じさせる。
 ただ、浴室への日常生活動線となる1階中央の砕石敷床はバリアフリー性に懸念があり、中庭に面する2階共用空間の掃出し窓は転落に対する備えがない。いずれも改修で解決できるが、いっそうの精進を期待して奨励賞が相応しいと考える。
選考委員|宮原 浩輔
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事、一般社団法人東京都建築士事務所協会理事
1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社/現在、同代表取締役社長