南阿佐ヶ谷の家──おおきい小さな家
小石川建築ノ小石川土木(出口亮との共同設計)
第43回東京建築賞戸建住宅部門優秀賞
建築主:
出口亮、出口麻友子
設計:
一級建築士事務所小石川建築ノ小石川土木
(出口亮との共同設計)
施工:
株式会社クリエイトエイ
所在地:
東京都杉並区
主要用途:
住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
82.61m2
建築面積:
41.06m2
延床面積:
81.10m2
工事期間:
2014年5月〜2014年12月
撮影:
鳥村 鋼一
設計趣旨:
 南阿佐ヶ谷に建つ80㎡ほどの「おおきい小さな住宅」である。
 緩やかに新陳代謝する住宅地に「にわ」と名付けた外部空間を設けている。これは、外部空間を介して地域とつながりを持つとともに、周辺との適度な距離感を生み出す場所として機能している。
 内部空間においては、水平・垂直方向の奥行きをつくるため、部屋ボリュームごとに平面形状や高さを設定し、その中心の不定形の部屋を介して接続することとした。そうすることにより奥行きが生まれ、吹き抜けがなくとも身体的な広がりを感じることが可能となった。各部屋は特定用途で固定せず、広さや高さに応じた使い勝手を選択できるようにした。
 外壁は、更新され続ける住宅地の地域性に呼応するよう、亜鉛鍍金鋼板という徐々に周囲に馴染んでいく素材とした。
 心身ともに広がりを感じる「おおきい住宅」であると同時に、周囲との関係を紡いでいく「小さな住宅」であり続けている。
(小引 寛也、石川 典貴、出口 亮)
小引 寛也(こびき・ひろや)
1980年 京都府生まれ/2006年 京都工芸繊維大学修士課程修了/2006年 田口知子建築設計事務所/2011年 小石川建築ノ小石川土木設立
石川 典貴(いしかわ・のりたか)
1981年 栃木県生まれ/2006年 京都工芸繊維大学修士課程修了/2006年 株式会社栗生総合計画事務所/2011年 小石川建築ノ小石川土木設立
出口 亮(でぐち・りょう)
1981年 茨城県生まれ/2006年 東北大学修士課程修了/2006年 大成建設株式会社
選考評:
 若い共働きのカップルが自分たちの住まいを探す場合、以前であれば郊外の一戸建てというのがキマリだったとして、現在はどうだろうか? ――ウォーターフロントのタワーマンションだろうか? この建築家夫妻は違っていた。郊外の住宅地でも分譲マンションでもなく、西新宿の職場にほど近い中央線沿線の住宅地に住まいを求めたのである。
 中央線沿線の住宅地に分譲マンションを買うのと同じ予算で住まいを建てるとなると、敷地面積は25坪、建築費は3,000万円を切ることになる。住まいは3つの2層の直方体ボリュームと、その中央の変形四角柱の4つから構成される。直方体ボリュームの6つの室は浴室、主寝室、倉庫+予備室(1階)とキッチン、リビングルーム、将来の子供室(2階)に当てられ、変形四角柱の部分がそれらを繋ぎ合わせる。2階建て延床面積80㎡を成立させるために廊下は削除される。ただし、この住宅にはいわゆる「狭小住宅」に多くみられるような使命感が感じられないところがかえって新鮮である。すなわち、今日、都市に住むことは義務ではなくひとつのチョイスなのである。しかし、都市に住むからには、周囲の住宅と敵対するのではなく、適度な距離を取り、「にわ」を設けることで、風が流れ、視線が通り、隣人と良好な関係を達成するのもまた当然の作法なのだ――都市住宅もそういった成熟した時代に入ったことを実感させる作品である。
選考委員|渡辺 真理
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学デザイン工学部教授、設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを木下庸子と設立