東京経済大学 大倉喜八郎進一層館
佐藤総合計画
第43回東京建築賞リノベーション賞
建築主:
学校法人東京経済大学
設計:
株式会社佐藤総合計画一級建築士事務所
施工:
大成建設株式会社
所在地:
東京都国分寺市
主要用途:
学校(講堂)
構造:
鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:
地下2階、地上2階
敷地面積:
58,187.37m2
建築面積:
1,675.00m2
延床面積:
3,888.00m2
工事期間:
2014年2月〜2014年9月
撮影:
川澄・小林研二写真事務所
設計趣旨:
 東京経済大学図書館は、鬼頭梓の設計により1968年に竣工した。地上2階、地下2階建てで、1 階は40.5m角の無柱空間となっており、四周はガラス張りで森に向かって開いている。新図書館の完成により用途を講堂に変える改修を行った。
 「床は平らで広いほどよい」という鬼頭梓の思想を反映した開放的な大空間の特徴を活かし、ガラスの箱でできたホールを挿入した。ホールはガラス越しにホワイエやギャラリーと連続し、一体的な利用ができるだけでなく、ステージ越しに森が望めるため、森を背景とした演奏会や講演も可能である。ホールを囲むガラスは、緩やかな角度でジグザグ状に並べ、適切な反響が得られるよう配慮するとともに、森の風景を乱反射させ、建物全体に緑を取り込む。建物外周のガラス面からは柔らかい自然光と潤いのある南東風(卓越風)を取り込むことが可能となっているが、ホールの四周にホール内外の空調吹き出し口を追加し、ファサードのガラスボックスとホールのガラスボックスを入れ子構造とした。
 40.5m角の無柱空間は、鉄板のハニカム構造で覆われており、本改修では、この構造をそのまま利用し、他の新たな諸室も、大空間の中に入れ子状に配置している。
(鉾岩 崇、三井 貴文)
鉾岩 崇(ほこいわ・たかし)
1964年 愛媛県生まれ/1988年 広島大学工学部第四類建築課程卒業/1990年佐藤総合計画入社/現在、同社執行役員アーキテクトサークルプリンシパル
三井 貴文(みつい・たかふみ)
1979年 神奈川県生まれ/2005年 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了/2008年 佐藤総合計画入社/現在、同社上席主任担当
選考評:
1968年に鬼頭梓の設計によって竣工した東京経済大学の図書館が、講堂と大学創設者記念館への用途変更に伴いリニューアルされた。竣工時に日本建築学会賞(作品)を受賞した名建築の原型を残しながら、新しい機能と要望を満たす建築に生まれ変わらせることを目指したリノベ―ションである。
改修前の図書館は、鬼頭梓の「床は平らで広いほどよい」という設計思想そのままに、地上部は40.5m×40.5mの平屋建てであり、屋内は柱のない正方形大空間構造となっている。その大空間は、かつては間仕切り壁のない一部屋の開架閲覧室として使用されていて、室内のどこからでも全体が見通せる空間であった。
その中に遮音性が要求される壁で囲まれた講堂をつくり込もうとすると、それまであった室内空間とは異質なものになりかねない。それを避けるため、設計者はホール全体をガラスボックスとして視線の広がりを確保している。さらに外壁部の大きなガラス面からの陽光と、屋外に広がる森のからの木漏れ日をバランスよく採り入れ、図書館時代よりさらに快適と想像される空間を創出している。
50年前の設計でありながら、古さを感じさせない架構形状や隙のないディティールをそのままに、現代の息吹きを吹き込むことに成功している改修デザイン力は、見事に名建築をよみがえらせている。
選考委員|金田 勝徳
金田 勝徳(かねだ・かつのり)
構造家、一般社団法人日本建築構造技術者協会副会長、構造計画プラス・ワン代表
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業/1968〜86年 石本建築事務所/1986〜88年TIS&Partners/1988年〜現在 構造計画プラス・ワン/2005〜10年 芝浦工業大学工学部特任教授/2010〜14年 日本大学理工学部特任教授