桐朋学園大学音楽学部調布キャンパス1号館
日建設計
第42回東京建築賞一般二類部門最優秀賞
建築主:
学校法人桐朋学園
設計:
株式会社日建設計一級建築士事務所
施工:
清水建設株式会社
所在地:
東京都調布市
主要用途:
音楽大学
構造:
鉄筋コンクリート造
階数:
地上2階/地下1階
敷地面積:
3,305.22m2
建築面積:
1,942.89m2
延床面積:
5,828.91m2
工事期間:
2012年1月〜2014年3月
撮影:
野田 東徳
設計趣旨:
 東京の周縁に広がる典型的な市街地での音楽大学の計画。
 音楽の練習室というと孤立した場が必要かと想像されがちであるが、実際には音楽家たちは他の共演者や観客からの「見る/見られる」ことを思いのほか意識しており、学生達は日常的に視覚的な繋がりと好みに合った響きを求めて廊下や階段室をさまようという。
 ここではレッスン室を廊下に沿って配列した獄舎のような音楽大学の典型的な形式から離れ、各レッスン室や廊下が音響的独立性を保ちつつ、視覚的には混然一体となるような空間を実現したいと考えた。
 まず各レッスン室を2階と地下1階に離隔をとって分散配置し、周辺に対するボリューム感を抑えるとともに、そのすき間を廊下やテラスとすることで各室の音響的独立性を確保した。その結果レッスン室の各壁面が負担する遮音性能を低減させ、各室コーナー部にフルハイトの大きな開口部を設けることを可能にした。レッスン室と廊下、外部空間を視覚的に連続する同質な空間とすることで、敷地全体に音楽の学び舎としての一体感をつくり出した。
 また1階部分は学生のための開放的なキャンパス空間とすることで、上下階の遮音層として利用しつつ、閉塞的になりがちな音楽大学を街に開き、近隣に潤いを与える場となることを目指した。
(山梨 知彦)
山梨 知彦(やまなし・ともひこ)
1960年 神奈川県生まれ/東京藝術大学美術学部建築学科卒業/東京大学大学院都市工学専攻修了/1986年 日建設計/現在、同社常務執行役員設計部門副統括
羽鳥 達也(はとり・たつや)
1973年 群馬県生まれ/武蔵工業大学工学部建築学科卒業、同大学大学院修了/1998年 日建設計/現在、同社設計部長
笹山 恭代(ささやま・やすよ)
1975年 神奈川県生まれ/工学院大学工学部建築学科卒業、同大学大学院修了/2001年 矢板建築研究所/2005年 日建設計
石原 嘉人(いしはら・よしと)
1980年 京都府生まれ/京都工芸繊維大学工学部造形工学科卒業、同大学大学院修了/2006年 日建設計
第42回東京建築賞選考評:
 典型的な郊外型低層住宅市街地に計画された、音楽大学のホールを含む練習室コンプレックスである。
 比較的狭小の敷地に、複数の練習スタジオの間に遮音壁を兼ねた共用空間をたくみに配置することで、開放的な空間を創出している。コンクリート充填構造の柱によるRC構造とは思えない開放的なエントランス空間で、生徒たちが思い思いに過ごしているのを、ガラス壁を通して見ることもできて楽しい。通常の音楽大学の練習スタジオは、密閉された通路のようになることが多いが、ここでは大ホールの楽屋裏のように複雑な空間になっていることも魅力的である。
 計画では3次元CADを駆使して構造、音響計画、環境計画を複合的に設計しているが、さらに音響、光、気流シミュレーションで豊かな空間を創出している点が優れている。
 音楽スタジオでは、可動集成材パネルの配置による音響特性の違いを実験、シミュレーションで解決して、優れた音響特性を得ている。さらに個別練習室の小さな空間でも、音響特性を同上の木製反射パネルの配置で反射音を出すことで、これまでのデッドな個別練習室の音響特性を解決している。これによってピアノの響きなどがややホールに近づくので、演奏者は練習しやすくなるのではと思う。
選考委員|高間 三郎
高間 三郎(たかま・さぶろう)
科学応用冷暖研究所所長
1941年 東京都生まれ/1965年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1967年 同理工学系大学院修士課程修了/1967〜68年 株式会社大高建築事務所/1968〜79年 東京電波株式会社環境設備部長/2002〜07年 東京大学先端科学技術研究センター客員研究員/1972年〜 株式会社科学応用冷暖研究所所長