鎌倉大町の住宅
設計|滝沢茂雄建築設計事務所
第48回東京建築賞|戸建住宅部門最優秀賞
2階リビング・ダイニング。階高約4mの大空間。
  • 2階リビング・ダイニング。階高約4mの大空間。
  • 南側外観。背後の西と北は擁壁の上に雑木林。
  • 1階書斎。1階は梁下2mに抑えている。
  • 2階キッチン。
  • 平面図
  • 断面図
建築主:
個人
設計:
滝沢茂雄建築設計事務所一級建築士事務所
施工:
戸井田工務店
所在地:
神奈川県鎌倉市
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
208.57㎡
建築面積:
57.14㎡
延床面積:
102.02㎡
工事期間:
2019年12月〜2020年6月
撮影:
吉田 誠
設計趣旨:
 鎌倉の⾕⼾の端に建つ、夫婦と⼥の⼦3⼈のための住宅である。敷地の南側は眺望が広がり、北側と⻄側には2mほどの擁壁の上に雑⽊林が⽣い茂る信頼できる⾵景に囲まれている。
 読書好きな家族の数千冊の本や、旅先で集めたたくさんの⾷器や⼩物を収納できること、また多くの友⼈を招くことのできる空間が求められた。そこで⼈と物が⼼地よく共存する場となるよう、扁平柱やツーバイ材を⽤いた家具に近いスケールの構造で空間全体を構成し、本棚や収納の間を回遊できるようにした。
 1階は梁下で2mに抑え、擁壁を内壁と⾒⽴て外に開くことで⽔平⽅向に広がりを感じられるようにし、2階は対象的に階⾼約4mの⼤きな空間とし周囲の景⾊を取り込んでいる。
 雑⽊林は⽇除けとしても機能し、柔らかに降り注ぐ⽊漏れ⽇は季節の移ろいを感じさせてくれる。
 ⾃然豊かな⾵景と好きな物に囲まれ、家族それぞれが⼼地よい場所を選びながら⽣活する。(滝沢 茂雄)
滝沢 茂雄(たきざわ・しげお)
滝沢茂雄建築設計事務所
1980年 埼⽟県⽣まれ/2003年 東海⼤学⼯学部建築学科卒業/2003年 アーキタイプ/2005年 納⾕建築設計事務所/2012年 滝沢茂雄建築設計事務所設⽴
選考評:
 急峻な坂道を登った先に、シンプルな矩形のこの住宅は建っている。延べ床面積30坪ほどの建物内部へ入ると、外観からは想像できないような広がりを感じる。
 敷地の北、西側には雑木林の崖を控え、高さ2mの既存擁壁が巡らされている。1階の梁下高さは擁壁を基準に決められ、フルハイトの開口も手伝って、擁壁が建物内壁であるかのように振舞う。さらに、2階の床は擁壁上の雑木林と地続きとなって、視覚的な広がりを与えている。方位ごとに段違いに組まれた開口からは、雑木林の樹冠や空、遠景の見晴らしと多様な風景が切り取られる。
 扁平柱の現しの構造材は、施主の蔵書や家族の思い出の品々を飾る棚となり、家具レベルに仕上げられている。梁にはカーテンレールが彫り込まれ、筋交い端部は床仕上げレベルで調整されている。窓台交差部、階段ササラ桁の取り合い、床端部見切りなど、各所ディテールはプレカット時点での丹念な調整がうかがえる。
 建物に入って感じられた広がりは、周辺環境の注意深い読み込みから、構造、仕上げ、ディテールに至るまで等価なレベルでの丁寧な設計が建築空間を身体寸法へと落とし込み、その建築が周囲の環境へと溶け込んでいくことで、身体が拡張されるかのような広がりを生んでいると改めて感じた。
 シンプルな建物は設計者の静かな熱意を感じる秀作だった。(石井 秀樹)
石井 秀樹(いしい・ひでき)
石井秀樹建築設計事務所株式会社代表取締役
1971年 千葉県生まれ/1995年 東京理科大学理工学部建築学科 卒業/1997年 東京理科大学大学院理工学研究科建築学科修了/1997年 architect team archum 設立/2001年 石井秀樹建築設計事務所へ改組/2012年~一般社団法人 建築家住宅の会 理事