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設計|御手洗龍建築設計事務所
第48回東京建築賞|リノベーション賞
RC造共同住宅1室の改装。既存の間仕切りを撤去。合板による新たなレイヤーを設けた。
  • RC造共同住宅1室の改装。既存の間仕切りを撤去。合板による新たなレイヤーを設けた。
  • 左奥に「奥の部屋」。右が湾曲する壁面で囲まれた「窓辺の部屋」。
  • 「窓辺のソファ」を見る。
  • 「窓辺の部屋」を見る。
  • 「窓辺の部屋」を囲む湾曲壁上部。
  • 「奥の部屋」窓周りディテール。
  • 「奥の部屋」。
  • 平面図
  • 断面詳細図
建築主:
個人
設計:
一級建築士事務所株式会社御手洗龍建築設計事務所
施工:
株式会社ルーヴィス
所在地:
東京都世田谷区
主要用途:
共同住宅
構造:
鉄筋コンクリート造
階数:
地上6階建て4階部分
延床面積:
74.2㎡
工事期間:
2020年3月〜2020年5月
撮影:
中村 絵
設計趣旨:
 部屋にはもともと沢山の窓があり、その窓辺で陽の光や涼やかな風、緑の葉擦れを日々感じられたらどんなに幸せだろうと想像しました。そこで既存の間仕切り壁と天井を撤去し、躯体の中に、一から窓辺に居場所を紡ぎ出そうと試みました。
 窓周りの壁や梁の面を窓内へ延長するように仕上げの合板を張り延ばしていきます。既存のアルミサッシ枠が隠れることで外の緑が近くに感じられるだけでなく、レイヤーの重なりの中に豊かな奥行きをつくり出そうと考えました。さらに窓辺を囲むように45mm角のツガ材をリブ状に並べ、そこに13mm厚の合板を回します。赤味を帯びた肌理の粗いラワン材が、窓から溢れ込む陽の光の粒をやわらかな濃淡へと変え、得も言われぬあたたかみと落ち着きを感じさせてくれます。また内側の横リブは飾り棚となり、自分だけの居場所が自然とつくられていきます。
 こうして窓辺で居心地を感じながら、家族が幸せな時を共に過ごしていくことを期待しています。(御手洗 龍)
御手洗 龍(みたらい・りゅう)
御手洗龍建築設計事務所
1978年 東京生まれ/2002年 東京大学工学部建築学科卒業/2004年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2004年 伊東豊雄建築設計事務所/2013年 御手洗龍建築設計事務所設立/横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手、千葉工業大学非常勤講師を経て、現在、昭和女子大学・法政大学非常勤講師
選考評:
 今日、分譲マンションの住戸のリノベーションは稀なことではない。新築マンションの住戸プランはステレオタイプ化しているが、それに飽き足らない家族が自分たちの好みに合った間取りを求めて中古マンションを改装するのかひとつのトレンドになっている。この家族の場合は購入した住戸でしばらく暮らした後で、家族の成長に合わせて、このフルリノベーションを決意したそうである。コロナ禍による在宅勤務は改装の動機になったのかという質問には、もともと在宅勤務型のコンサルティング業務だったという回答だった。ただし、駅近のカフェで仕事するのと改修後の仕事部屋の作業の快適度は比較にならない。
 ではどのようなリノベだったのだろうか? 建築家は薄い合板に限りなくミニマルなデザイン操作を加えることで家族の居場所をつくり出した。L型平面の住戸ユニットの角にふたつの円弧上の囲いが設けられている。囲いの内側は父と息子の居場所=仕事部屋と勉強部屋(息子が大学入学後は娘の居場所になる予定)である。囲いの内側は連続する物品棚になっていて、作業デスクとベッドが設けてあるが、入口には扉があるわけでもない。ふたつの円弧空間以外にはリビングダイニングキッチンとバスルームと母と娘の居場所が連続している。シームレスな生活空間の中心は長いI型のキッチンである。料理好きの母がいて、家族が団欒するリビングとキッチンの間に楽しいアクションが繰り返される様子が目に浮かぶ。(渡辺 真理)
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学デザイン工学部建築学科名誉教授、学校法人片柳学園理事、株式会社設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを木下庸子と設立