目黒八雲の長屋
高池葉子建築設計事務所
第46回東京建築賞|新人賞
東側外観。北側より見る。
  • 東側外観。北側より見る。
  • 縁側が巡る北棟2階K住戸。
  • 北棟地階の寝室。
  • 断面図
  • 平面図
建築主:
アートプラン株式会社
設計:
株式会社高池葉子建築設計事務所一級建築士事務所
施工:
株式会社アイガー産業
所在地:
東京都目黒区
主要用途:
長屋
構造:
RC造
階数:
地上3階/地下1階
敷地面積:
396.21㎡
建築面積:
137.01㎡
延床面積:
572.11㎡
工事期間:
2016年10月〜2017年7月
撮影:
中村 絵
設計趣旨:
 東京・目黒の閑静な住宅街の旗竿敷地に建つ、地下1階、地上3階の長屋の計画である。地上部分は周辺環境に合わせ3棟の分棟形式とした。周囲と居住スペースを皮膜1枚で分断するのではなく、敷地内通路、ドライエリアおよび外部階段、縁側スペースといった空隙の帯がグラデーショナルに周囲から距離を取っている。これらの層が連続しながらも、柔らかく区分することを可能とした、パネル状のカーテンで仕切られた「四辺縁側」は、居住スペースを周囲に拡大したり、逆にプライベートに集約したりすることを可能とする。
 構造的には、戸境内壁に建物の背骨として鉛直リブの役割を負わせ、床スラブがなくとも外周耐力壁面外の安定性を確保できるようにしている。その結果、床面の大胆な吹き抜けと、窓としての大開口を設けることが可能となった。都市住民のライフスタイルに合わせて周囲との関係性を構築できる、新たな形式の住まいの提案である。(高池 葉子)
高池 葉子(たかいけ・ようこ)
高池葉子建築設計事務所主宰
1982年 千葉県生まれ/2006年 慶應義塾大学環境情報学部卒業/2008年 慶應義塾大学大学院理工学研究科修了/2008〜2015年 伊東豊雄建築設計事務所/2015年 高池葉子建築設計事務所設立/2017年〜 慶應義塾大学非常勤講師(2017年まで)、工学院大学非常勤講師/2020年〜 関東学院大学非常勤講師
選考評:
 東京、目黒八雲の典型的な戸建て住宅が立ち並ぶ地区に計画された18戸からなる中規模の長屋プロジェクトである。敷地は旗竿敷地のため、前面道路からは広さを感じ取りにくいが、実際には周辺の戸建て住戸の区画よりひと回り大きい。計画の最大の特徴は、建築全体を地下階で一体としながらも、地上部を3棟のボリュームに分割することで、周辺の住宅スケールとこの建物の見えがかりを違和感なく中和させている点にある。このようなまちなみに新しく計画する施設のあり方として高く評価したい。
 隣棟間の幅と高さの関係からか、アプローチは少々閉じ気味であるが、基本的にメゾネットで計画された住戸内に入ると状況は一変する。壁式構造であるが、十字型の戸境壁を主たる構造壁とすることで、床スラブがなくても外周耐力壁面外の安定性が確保されており、吹き抜けや大開口による明るくオープンな空間がもたらされている。
 設計者が「縁側」と呼ぶ住戸内の外周部に設えられた屋外的な感覚の中間領域は、パネル状のカーテンで開閉できるシステムとなっており、実際の面積からは想像できない豊かな内部空間を形成している。審査では、すべての住戸タイプを見ることはできなかったが、多様な住み方が容易に想像できた。
 前面道路から住戸群までのアプローチのまとめ方等、もうひと工夫すべきところはあるものの、新人賞にふさわしいチャレンジングで魅力的な作品である。(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、株式会社プランツアソシエイツ
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立/1990〜2010年 早稲田大学非常勤講師/2011〜13年 同大学大学院客員教授