東京駅丸の内駅舎保存・復原
東日本旅客鉄道(株)東京工事事務所
一級建築士事務所(株)ジェイアール東日本建築設計事務所
第40回建築作品コンクール 東京都知事賞
施工:
鹿島・清水・鉄建建設共同企業体
建築主:
東日本旅客鉄道(株)
所在地:
東京都千代田区
主要用途:
駅・ホテル・ギャラリー
構造:
鉄骨煉瓦造・RC造・一部S造・SRC造
設計趣旨:
東京駅丸の内駅舎は国の重要文化財であるが、駅・ホテル・美術館として日々使い続けられている現役の建築物でもある。重要文化財としての価値を守りながら、建築物としての安全性・機能性の向上を図り、長い将来にわたって恒久的な保存・活用を実現することが設計者に求められた大きな使命であった。
専門委員会という、学識経験者を含むJR東日本が組織した委員会の大きなサポートも受けつつ、重要文化財の現代的活用という、かつてない困難な課題に、施主・設計者・施工者が一丸となって立ち向かった10年間であった。
地震に対する確実な安全性を担保するため構造的には免震工法を採用したが、長さ300m を超える長大なレンガ建造物の免震化は画期的なものである。また毎日数十万人が利用する駅で、ホテルや美術館も含む複合建築としての重要文化財にも前例はない。こうした困難な課題を克服しつつ、東京駅丸の内駅舎は時代を超えて、未来に向け確実に再スタートを切った。
審査評:
1914年に辰野金吾設計で建設された東京駅丸の内駅舎は、1945年の戦災で屋根と内装が焼失し、戦後、応急的に2階建てに復興されたまま60年が過ぎた。解体や高層化が検討されて時期もあったが2003年に国の重要文化財に指定されることで、建物の安全性・機能性の向上を図りつつ、将来に向けて保存・活用を実現することとなった。
保存・復原に際しては、既存の鉄骨内蔵煉瓦造の耐力や変形性能を確認した上で構造体として利用すると共に、戦災で失われた3階部分やドーム屋根を復原した。外壁、屋根、建具は厳密な考証により、建設時の意匠に戻すことを原則としつつ、新たに復元された箇所がわかるようにするという、今日の保存・修復の思想に基づいた工事がなされている。免振化に関しても周到な計画と高度な工事がなされ、免振層カバー上を多くの利用客が通行する個所では、地震時にも安全な通行が可能となるような独特の工夫もなされている。3階部分復原に伴い、ギャラリーやホテル機能の配置を変更することによって、駅、ホテル、ギャラリーという機能が、これまで以上に十全たる形で利用できるように計画上の工夫もなされた。
保存・復原された駅舎は、社会的にも大きな話題となり、東京のみならず日本の建築文化、都市空間整備に対して、重要な意義を持つ。文化性・技術性・歴史性全ての面で極めて重要な作品であり、それ故、「防災、福祉、都市景観などの見地から都民生活の向上を図り、特に秩序ある都市の建設に貢献し、併せて地域環境の維持向上に寄与したと認められる作品」という東京都知事賞の主旨にふさわしい作品であると判断され、東京都知事賞に選定された。
(小林 克弘/首都大学東京・教授)